最期の夏休み 神様。
寂れた青鼠色の町では、人っ子一人見なかったのに、縁日は賑わってた。
甚兵衛を着てお面を被った子供達や、お酒か日焼けで顔を真っ赤にしたおじさん達がさ、おんなじ様な笑顔を浮かべているのを見るとさ、この町にとっての夏祭りの大切さが、何となく分かった気がしたんだ。
凄い活気だね
僕が言うと、彼女は綿菓子をほっぺたに付けた顔をクシャクシャにして笑った。
「マー君と絶対来たかったんだ! もしだよ? 紗香がさ、ここに住みたいって言ったら、マー君どうする……?」
伺うように僕の顔を覗き込んで彼女が言った。
僕はしばらく考え込んでから答えたんだ。
多分、僕に漁師は無理だから……
続きの言葉を彼女は待っていたけど、この時の僕にはその続きを、口にする勇気がなかったんだ。
暗い顔をした僕にさ、紗香は綿菓子をなすりつけて笑った。
「くらーい! マー君くらーい! お祭りだよ!? 暗い顔してたら、神様に見放されちゃうんだよ!? シシシ……!」
やったな!?
僕はお返しにリンゴ飴をなすりつけてやった。
それなのに彼女はゲラゲラ笑ってさ、あんまり笑うもんだから、目尻に涙が光ったんだ。
吊るされた裸電球の灯りに光る涙が、愛おしくて、切なくて、気が付くと僕も笑いながら少し泣いていた。
それを誤魔化すように、僕らは思いっきり悪ふざけしながら、境内の奥にあるお社のところまで歩いていったんだ。
「ね! 御参りしていこ!」
彼女は僕の手を引いて石段をのぼった。
お賽銭箱に小銭を投げ込み、慣れた手つきで手を合わせると彼女は少しだけ真剣な顔をして祈っていた。
僕もそれに倣って手を合わせる。
神様。
もし、いらっしゃるなら
僕らがずっと一緒にいられるように
僕に力を与えて下さい
僕みたいな奴には
ほんの少しじゃ足りないんです
あらん限りの力をくれないと
僕は駄目なんです……。
目を開けると彼女が僕を見つめていた。
キラキラした目で、僕を見つめていた。
「マー君はなんてお祈りしたの?」
内緒。紗香は?
「うーんとね……シシシ……!」
「マー君がずっと笑顔でいられますようにって」
海辺で大きな花火が上がった。
おおーって、皆の歓声が上がった。
彼女は慌てて僕の手を引いてさ、花火が見える展望台の方へ駆け出した。
チカチカと最期の花火が散った後には、風に乗って火薬の匂いが残ったんだ。
火薬の匂いを風がさらっていくと、夏の終わりの気配がした。
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