最期の夏休み 密会


 寝苦しい夜だった。

 蒸し蒸しと湿気を含んだ大気が、纏わりつくような、熱帯夜だった。


 襖の向こうにいる彼女に、会いに行こうかとも思ったけれど、いけないことのようや気がして、僕は何度も寝返りをうちながら、夜が過ぎ去るのを待ってたんだ。


 時計の針が立てる音、外から聞こえる虫の声、遠く響く潮騒が神経を逆撫でる。


 隣の部屋で眠る彼女の存在が、神経を昂らせる。


 眠れない……


 とうとう諦めて、僕が外に出ようとした時だった。


 スルスル……って音がして、襖が開いたんだ。


 見ると彼女が襖の隙間からこちらを覗いていた。


「シーっ! マー君も眠れないの? シシシ……! 一緒だ」


 そう言って彼女は僕のいる部屋に忍び込んで来た。


 さっきまで僕がいた布団の上に寝転ぶとポンポンって、隣を叩いて来るように促す。


 どくん……どくん……


 僕の心臓は今にも破裂しそうだった。


 彼女も同じだったと思う。


 同じことを考えてたと思う。


 僕はカラカラになった喉をゴクリと鳴らして、彼女の隣に寝転がったんだ。


 そしたらさ、彼女の素足が、僕の素足にピタって触れたんだ。


 それだけで、電気が走ったみたいでさ、僕の身体の中を色んな化学物質が走り回るのを感じたんだ。


 バレないように、ちょっとだけ腰を引いて、僕は彼女と向かい合うように横になった。


 それなのにさ、彼女は僕の胸に小さな耳をピッタリ当てて、僕の心臓の音を確かめる。


 僕の身体の線に沿うように、ピッタリくっつくもんだからさ、隠してた恥ずかしい部分も全部、全部、彼女にバレバレで、僕はどうしたらいいかわからなくて、彼女をただギュって抱きしめたんだ。





「ずっと一緒にいてね……」


 汗塗れの彼女が囁いた。


 ずっとずっとずっと、一緒にいたいよ……


 だけどどうして、君はそんな非道いことを言うんだろう?


 汗塗れで彼女を抱きしめながら、僕は思った。


 ズルい……ズルいズルい……


 僕はずっと一緒にいたいのに、彼女がそれを先に言うなんて、ズルいよ……


 目が覚めるとに、彼女はいなくなってて、窓の外は、いつのまにか明るくなってた。


 何処かで雷の音がした。

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