メッセージ2

「留守番電話サービスに接続します。ピーという音の後にメッセージをどうぞ。ピー……。」


「おーい! 電話出ろー! 聞こえてるくせにー! そっちからも見えますかー? 今夜は月がキレイですよー? マー君の声が聞きたいでーす……」


 カーテン越しにも分かるくらい、大きな月だった。どうやら特別な月が見える日らしいけれど、僕はあまり興味がなかった。


 それなのに、月が綺麗とか、彼女が言うから、堪らなく会いたくなって、僕は一言だけメッセージを送信する。


             「会いたい」


「紗香もです」


 自転車で駆け抜ける夏の夜の空気は、生暖くて特別な匂いがした。


 後ろからは巨大な満月が追いかけてくる。


 バレバレな言い訳をして、家を飛び出して、汗だくになって彼女の家に向かう。


 いけないことをしてるみたいな気がして、変な期待感が胸の中で膨らんで、それが顔に出ないように必死に抑え込む僕は、グレーのスウェットにクロックスが最高にイケてると思い込んでいた。


 長い坂道の途中でブレーキを握ると、びっくりするくらい大きな音が、夜の住宅地に響き渡る。


 そのせいで心臓がバクバクする。


 見上げると、カーテンの隙間から、彼女はいつものクシャクシャの笑顔で僕を見ながら、パジャマ姿の上半身を突き出して言ったんだ。


「シシシシシ……! ほんとに来た!」


 彼女はそう言ってカーテンを閉めると、トトトトト……と階段を鳴らして降りてくる。


 家の中から声がする。


「シシシ……! マー君来てくれた!」


「あんまり遅くならないでよ?」


「うん!」


 そんなやり取りが終わって、玄関から出てきた彼女は、紺と白の縞々模様で……。


 タオル地のショートパンツとフード付きの長袖ルームウェアのセットアップに身を包んでいる。


「あー!? 見惚れてるー!」


 僕を指さして笑う彼女から目を背けて、僕は自転車の荷台を指さした。


 ギュッ……って後ろから君に抱きしめられながら、僕らは長い下り坂をゆっくりゆっくり下っていった。

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