定規
手探りで、髪の毛をまとめる。
結び目の周りに髪を巻きつけたものの、毛がぴょんと飛びだす感触がして、
「やっぱり、ボブだと短い毛が出てきちゃうなあ」
「フミさん、お出かけですか?」
「ううん。明日に向けて、簡単で、邪魔にならなくて、崩れにくい髪型を検討中です」
「ああ、キャンプ」
「そう、キャンプ」
休日出勤せざるをえなかった日にその元凶がキャンプを楽しんでいたという事実が、自分で思っていたよりも恨めしかったらしい。会社を辞め、休みを満喫すると決めたとき、真っ先に浮かんだのがキャンプだった。
オンラインショップで必要なのものを揃え、キャンプ場を探し、予約できた日がいよいよ明日に迫っている。
「ケイちゃんも、まとめていったほうが楽じゃない? 長いから、どんなのでもできるよ。これとか、似合いそう」
簡単まとめ髪で検索した画像を何枚かケイに見せた。
「かわいい。すごい、どうなってるか全然わかんない。……あの、フミさん、に、お願いしてもいいですか?」
え。予想外の言葉に、一瞬かたまる。
それから、「いいよ! もちろん! 私でよければ。やらせて。今から、やってみてもいい? お試し。ちょっと練習させてほしい」全力で快諾した。
ケイから何かをお願いされるのは初めてだ。どうしたって、はりきってしまう。
「ケイちゃんの髪の毛、さらっさらだね」
長い銀の髪は、定規を使って一本一本引いたかのように真っ直ぐだ。
細くピンと張りつめた様は彼女自身を表しているようで、不意にぷつりと切れてしまわないか心配になる。
「ふふ。人に髪を梳かしてもらうの、不思議な感じ。気持ちいいです」
くすぐったげな声は、伸びやかだ。
わしゃわしゃと撫でまわしたい衝動を堪え、芙弥は優しく緩くその髪を編み込んだ。
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