おまけ 孝標女の終活

 孝標女の手元の藍符温アイフォンに通知音が鳴った。新たなフォロワー獲得の通知だ。

 現代人は、大学入試があり、古文の入試科目では『更級日記』よく出題される。その甲斐あってか、受験勉強の追い込みの時期になると、朝から通知メッセージが止まらない。

 しかし、親しくフォローいただいた方からのコメントも、最近はなく、虚しい日々が続く。


 藍符温アイフォンから新たな通知があった。「平安時代歴史物」で週間順位が上昇したというものであった。現在、更級日記は☆69982と、☆7万まであと少しである。

 しかし、上には上がいる。枕草子は☆2600073と☆260万越え、源氏物語に至っては☆4699802と驚きの☆469万である。やはり、この二人の巨匠は格が違う。


 ここで、孝標女のフォロアーで実父の『菅原孝標(従四位上)』から新作公開の通知が入った。生前、孝標は物語を執筆し、公開予約したものが今になって公開されたのだ。西暦の意味が分かっていなかったからである。

 しかし、孝標女は孝標の遺言を思い出した。

「たしか、ページビューがのびる作品に仕上げてくれと言っていたわね。だったら、書き出しに変更を加えますわよ」

 公開直後であったが、孝標女の手により、書き出しは以下のように修正された。


藍符温アイフォンの通知の声、フォロー小説の更新をあらわす

 新規連載の帯の色、星が取れずに完結の理をあらわす

 驕ってくれるサポーターは、いまだおらず

 リワード交換は夢のごとし

 ランキング猛き小説もついにはほろびぬ

 ひとへに風邪の前のチリガミに同じ」


「うふふ、これでよし。あと、題名が『平氏物語』じゃ訳が分からないわ。題名、どうしようかしら。最近は長いのが流行りだから、こうしますわね」


 孝標女の手により、題名は以下のように修正された。


『平忠常が枝豆の精霊として現代に転生。萌えキャラ東北No1の座を巡りずんだ餅の精霊と激しく争う』


 その直後であった、孝標の作品はすぐに☆3を獲得することができた。

「クックック」

 孝標女のこらえ笑いが続いていた。

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上総介菅原孝標は源氏物語推しの娘に日記でも書かせることにした 乙島 倫 @nkjmxp

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