第6話-3

 ミッションとか大袈裟なことを言ったけど所詮しょせん長野ここは地方都市だ。

 高校生がプレゼント用の買い物をする店の選択肢などたかが知れている。

 とりあえず新宿とかまで出たら選び放題な都会と一緒にしてはいけない。


 そんなわけで結莉おれは強引にわたるに先導させて駅ビル内へと入って行った。


「とりあえず、どんな方向ラインで考えてるの?」


「えーと……アクセサリーとかキャラグッズは好みに合わない可能性があるから、無難に文房具ステーショナリーとかかなって……」


「なるほど、その考えで間違ってないとは思うけど」


「けど?」


面白味インパクトには欠けるかなって」


「だからって、さすがに沢庵は……」


「沢庵のことは忘れて」


 とは言え航の意見は手堅く無難なところではあり、ここは失敗は避ける方向で行くべきなのか?


 ……いや、やはりそれでは

 だったら……。


「ちょっと考え方を変えてみよっか」


「えっ?」


「例えば、椿姫に『なんか面白い漫画を教えて』って言われたら、椿姫が面白がってくれそうな作品を考えて選ぶでしょ? そこでもし『合わなかった』って言われても、それはそれでいいの」


「いいのっ!?」


「だって椿姫はそこで『もういい。辻蔵くんには聞かない』って言う子じゃないでしょ?」


「そ、そうかもだけど……」


 我儘わがままなお姫さまのようでいて絶妙に気が利くのが椿姫のすごいところなんだよな。

 下手したら中味おっさんな俺よりも気遣いできてる。


「だから私たちは、椿姫のことを考えて、自分が良いと思った物を、ネタには走らないけどちょっとした面白さは加味して、選べば良いんじゃない?」


「ぐ、具体的には?」


「そこは自分で考えてほしいかなー」


「は、はい……」


 そうでないと航に成長してもらうという目的が薄れてしまう。

 これはあくまでも『辻蔵航おれ育成計画』の一環なんだし。


「ちなみに女子高生が貰って嬉しいプレゼント1位は……コスメだって」


 スマホで検索した結果を結莉おれが口に出した瞬間──


「む、無理だよっ!」


「うん、無理だね」


 互いに苦笑した結莉おれと航だった。


 だって椿姫はそっち系のプロを目指してるわけで化粧メイクにだって多分かなり詳しいだろうから、結莉おれが太刀打ちできるとは全く思えない。

 姉妹のいない航なんて言わずもがなだ。

 ちなみに結莉おれは自室のクローゼットに入ってたスキンケアの化粧水とクリームしか使ってない。

 むしろそれを使ってるだけでも褒めて欲しいレベルだけど、リップくらいは買っといた方が良いのかも知れない。

 美香にでも相談してみよう。


「後はやっぱり文房具ステーショナリーとかみたいだね」


「でも、それはダメなんだよね?」


「ダメじゃないけど最後の保険かな。だから、もう少しだけ椿姫のためにがんばってみよ?」


「う、うん、わかったよ」


 て言うか、自分で言っといてなんだけど、航の椿姫への思い入れ度が不明だったな。

 そこは確認しておいた方が良いか?


「ちなみに辻蔵くんは、カノジョにするなら私と椿姫と瀬戸先輩の内の誰?」


「えぇっ!?」


「直感で」


「って言われても、彼女とか考えたこともなくて……」


 つらいほどよくわかる。

 高校生の時のおれは、彼女どころか友人すらできないぼっちだったからな。

 でもは同好会にだって入ったし、とは違うだろ?


「じゃあ今考えて」


「えぇ~…………う~ん…………」


 悩んでる悩んでる。て言うか、そんなに悩むか?

 まさか、目の前に結莉おれがいるから結莉おれを選ばざるを得ないとか思ってないだろうな?

 しかもさっき調子に乗って『初デートってシチュで』って言っちゃったしなぁ……。


「私に気は遣わなくていいから」


「……じゃ、じゃあ、瀬戸先輩、かなぁ」


「だよね!」


 いや、『だよね』じゃないが。それじゃ質問の意図から外れてるだろ。

 そもそもどうして瀬戸先輩を選択肢に入れた。


「ごめん。ただ辻蔵くんが椿姫のことどう思ってるか聞きたかっただけだったのに質問失敗した」


「えぇ~……」


「今の話は忘れるから、椿姫のことどう思ってるのか簡潔に」


「どうって、美人だなぁって……。あ、でも桜庭さんと絡んでる時は面白い人だなって」


 そう言えば最初に椿姫と会った時、お笑いコンビを目指そうって言われたな……。


「うん、だんだん椿姫に気を遣うのが馬鹿らしくなってきたから、やっぱりもう沢庵でいいかな」


「それはダメだよっ」


「じゃあ椿姫のためにちゃんと選んでね」


「あ、はい……」


 とは言え、いきなり丸投げも新人教育としては悪いやり方だな。

 少しは具体的なアドバイスもしておくか。


「とっかかりで、最初は保険の文房具ステーショナリーに目をつけといて、そこからレベルアップしていくとかはどう?」


「あっ、それは良いかも知れないね」


 こうして結莉おれと航は、文房具ステーショナリーコーナーへと向かって行った。



 ◇   ◇   ◇   ◇



 そんなこんなでなんとか椿姫へのプレゼントを決めた時にはもう昼を過ぎていて、そのまま解散ってのもなんなので結莉おれたちはパン屋のイートインスペースで軽食休憩していた。


「ちゃんと買えてよかったね」


「う、うん、後は渡すだけだけど……」


「それは部活の時でいいんじゃない? それまでロッカーにでも入れとけば」


「そ、そっか。そうだよね」


 まさか休み時間とかに渡す想定だったのか?

 それはおまえにはハードル高いどころの話じゃないだろ。

 ただ、それもまぁ、男子高校生らしい視野の狭さ故かも知れないので責めはしない。


「ところで、この後ってなんか予定あるの?」


「あ、うん、アニイトに寄って行こうかなって」


「あー、せっかく駅前に出て来たんだしね」


「うん、それに『倒鬼の剣』の新刊も出てるし」


「へー。じゃあ私も一緒に行こうかな。それに──」


「それに?」


「結局、全然デートっぽいことしてもらってないしー」


 結局、つきっきりとは言え、ただ買い物してただけだし。


「えぇっ!? そ、それは、やっぱり無理って言うか……」


 まぁ、むしろ結莉おれとつきっきりで行動できただけで今回は褒めるべきかもな。


「あーあ、やっぱり瀬戸先輩がお相手じゃないと、その気にならないかー」


「そ、それは忘れてくれるって言ったのに!」


「ダイジョーブ。ちゃんと応援するから」


「はぁ……」


 がっくりとため息をつく航。

 でも安心しろ。

 俺だって男の魂としては瀬戸先輩が一番タイプだから、本心で応援するに決まってる。


 そんな駄弁りを終え、結莉おれたちはアニイトの入っているビルへと向かった。

 先週美香たちと来た時はむしろアニイトを避けるように見て回っていたけど今回は直行したので、すぐに該当階へと辿り着いた。

 さぁ、いざ、超久しぶりのオタク向けショップへ……ん?


「辻蔵くん、ちょっと待って!」


「うわっ!?」


 結莉おれは、のんきにアニイト入りかけていた航を慌てて物陰に引っ張り込み、そっと顔を出す。


「……あれって小津おづくんだよね?」


 そう、またもや、最早運命的に小津と遭遇してしまったのだ。

 小津のやつ、先週窮地に陥りかけたのに危機意識が低いじゃないか?

 まだ四月だぞ? そんなんでよくは二年近く隠し通せてたな。


「そ、それより、桜庭さん……」


「何?」


 それより? 何か更に問題が起きたか?


「あ、当たってる……」


「ん? ……あっ」


 見ると、引っ張り込んだ際に取った航の腕に、結莉おれのデカパイが当たっていた。

 いや、これもう当たってるとかのレベルじゃない。

 むにゅう~っとデカパイが潰れるほどガッツリもっちりと押し当てられていた。

 航にラッキースケベを与えてしまったのは、これで二回目だぞ!?

 このままでは結莉おれがカラダで航を口説こうとしてると思われかねん。


「あ、あははっ、黙ってたらよかったのに」


 と苦笑しつつ航の腕を離す結莉おれ

 いっそ結莉おれが自分で気づくまでそ知らぬ顔をしていて欲しかった。


「そ、それはなんか失礼だし……」


 えっ? おれって高校の頃はこんなに生真面目だったのか!?

 もう人生に希望も無くすり減るだけのおじさんにも、こんな純粋ビュアな頃があったなんて……。


 それにしてもこのデカパイ、距離感が掴みづらくてギリ避けられたと思ってても、ちょいちょい物に当たるんだよな。

 多分美香たちにも当たってたことがあったと思うけど、指摘されたのは今回が初めてだ。

 特に男子に対しては気をつけないと痴女だと思われかねないので、むしろ指摘してくれて感謝だよ、航。


 って、そんなことより、今は小津だ!

 航も一緒にいるし、これはまたと無い大チャンスだろ!


「辻蔵くん、そ~っとゆっくりステルスで私の後ろにピッタリついて来て」


「えっ、あ、うん」


 結莉おれは背後から物色に熱中してる小津の背後にそーっと近づき、そして──


「……小津くん」


「!?」


 そっと囁いただけで凄い勢いで振り返った小津。

 その視線の先には結莉おれと航。


普通の書店には置いて無かった漫画を探しに来たの? ?」


 敢えてわざとらしく二回言う。


「うっ……」


「私の言いたいこと、わかるよね?」


「くっ……」


 それだけを小津に伝えて結莉おれは航に振り返る。

 航は結莉おれと小津との会話が飲み込めないのか、ぽかーんとしてた。


「辻蔵くん、探してた本あった?」


「あっ、多分、あっちの新刊コーナーに」


「じゃ行こっか」


 そして結莉おれは、もう一度小津に振り返り、ダメ押しをしておく。


「月曜の放課後、で待ってるからね」


「……」


 小津からの返事は無かったけど、結莉おれたちはその場を後にした。

 ちなみに航が買い物を終えてから念のため見回ってみたけど小津の姿はもう無かったのだった。


【第6話 終わり】

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