君の声と歩いていく

深川我無

メッセージ1

「留守番電話サービスに接続します。ピーという音の後にメッセージをどうぞ。ピー……」


「こらー!! ねぼすけえー!! 朝だぞー!? 起きろー!! 寝た振りしてもバレてるぞー!? 今日小テストなんだから! 電話出ろー!」


 受話器の向こうでクスクス笑いながら話す彼女の声は、朝陽よりも眩しくて、閉じているはずの瞼をすり抜けて僕の目を眩ませる。


 不覚にも憂鬱な気持ちを散らされた僕は、仕方なくモゾモゾと布団から抜け出して、彼女がいるはずの学校へ向かう覚悟を決めた。


✆✆✆


 電話は苦手だ。耳元で囁かれているような気分になるから。


 そう話すと彼女は可笑しそうにクスクスと笑う。左手のこぶしを口もとに当てながら、目尻にクシャクシャの皺を作って笑うその顔が僕は大好きで泣きそうになる。


「なにそれ? じゃあこれは?」


 そう言って彼女は僕の耳元に唇を寄せて


「好きだよ……?」


 って呟いた。


 耳が熱くなって二の腕に鳥肌が立つ。


 「やめろよ! そういうの……!」


 振り払う僕を指さして


 「赤くなった赤くなった!」


 と笑う顔は、やっぱりクシャクシャになってて、それが可愛くて切なくて、恥ずかしくて……。僕は消えてしまいたい。


 どうして太陽みたいな彼女が、掃き溜めのドロ闇みたいな僕を選んだのか?


 一度だけ尋ねると、彼女は迷わずこう言ったんだ。


 「君のことが、大好きだからだよ」


 真っすぐに僕の目を見て、少し怒ったみたいな顔でそう言って、やっぱりすぐに、顔をクシャクシャにして彼女は笑った。


 それでもやっぱり、僕は電話が苦手で……。


 居留守を使っては彼女にメッセージを残させてばかりだった。

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