座頭銃 ―盲目の拳銃使い―

まもるンち

第1話 START <序の口上>

 おそらくは、遠い未来の世界。

 遠い遠い、隔慮かくりょの世界の話。

 はたまた、まったくの異世界の話、なのか?

 どちらなのかはよくわからない。

 異世界というのは、

 あんた達にとっての異世界、という意味だよ。

 どちらにしても、

 あんた達が今息をしている世界……そう、

 あんた達は現代と呼んでいるようだがね。

 そこからは、想像もつかない途方もない遠い世界の話だよ。

 もちろん、私らにとってこの世界は現代と呼べるものさ。



 ちょいと昔に戦争があったそうだ。

 恐ろしい、壊滅的な戦争だ。

 なに、戦争の理由なんて簡単さ。

 国土の取り合い。資源の取り合い。財産の取り合い。偉い人の金もうけ。

 よくは知らないが、おそらくはそんなとこだ。

 国は変われど、世界は変われど、時代は変われど、

 そいつだけは変わらない。

 絶対的な真理の一つだ。

 あんた達の世界でも、

 戦争が起きる理由なんてそんなとこだろう?



 ただ、手段に問題があった。

 核兵器。細菌兵器。

 どっこの国もこぞって、

 こういった武器をばんばん使ったんだ。

 おかけで今じゃぺんぺん草一本生えない、

 文字通り不毛の砂漠や荒れ地になっちまった所も多い。

 放射能や菌が、

 じくじくと地面の底の底まで染み込んじまったんだ。

 そんな土地には、まともな人間はただの一人も寄りつかない。

 まともな人間は、の話だけれどね。



 そんな場所に寄りつくもの。居座るもの。

 それは、まっとうな生き物であることを、

 とうの昔にめてしまった化け物達さ。

 こいつらがまったくもって恐ろしい。

 核。細菌。放射能。

 そんな目に見えないいやらしいやつらが、

 生き物にどんな影響をもたらしたのかは、

 私らにはよくわからない。

 でも核や細菌や放射能というやつらはね、

 地面だけじゃなくて動物や人間にもじくじく染み込んだのさ。

 じくじく、じくじくとね。

 核や細菌や放射能が、

 じくじく骨肉にまで染み込んだ生き物はね、

 例外なく畸形化していったんだ。

 畸形化し、凶暴化した。

 かつて人間だった者は、理性を失くした。

 あるものは単体で、また徒党を組んで、

 まっとうな生き物を襲い、喰らいはじめた。

 もちろん人間も喰らったさ。

 人間の言葉は理解できても、人間の言葉は話せても、

 やつらには心ってもんがなかったからね。



 そいつらは砂漠や荒れ地といった辺境地帯だけじゃなく、

 町にも現れた。

 あるものは人間の目から隠れて。

 あるものは人間のふりをして。

 そして突然現れては暴れ回り、人間を殺した。

 喰らった。

 生き血を啜った。

 女をさらい、仔を生ませた。

 生まれた仔はまた、化け物の血をひくものだった。



 辺境地帯、街中問わず、昼夜問わず、

 化け物が跳梁跋扈ちょうりょうばっこする世界。

 これが私らの住む現代社会さ。

 どうだね、

 あんたらの住む現代社会とはだいぶ違うだろう?

 人々はそんな化け物を恐れ、脅えながら暮らしていたんだ。



 ただこんな世界にもね、政府というものはある。

 大陸のほぼ中心に位置する小国〈神霧しんむ〉のえらい人達は、

 この化け物による不条理な害悪を重くとらえた。

 そして民間で組織された〈妖怪撃退同業者組合ギルド〉に、

 化け物の討伐を依頼したんだ。

 ギルドってのは国中にいくつもあり、

 腕利きの賞金稼ぎを複数人抱え持っている。

 そして政府から依頼された化け物退治の案件によって、

 適した才を持つ賞金稼ぎを派遣するんだ。

 ご推測の通り、化け物の強さにはレベルがあって、

 そのレベルによってもちろんギルドから出る賞金の額も違う。

 一匹ぶっ殺すことができれば、

 まともに工場なんかで働いてたらまあ、

 三ヶ月はかかるくらいの金が一発で出ることもあれば、

 一年はかかるくらいの金が一発で出ることもある。

 強い者が勝ち、っていう、実にわかりやすい仕事だな。



 もちろん裏を返せば、過酷極まりない任務、っていうことだ。

 大した実力もないのに賞金稼ぎに名乗りを上げて、

 たったの三日で、

 包丁で叩かれた挽き肉みたいにばらばらにされた奴だって、

 まっこと少なくない。

 強い者が勝つ。強い人間だけが生き残れる。

 強い賞金稼ぎならば、たらふくメシを食える。

 わかるかい? これが私らの世界だ。

 あんたらの住む世界とはだいぶ違うだろう。

 いや、強い者だけが生き残れる、

 たらふくメシを食えるということで言えば、

 あんたらの世界と同じなのかもしれないね。



 まあとにかく、そんな遠い未来の世界か、

 はたまた異世界の話だ。

 長くなるが、

 どうか最後までついてきておくんなさいよ。

 

 それでは、はじまり、はじまり。






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