モノローグ

 紗香の病名はmRNA変異性タンパク線維化症というものだった。


 体内で変異したmRNAが正常なタンパク質を造らずに線維化したタンパク質を生成してしまう難病。


 発症すると数年かけて身体が樹のようになることから、樹化病と呼ばれていた。


 発症の殆どがアジアに固まってることから、なんらかの環境要因で遺伝子が突然変異を起こして発症することは当時から分かってたんだけど、誰に発症するのか、何がトリガーになるのか、そもそも原因物質は何なのかが分からず、有効な治療法は見つかってなかったんだ。


 僕はほとんど高校には通わず紗香と行った図書館に入り浸って医学部に入るための勉強と遺伝子工学の猛勉強をした。


 そして大学に入ったら、直ぐに樹化病研究の第一人者だった教授の研究室の扉を叩いたんだ。


 頭を下げて、泣きながら紗香の話をしたら、教授は快く僕を迎えてくれた。


 忙しい合間を縫って僕は毎月欠かさず、紗香と行った神社に御参りしてたんだ。


 人に恵まれたこと、研究に必要なデータが揃ったこと、原因物質が特定できたこと。


 そのどれもが、僕の力の及ばない奇跡だった。


 あの日二人でさ、神社に行ってなかったら、こんな奇跡は起きなかったんじゃないかって、僕は思うんだ。


 だってさ、僕の幸運は、紗香に出会った時に全部使い切っちゃったはずだろ?


 だからさ、きっと神様は、紗香の願いを聞いてくれたんだ。


 僕がずっと笑顔でいるためには、絶対に、紗香が必要だから。



 僕はこれからも、君の声と歩いていく。


 くしゃくしゃの笑顔と、繋いだ手の温もりと、君の声と、歩いていく。




 もう二度と、離したりなんかしない。


 


 


 

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