第17話 VACANT <あやかしの山へ>

 威吹鬼は一旦、高羅の屋敷に戻らなければならなかった。

 高羅の屋敷のガレージには、威吹鬼のバイクが停めてあった。それを使わないと時化山には行けない。うかうかしていたら捕らわれた麻貴を危険にさらしてしまう。

 だが――。

 威吹鬼はすでに、自分の考えに確信を持っていた。

 あの野郎だ。

 あの野郎は、おれを待っているはずだ。

 きっと。必ず。

 威吹鬼はイグニッションを回し、バイクのエンジンをかけた。

 ガジモド。バイクの名前だ。総排気量900cc。漆黒のボディ。このマシンに威吹鬼は何度も命を救われている。武器と同様、威吹鬼の信頼できるパートナーだ。

「威吹鬼様!」

 ガレージと母屋を隔てる扉の前には、いつの間にか洛が立っていた。

「麻貴様は?」

 威吹鬼は顔を伏せた。「さらわれた」

「何ですと!」

 洛の顔がうっ血したように真っ赤になった。

「美也さんはいるか?」

「いらっしゃらない。お仕事だ」

「だろうな」

「……これはおたくの信用にかかわるぞ」

「あの子達は必ず連れて帰る。――化け物どもには傷一つつけさせない」

「――あの子、達だと?」

「あおいさんも一緒にさらわれたんだ」

 洛は、さらに顔を赤くして叫んだ。「あんな女のことなどどうでもいい!」

「何だと?」威吹鬼が気色ばんだ。「あの子はあの子なりに麻貴君を守ろうとした」

「賞金稼ぎ。勘違いするな。あんたは麻貴様だけを守ればいいんだ。あんな女の代わりなどいくらでもいる。あんな……」

「――おい」

(なんてこった)

 威吹鬼は洛の胸ぐらを掴んだ。

(どうして気付かなかった?)

 威吹鬼は、頭を分厚い辞書で一発殴られたようなショックを覚えた。

(どうして今頃気付いた?)

 威吹鬼に胸ぐらを掴まれた洛は、一瞬たじろいだ。

「……何だ?」

「あおいさんの顔の特徴を教えてくれっ」

(ちくしょう。なんてこった)

 威吹鬼は舌打ちした。


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