第7話-3

 翌日。


 椿姫と会った時にどんな顔をすればいいのかわからなかくて正直登校する気力が低かったんだけどさいわいにも椿姫とクラスは違うので頑張って登校した。


 それにしても、まだ4月なのに急に暑くなり始めていてブレザーを着て来ない生徒もチラホラ見かけるし、教室に来てから脱いでいる生徒も何人かいる。

 そもそも2043年に生きてた俺の感覚からしたら春なんて4月頭くらいまでで、それ以降はもう初夏だったもんな。


 それはともかくいよいよ薄着シーズンを迎え始めると遂に結莉おれがデカパイなことが男子全員にバレてしまう。

 いや既にバレバレな気もしないでもないけど、確信までには至ってないだろうと言う前提で。

 で、正直これは悩ましい。

 それでなくても自画自賛的美少女なのに更にデカパイ属性追加とか、お近づきになりたい女子ランキングが急上昇してしまうではないか。

 俺は男になんかモテたくはないんだ。だって心はまだ男のままなんだ。


 とは言え、じゃあ女子にはモテたいかと言うと、それもちょっと違う。

 勿論好かれはしたいが性的にモテたいとは思わないし、結莉おれから食いに行くつもりも湧かない。

 そこは男というかおっさん視点になってしまって、どうしても保護者的な目線になってしまうのだ。


「ね、ねぇ、桜庭さん、昨日はどうだった?」


「えっ!? あっ、う、うん、た、楽しかったよ……」


 いきなり航に話しかけられてキョドってしまった。

 そこにつっこまれるとどうしても忘れたいを思い出してしまうし。


「そ、そっか。よかったね」


 ……ん? なんか奥歯に物の挟まったような返しだな?


「もしかして、本当は辻蔵くんも行きたかったの?」


「えっ!? ち、違うよ、とんでもないっ! ただ、ちょっと気になって……」


「何を?」


「も、もしかして僕って、ゆ、百合の間に挟まる男、なんじゃないかなって……」


 結莉おれは思わず無言で航の頭にチョップを叩き込んだ。「ビシッ!」と自前効果音オノマトペ付きで。


「違うから」


 勿論、椿姫とはそんな関係じゃないと言う意味でだ。


「ご、ごめんっ」


「……いや待って。男子にはそう思わせといた方が都合が良いかも?」


 以前椿姫が「利用してもいい」と言ってたのはこう言うことかも知れないな?


「さ、桜庭さん……?」


 んー、でもなー、百合だと思われるのもそれはそれでリスクはありそうだよなー……。

 下手な偽装は後で痛い目に遭いかねないし、やっぱり余計なことはしないに限るか。


「いや、違うし気にしなくていいし今の会話は忘れて」


「う、うん、ごめん……」


 はぁ……高校生の恋愛事情は面倒だねぇ……。



 ◇   ◇   ◇   ◇



 昼休み。


 結莉おれ典子のりこに呼ばれて服飾部に来ていた。

 結莉おれとしても衣装コス製作のお礼を部員たちに言いたかったし、ちょうどいい。


「皆さんのお陰で無事にお披露目できました。ありがとうございます」


「私たちも楽しかったし、気にしないで」


 そして服飾部の部長は続ける。


「ところで桜庭さんに相談があるんだけど、ズバリ! 服飾部うちに入部しない?」


「えっ!?」


「漫画アニメ同好会との兼部は可能かと思います」


 典子がフォロー。いやそれフォローか?


「えーと……実は私、裁縫はダメダメで……」


 元おっさん俺としては取れてしまったボタンを着けるので精一杯レベルなんだ。


「それは入部すれば上達するとは思うけど、そうね、つまり今はあまり気が乗らないってことよね?」


「ええ……そうですね……」


「じゃあ、服飾部うちの専属モデルになってもらうだけでいいわ」


「はい?」


 あ、もしかしてこれ『ドアインザフェイス』ってやつですか?


「桜庭さんに合いそうな衣装を作る時には、試着係よろしくね♪」


「いやいやいや! 私合わせで作らないでくださいよ!」


「ですが桜庭さんなら似合いそうな低身長巨乳な人気キャラは結構いますし」


「くっ……」


 典子め……事実とは言えズバリそう言われるとなんかしゃくだな。

 て言うか巨乳はともかく身長は150あるから「低身長」って断言するほどじゃないだろ。多分……。


「そう言うわけで、桜庭さん、今後ともよろしくね♪」


 『専属モデル』とか物は言いようで実際には『専属着せ替え人形』なのはわかり切ってますよ!?

 しかし、服飾部の部長に笑顔でそう言われて手を取られたら……。


「……はい」


 結莉おれはそう答えるしか無かったのだった……。



 ◇   ◇   ◇   ◇



 今日はスタートからライフはゼロよ状態だったのに、服飾部の一件でマイナスにまで落ち込み、もう生理の時みたいに放課後はさっさと帰りたかったんだけど椿姫に捕まってしまい、結莉おれは連行されるように部室に来ていた。

 部長と瀬戸先輩、そして航もいる。小津はたまにしか来ないスタンスらしいし今はべつにいいや。


「実は昨日の私の誕生日で結莉ちゃんがコスプレを披露してくれたんですよ」


「おいぃっ!? 何いきなりぶっちゃけてるんですか、この子はっ!?」


「へぇ、さすがだね桜庭くん」


「そうなんだ。それは見たいなぁ」


「……」


 航だけノーリアクションだが、気にしている場合ではない。


「ダ、ダメですよっ!」


「じゃあモニタに出しますねー」


「こらぁっ!!」


 しかし結莉おれが止めるのも聞かずに手早くスマホを繋げ、そして32インチモニタに映し出された昨夜の結莉おれの動画。


「“アンタの期待に応えるのなんてチョーカンタンなんだからねっ♪”」


「あああああっ!!」


「“あれあれー? ドコ見てるのー? もしかしてアタシに気があるんじゃなーい? ちょっとキモいんですけどー?”」


「こ、ころしてっ……」


「“アンタだけがアタシのことちゃんと見てくれたから……セキニン取ってよね?”」


「ゆるして……」


「“さぁ、悪い鬼さんはぜーんぶまとめてぴょんぴょんショーターイム!”」


「なんでも言うこと聞くからもうゆるしてぇぇぇっっ!!」


 しかしその拷問は結莉おれの懇願も虚しく、それから10分近くに渡って続いたのだった。

 て言うか、結莉おれ、そんなに長くやってたのか。そりゃ精神こころも削れるわ。


「いやぁ……何と言ったらいいのか……桜庭くん、さすがプロだね」


「勝手にプロ認定しないでくださいっ!」


「あ~、桜庭さんが可愛すぎてドキドキしちゃった」


「ですよね! 結莉ちゃんにメロメロになっちゃいますよね!」


「やめて……」


「…………」


 航に至っては口を開けたまま硬直してて、逆にどう言う感情なのか気になるところではある。

 余談だがこの動画、映像はともかく音声はカメラの手前でキャーキャー大興奮で叫んでる椿姫の声がかなりうるさくて結莉おれのセリフはそれほど目立ってはいないのが不幸中の幸いではあった。


「大丈夫。この動画は私の宝物だから他人に見せたりしないよ」


「今みんなに見せといてそれを言えるのが信じられないよ!」


「だって、可愛い結莉ちゃんが悪いんだよ?」


「しかもなんか私のせいにしだしたし」


 そもそも椿姫は結莉おれよりも更に美人だろうが……。


「だからまたコスプレしてね☆」


 そう、だからここで「やだよ!」と叫ぶのは簡単だが、結莉おれは反撃を試みた。


「……姫ちゃんが一緒だったら考えとくよ」


「……」


 お? さすがに口ごもったか? 反撃成功? 前も確か事務所的にどうとかで断ってたよな?


「……じゃあ私はエリスでいいかな?」


「はい?」


「私のコスプレだよ。辻蔵くんはどう思う?」


「え? あ、うん、キャラとも合ってると思うよ」


 おい、いつの間に復活してたんだよ航。


「そうだね。霧山くんがやるならエリスだね」


 確かに部長の言う通り、ゲーム内でもハイレベルの美少女キャラだけどさぁ。


「確かその子って桜庭さんがやってたキャラとコンビの子だよね? 私も良いと思うな」


 そう、正に狙ったようにそれなんだよなぁ。て言うか瀬戸先輩もこのゲームやってたのね。


「ですよね! じゃあそういうことで!」


「いやちょっと待って!」


「私も一緒ならまたやってくれるんでしょ?」


「やるとは言ってないし、ちょっと待って!」


 考えるって言っただけなのに都合良く拡大解釈されてる!


「早速ノリちゃんに伝えとこっと♪」


 そう言って早速スマホでLINEする椿姫。


「待って待って待ってーっ!!」


 今、服飾部に伝わるのは非常にマズい!


「結莉ちゃん、一緒に楽しもうね♪」


「あぁぁ……」


 もう逃げられない運命と悟りつつも精一杯の抵抗を試みる結莉おれだったが、その後の結果については、敢えて語るまでも無いだろう。


 結莉おれのやり直し人生、なんだか変な方に向かってないか? これ大丈夫なのか?

 ごく普通の高校生日常モノにプラスしての知識や中味おっさんとしての分別を使ってたまにドヤるくらいで良かったのに『コスプレ女子高生モノ』に路線変更されてないか?

 だとしたら、とにかく早めに方向性を修正しないと、取り返しのつかない事態になりかねない!

 これは一度、神様に相談してみた方が良いのかも知れないな……。


 あぁ、結莉おれの人生、やり直してまだ一ヶ月も経ってないのに、これから一体どうなってしまうんだろう……。


【第7話 終わり】

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