第16章 孝標女の父、菅原孝標の死

 孝標が帰京して数年後、ついに、娘は結婚した。相手は橘俊通であった。娘が結婚してほどなくして、孝標は病に伏せるようになっていた。その孝標を娘が見舞っていた。

「私が死んだらこのしゃくをお前に授ける。ここに何件か作品が記録されているから、ページビュー伸びる作品に仕上げてくれ」

「だったらね、こうしたらいいと思うわ」

「いま、わしは遺言っぽいことを言ったのに、目の前で答えるの?普通に死んでから実行すればいいんじゃない?」

 孝標女は慣れた様子でしゃくを手にした。

「すでに勝手に使っております」

「人の寝所に入って、勝手にしゃくを持ち出すとは・・・。それにしても、カクヨムはなかなか難しい。『従四位上の貴族が書きました』といったところでページビューが伸びるわけではない。しかし、読んだうえでつまらないならわかるが、ページビューが伸びないのは一体なぜなんじゃ」

「何を書いたのですか?」

「随筆じゃ。最近の作品は『わしの烏帽子と束帯の選び方』じゃ」

 それを聞くと孝標女は気まずそうな顔をした。

「内容がいけないんじゃないですか?そもそも、世の中の貴族は少数で、だいたい平民で、平民は烏帽子にも束帯は関係ありませんよ。あと、もっと、異世界とか転生とか悪役令嬢がとかをタイトルに入れるといいんじゃないでしょうか?」

「なんじゃ、その悪役令嬢とはいうのは・・・」

「悪役令嬢とは、たとえば、漢の劉邦の妻・呂后とか、唐の高宗の皇后・武后とかですかね。『平安時代の上総介じゃが、漢の劉邦の妻・呂后の使用人に転生。科挙に合格して、寵姫を北方騎馬民族から救う』とかどうでしょう?」

「タイトルが長すぎる。転生とか意味がわからん。そもそも、お前は何を書いておるんじゃ?」

「日記ですよ。近況報告にまじめに近況報告するのではなく、日記という作品を作るんですよ」

「なんと姑息な」

「おほほほ」


 その後、孝標は亡くなった。68歳となかなかの長寿であった。その孝標の半生は源氏物語にはまる娘と上総の豪族たちに振り回された人生であった。

 しかし、孝標は意外なところで、後世に彼は名を残すことができた。それは、「菅原孝標女」の父親として後世に知られることとなったのである。

 そして、その父が死んでも、結婚しても、孝標女の源氏物語推し活は終わらなかった。


 もうちょっと、続くぞ。

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