砂浜
波の音がする。寄せては返す波の音がする。
二人で隣あって砂浜に座り、波の音に耳を澄ませる。彼女は僕の肩に頭を乗せて、形の良い耳を露わにしながら、嬉しそうに目を閉じていて。
なのにどうしてこんなに切ないんだろう。
普段ならやかましく喋りまくる癖にさ。
こんな時に限って彼女は、静寂を楽しむみたいに、貝みたいに口を閉ざして黙ってしまう。
言いたいことが、本当は山程あるんだ。
どうでも良いことや、僕の言いたくないことは聞きまくるくせに、どうして今は黙ってるの?
聞くなら今ですよー?
彼女の真似をしながら、心の中で言ってみる。
知っますよー。
まるでそう言うみたいに、彼女はゆっくり瞼を開いて、僕を上目遣いに見上げた。
「シシシ……潮風が気持ちいいね」
うん。
僕が黙って頷くと、彼女は満月に照らされた黒い海を指さした。
でっかい月が、波に揺られて滲んでいた。
今夜は月が綺麗ですね……。
思わずポツリと僕が呟くと、彼女は満月よりも目をまん丸に光らせて僕をまじまじと見つめていた。
そのほっぺたがさ、みるみるうちに桜色に変わっていくからさ、僕は嬉しくて、泣きたくて、恰好をつけて言ったんだ。
今夜は桜も綺麗ですね。
「シシシ…何それ!? 季節外れー!」
珍しく彼女はその意味を知らないみたいだった。
そんな彼女に気分を良くした僕は、波間に揺れる滲んだ月を見ながら教えてやった。
桜が綺麗ですねって言う意味はさ……
またここで会いましょう……
って意味なんだよ。
それを聞いた彼女は、しばらく自分の両手で、自分を抱きしめながら、足をバタバタさせて砂を蹴ってた。
僕はきっと間抜け面でそれを見てたんだと思う。彼女は突然立ち上がると、そんな僕の手を引っ張って波打ち際に走り出した。
なに? なに?
「いいからこーい!」
彼女は僕を波打ち際に立たせると、助走をつけて思い切り僕を押しやがった。
嘘だろ!?
ずぶ濡れの僕を見てお腹を抱えて笑い転げながら彼女は言ったんだ。
「キュン……ってなったお返しじゃー! 不意打ちでカッコいいこと言うなー!」
僕は頭をかいてから、彼女に近づいていった。
怯えた顔をしてたけど、彼女を許すわけにはいかない。
「待って! 待って! ごめんって! ぎゃああああ…!」
彼女の小さな身体をお姫様抱っこして持ち上げてやる。
僕はそのまま、海面に揺れる月を蹴散らしながら、海の中に入っていった。
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