第5話-2

 自転車でわたるの家と言うか俺の実家に着いた結莉おれは、門柱のインターホンを押す。


『はーい』


 あ、ヤバい。これ母さんだ。

 おい航、結莉おれたちが来るってわかってたんだから、ちゃんと出る準備しとけよ。


「あ、あの、航さんのクラスメイトの桜庭さくらばと申します」


 と慌てて答えた途端、玄関の扉が開き、航が飛び出して来た。


「さ、桜庭さん、ごめんっ!」


「ううん、ちょっと早く着いちゃってごめん」


 実は想定より早く約束の10分前に着いてしまっていた。

 少し家の周りで時間調整しててもよかったんだけど、早く家に入りたい気持ちがまさってしまったし。


「自転車はここに置いとけばいい?」


「う、うん、どうぞ」


 玄関の脇に自転車を停め、結莉おれは航に促されるように家へと入った。


「まぁまぁ、いらっしゃい」


「お邪魔します」


 玄関から上がるとすぐ母さんが笑顔でそう言って来たので、結莉こっちも笑顔で返した。

 前の人生では男友達も滅多に遊びに来なかったし、ましてや女子なんて一度たりとも来たこと無かったもんな。

 しかも、敢えて自分で言うけど今の結莉おれ、超可愛いし。いや椿姫ならともかく結莉おれに『超』は言い過ぎか。

 とにかくそんな女子が息子を訪ねて来たなんて嬉しくない母親がいたらむしろヤバいでしょ。

 それにしても、17年前ってだけでも母さん、かなり若いな。

 やばい。懐かしさがこみ上げてくる。


「さ、桜庭さん、部屋はこっちだから」


「うん」


 母さんに軽くお辞儀をしてから二階に行こうとする航について行く結莉おれ

 これもう美少女しぐさとして完璧では?


「ど、どうぞ」


 航にうながされて部屋に入る結莉おれ

 うわぁ……これまた懐かしい。

 ちなみに俺の時代と言うか、俺が東京で就職して暫くしたらもうこの部屋は物置になってたからな。

 なのでたまに帰省しても居間で寝かされる羽目になる。


 とりあえずうながされるままに一番奥に置かれてたクッションに腰を下ろす結莉おれ

 特に意識したわけでも無いのに自然にぺたんと女の子座りになる。

 生足に普通のソックスを穿いて来ただけなのでフトモモも膝もふくらはぎも丸見えだ。

 ……これはちょっと子供っぽかったか? 結莉おまえは小学生か?

 せめてストッキングかハイソックスくらいは穿いてくれば良かったかも知れない。


「部長たちは今バスに乗ってるところで、もしかしたらちょっと遅れるかも知れないって」


 スマホを見た航がそう言った。


「そうなんだ。まぁ、私が早く着いちゃったってのもあるし」


 とは言え、面子メンツが揃わないと手持ち無沙汰ではあるな。


「ところで、今日って一体なんの目的で辻蔵くんの家に集まることになったの?」


「えっ? 桜庭さん知らなかったの?」


「あはは、聞き忘れてて、そのままで……」


 と言うか昨日の放課後は、もう帰って初自慰オナニーすることで頭が一杯だったからなぁ……。


「そ、そうだったんだ」


 と、お互いに苦笑しつつ、航がとをスッと背後から取り出して言った。


「実は、部長がこれを遊びたいって言うから」


「あっ! それっ!」


 それは某格ゲーで有名な会社が出した100メガショックなゲーム機だった。

 これ従兄から譲って貰ったんだよなぁ。


「あ、桜庭さんもこれ知ってるんだ? 部室に持って行ってもよかったんだけど、カセットがね……」


 そう、これの交換カセットはマジで弁当箱並にデカくて重くて、しかも従兄は結構なマニアだったんで、30本近く本体と一緒に貰ったんだよね。

 べつにおれになんてくれないで売れば良かったのに。

 でも確かにこれを学校に持って来るのは小分けするにしてもしんどい。


「でもこれって復刻機ミニが出てたよね?」


「うん、それは部長も持ってるんだって。でも本物で遊びたいって」


「なるほどねー」


「……遊ぶ?」


「それは部長たちが来てからでいいかな」


「そ、そうだよね」


 ちょっと困ったような航。

 まぁ、女子と二人っきりは手持ち無沙汰と言うか緊張すると言うか気不味いかもな。


「それよりこの漫画読んでいい?」


 なので結莉おれは本棚を指差してそう聞いた。


「あ、うん、どうぞ」


「と見せかけてー、ベッドの下のエッチな本チェーック!」


「無いよっ!」


 うん、いいツッコミだ。

 まぁ、本当に隠してある場所は知ってるんだけど、それを当ててしまったら色々とマズいしな。


 と、そこでスマホに通知音。


「あっ、部長たち、もう近くまで来てるみたいだから迎えに行ってくるよ。待ってて」


「私だけ置いてっていいの? 本当にエッチな本探しちゃうよ?」


「な、無いから、探さないで……」


 航は後ろ髪引かれるように部長たちを迎えに出ていったのだった。

 それを見送ってから結莉おれは早速、航の部屋の探索を始める。


「確か、ここに…………やっぱりあった!」


 エロ本って言うか、グラビアアイドルの写真集なんだけどね。

 二次オタのおれにしては珍しくリアルでも好きなグラドルだったんだよな。これまた懐かしい。


 ……て言うか、待った。

 このグラドル、おっぱいデカいな?

 おれって高校の頃は『おっぱい星人』だったのか?

 歳を取るにつれて女性の趣味も変わっていったから、すっかり忘れていた。

 これはマズいな……。

 結莉のデカパイのせいでわたるに惚れられてしまう確率が急に高まったぞ?

 これはなんとしても瀬戸先輩の方に興味を向けさせねば。


 結莉おれはそっと写真集を元の隠し場所に戻して、おとなしく部長たちの到着を待つことにした。



 ◇   ◇   ◇   ◇



 手持ち無沙汰でベッドの端に背を預けてだらけて待っていると部長たちがやった来た。

 瀬戸先輩は、白シャツにベージュのVネックベストを合わせ、同じくベージュのふわっとしたロングスカートで、正にガーリーな感じが良く似合っているし、改めて見て、これ結莉おれが着ても似合わないなって思った。

 ちなみに部長や航の服装については誰も興味無いと思うので割愛スルーさせて貰う。


 部長たちが着いて、航が飲み物と菓子を持って来て、いよいよゲーム大会のスタートだ。

 とは言っても主に部長と航がプレイしてるのを結莉おれと瀬戸先輩は観戦しつつ、たまに参戦する程度だったけど。


「……辻蔵くん、ちょっとトイレ借りていい?」


 急な尿意に見舞われた結莉おれ


「あ、それなら追加の飲み物を取って来るから案内するよ」


 いや勝手知ったる我が家なんだけど、まぁ、いいか。

 結莉おれは航に先導されて一階へと降りて行った。

 二段先を降りて行く航と、ちょうど身長差が普段と逆転した感じになって、航はこんな風に結莉おれを見下ろしてるんだなってなった。

 と、その時──


「きゃっ」


 最後の段を踏み外した結莉おれはつんのめって、慌てて振り返った航の胸に飛び込んだ。


「だ、大丈夫っ!?」


 結莉おれは完全に航にハグしてる状態だけど、足は痛めてない。

 だから、さっさと離れればいいんだけど……。


「さ、桜庭さんっ?」


 むしろギュッと航にしがみついた。


「えっ、えとっ……」


 狼狽うろたえる航。

 航にハグ状態の結莉おれ


「……あっ、ごめん。男の子って見かけによらずガッシリしてるんだなぁって感心しちゃってた」


 ゆっくりと航から離れつつ結莉おれはそう言った。

 これは本音だ。

 男同士で抱き合う機会なんて滅多に無かったし、そもそもゴツい同士だしで、なんだかすごく新鮮な感触だったんだ。

 女体になって初めて男の体を意識したってことかな?

 うっ、これってなんだか心が女になりつつあって怖いんだけど、気のせいだよな……?


「そ、そうなんだ……。あ、トイレはそっちだから」


「うん、ありがと」


 そして結莉おれはトイレに向かいつつ思う。

 あれ? 今のってもしかしてあいつにとってはラッキースケベイベントじゃね? と。

 いやスケベってほどのことにはないけど、結莉おれのこのデカパイは、セーター越しとは言え、むぎゅうっと航の胸に押しつけられたはずだ。

 うらやましいなわたる! そんな体験を俺も高校時代にしたかったよ!

 これは今夜のオカズを無償で提供してしまったかな? 勿体無い。


 って! ダメダメっ!

 ニヤニヤしてる場合じゃないよ!

 わたる結莉おれをオカズにいたしてるところを想像したらちょっと寒気が走ったぞ。

 くぅ……男の生態を熟知してるが故に、こんな悩みまで抱えるとは……。

 どうせならせめて瀬戸先輩の方をオカズにしてくれよ! これはこれで酷い言い方だけどさ。

 せっかく来てくれた瀬戸先輩が全く隙の無い服装だったことが本当に悔やまれる。

 もっとその隠された武器を航にちらつかせて欲しかった。


 ……さて、とか勝手なこと言いたい放題しておいて結莉おれ結莉おれで今夜もいたしてしまったことを、反省も込めて報告しておく……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る