最期の夏休み 青鼠色の町
古い木の家が並ぶ漁村は、錆びたトタンの青鼠色の町だった。
いつの時代の物かも分からないブリキの看板やビールの宣伝ポスターが沢山残ったその町は、僕らをレトロな世界にタイムスリップさせてしまったんだ。
本当にタイムスリップ出来たら、僕の憂鬱な性格も、少しはマシになるのだろうか?
僕がそんな事を考えてるなんて気にもとめずにさ、彼女は僕が一歩歩く隣で、パタパタパタって三歩歩いて、サンダルの軽やかな音を響かせる。
まるで遥か彼方からやってきた未来人みたいに、時の止まった青鼠色の町の中で、彼女は眩しい光を放ちながら、未来の音を響かせるんだ。
細い路地を、僕らは肩を寄せながら歩いてさ、曲がりながら上へと続く石の階段を上って、おばあちゃんの家がある丘の上へと向かっていったんだ。
丘の上から見える町は、ジオラマとか、ミニチュアみたいに現実感が無くてさ、向こうに見える海は、見たことないくらい青褪めててさ
綺麗だった……
涙が出そうになるくらい、綺麗だった。
隣に彼女が立ってるんだぞ⁉
僕の手を握って「シシシ」って笑う、世界で一番可愛い彼女と、僕はミニチュアの世界と果てしない海を眺めてるんだぞ⁉
それなのに、この手を握る汗ばんだ手も、風に漂う彼女の匂いも、本物のなのに
どうしてこんなに切ないんだろう?
泣きそうになるんだろう?
クゥクゥ……って、遠くでカモメが
本当にタイムスリップ出来たら、きっと僕の涙は止まるのに。
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