第19話 旅の支度
「ちょいちょい学校を抜け出す?別にわしは構わんぞ?」
ジャンヌはこともなげに言った。反対されるかと思ったらその逆だ。何だか拍子抜けである。
「反対……しないんですね。」
「うむ。長い事授業に出ないというなら考え物じゃが、休日を利用するなりして最低限に抑えるのなら別に良いじゃろ。お主、この間の中間考査も成績良かったしの。魔方陣学のマクシム先生も誉めておったぞ。」
まぁ……世界が違えど中身大人だからな……。トップは取れずともそれなりにいい成績取れない方がって感じだからな。
「ま、居ない間の講義内容に関してはちゃんとレジュメにまとめて置くからの。補修課題も用意して進ぜよう。安心して出立すると良い。」
「ありがとうございます。ジャンヌ先生。」
「うむ。」
取り合えず良かった。ダメだと言われたら事業を進めるスピードはかなり遅くなっていたところだからな。
「そうだ。折角じゃ。お主にこれを預けておこう。」
ジャンヌは俺に一本の片手タイプの
「これは……?」
「見ての通り魔法杖じゃ。本当は2年生から持たせる物であるがの。しかし、お主は優秀であるから別に今持たせても良いじゃろ。護身用に持っておくと良い。」
「大変ありがたいお話ですが……。しかしこんな高価そうな物お預かりする訳には……。」
「いや、別にわしが学生の時に使っていた安物じゃ。わしにはこれがあるしの。」
ジャンヌはいつもの立てかけてあった杖を手で持って軽く掲げて見せてきた。
「使わん物持ってても意味はあまり無いからの。お主に有効活用してもらいたいというわけじゃ。それじゃ駄目かの?」
「そういうことなら……ありがたくお預かりさせていただきます。」
「うむ。返すのはいつでも良いからの。」
これはちゃんと大事にしないとな。
ジャンヌに一礼して、執務室を後にする。
次はマリーに話がついたことを伝えないと。さて、今から冒険者ギルドの方に行っても居ない気はするな。多分何かしらの依頼を受けているだろうし。まあ、いつもやっているように職員に言伝でも頼めばいいか。
あとは……居ない間の連絡要員はどうしようか。出資した連中から興味がある連中まで現状ちょくちょく問い合わせの封書が来たりするからな。レスポンスはどうしても遅くなってしまうな。電子メールでも使いたくなる。
それこそ俺の事業を使えれば素早く連絡できるのだがそれを作ろうとしている最中という訳だ。前にクレイグと話した時のように。……クレイグがここに居れば万事解決だがなあ。別の方法を考えるか。
そうだな……。兄であるアルバートに頼むのは……やめておくか。要らん事に労力を使って欲しくない。いっそジャンヌは……駄目だな。ジャンヌ自身の仕事があるだろうし……。
マリーに頼むのは……本末転倒だ。俺に付いてきてくれる人が居なくなる。どうする……?
いっそのこと株主……もとい父親であるユリウスにでも相談するか。
--------
そして数日後の冒険者ギルドの、例によって一角。
「と、いうわけで私が旦那様より申しつけを受けまして参りました。アルフォンス坊ちゃん。」
「まさかクレイグが来てくれるとは思わなかったよ。」
まさかのまさかである。使用人のだれかが来てくれれば程度に思っていたがクレイグ本人が来るとは。
「つかぬ事を聞くけれど、クレイグは仕事が忙しいと思っていたけど……それは大丈夫なの?」
「ええ。部下たちに任せてまいりました。旦那様もアルフォンス坊ちゃんについてやってくれとのことでしたので。」
ユリウスの指金だったか。まあ良いんだけど。
「わかった。それなら安心だ。で、早速なんだけどクレイグに頼みたいことがあるんだけど良いかな?」
「もちろんでございますよ。して、如何様でございますか?」
「うん。これから僕は各地を回って事業拡大をするために実地調査と交渉をしてくるつもりでいるんだ。それでクレイグにはここ……セントルミエスで出資者たちへの連絡役をやっていて欲しい。」
「承知いたしました。なにか注意事項はございますか?」
「そうそう……学院側の規則でクレイグは学内には入れないんだ。ごめんね。だから会合はマリーとの兼ね合いもあって冒険者ギルドとかになるとは思う。そのあたりよろしくね。」
「心得ました。」
うむ。これでよし。……そういえばルール的には身の回りの世話をしてもらったら駄目だったな。……まぁ学内や寮内に出入りするわけでも無いし、事業の手伝いをしてもらうのは少なくとも身の回りの世話では無いから大丈夫だろ。多分。
「そうそう、クレイグの宿はどうするの?念のため聞いておくのだけれど。」
「近くの宿でも見つけようかと。逗留に必要な費用は工面して頂いておりますし。」
そうなのか。……でも、俺の所以外からお金を使うのも何だな。そうだ、前々から考えてあった件をもう実行に移してしまうのも悪くないな。既に多額の資金もあることだ。これからの事業展開を考えてもその方が都合がよい。
「それだったらさ、現状まとまった資金もあることだしセントルミエスに事務所を構えてしまわない?クレイグたちの生活の場所の確保もかねてさ。ずっと宿住まいも大変でしょ?」
「それもそうですが……よろしいのですか?事務所は兎も角として私たちの生活の場所もなんて。」
「もちろん。その方が良い仕事を出来るかなって。クレイグたちが良ければ、だけれども……。」
「それでは……謹んでそうさせて頂きます。」
「見つかるまでは宿住まいになってしまうけど、よろしくね。あと、どこにするかはクレイグに任せても良いかな?」
「承知いたしました。学院の近くで探しておきます。ご予算はいかがいたしましょう?」
「現状割と余裕はあるからね。だいたい金貨500枚以内でお願いしたいけど……足りるかな?」
「それだけあれば問題なく見つかるかと。よほど大きなお屋敷と言うほどでも無ければ。」
「じゃあ、それでお願いね。」
「承知いたしました。アルフォンス坊ちゃん。」
これで社屋の準備もよし、と。会社としての体裁が整っていく感じがするなぁ。なかなかできない貴重な経験な事だ。
「それと、僕はマリーと各地で交渉を早速今度の学院の休みにするつもりだから、その時は早速諸々の事をお願いね。」
「承知いたしました。道中お気をつけて。」
これで心置きなく各地を飛びまわれる。が、まあ最初は近場からやっていくか。すぐ戻ってこれそうなところで事業に興味を持ってくれそうなところが良いがどこになるだろうか。ま、地図でも見ながら決めるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます