最期の夏休み 鈍行
ガタンゴトンと揺れる鈍行列車のシートに並んで腰掛けて、僕らは彼女のおばあちゃんの家に向かったんだ。
二両編成の鈍行には、僕らの他には誰もいなくて、僕らだけを乗せた列車が、ガタンゴトンとのんびりした音を立てながら走っていく。
窓の外を流れる景色はさ、いつの間にか山の緑を抜き去って、太陽が乱反射するキラキラの海に変わっていたんだ。
「マー君! カモメ! それともウミネコ!? ウミネコってヤバいよね!?」
鳴き声を聞かないとわからないよ。
はしゃぐ彼女に釣られて、僕も少し浮かれながらそう答えたんだ。
古い漁村が続く海沿いの線路は、ずっとずっと先の方まで延びててさ、永遠なんかあるわけもないのに、不思議な力で時空が歪んで、無限の環状線に迷い込んでしまったみたいな気持ちになる。そう願ってしまう。
事あるごとに彼女は僕の袖を引っ張って、潮風と日差しで白く灼けた景色に目を輝かせてたんだ。
「マー君。最後の夏休みだね」
突然彼女がそんなこと言うからさ、僕は忘れていたはずの現実を思い出して、鼻の奥にツンとくる涙の気配を抑え込むのに、ひどく苦労したんだ。
「ちっちゃい神社があってさ、そこでね! ちょうどこの時期は夏祭りがあるんだよ!? 砂浜で花火が上がって、すっごいキレイなの! マー君浴衣持ってきた!?」
僕の苦労なんてお構いなしで彼女は浴衣の心配なんかするからさ、さあねって言ってやった。
「うそっ!? 浴衣忘れた!? 嫌だー! マー君の浴衣姿見たいー! 絶対見るー! そうだ! おじいちゃんの浴衣があるはず!」
いつの間にか僕らの二の腕はぴったりくっついてて、僕はシートに置かれた彼女のちっちゃい手の上に、そっと僕の手を重ねたんだ。
あれだけずっとうるさかったくせに、彼女はその瞬間にほっぺたを紅くしてさ
「ツッ……」
って言葉に詰まって、静かになったんだ。
「不意打ちばっかりでズルいよ……マー君は……」
僕の肩にもたれ掛かって彼女は言った。
いつもズルいからお返し。
僕はそう言って、彼女の頭にもたれ掛かったんだ。
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