第18話 事業拡大へ向け

 多くの資金を手に入れ、王家からの出資も得て、国家事業に食い込むことも出来た。それゆえかあの説明会の後も出資を希望する者がチラホラとコンタクトを取ってきている。王家が出資したというネームバリューのなせる業という事だろうか。


 と、いうわけで再び冒険者ギルドの一角。恒例のマリーとの経営会議だ。


「先日はお疲れ様でした。アルフォンス様。して、次の一手は如何なさいますか?」

「ありがとう。マリー。そうだね、早速新規の通信線の構築と従業員を集めることにしたいね。今既にある所から配置換えをするなるしてなるべく早く開通できるようにもね。」

「そうでしたか。では、早速各地へと赴いて交渉ということですか?」

「そうだね。学院の授業の合間を縫ってになるけどね。あと……通信員だけじゃなくて事務方をやってくれる人も探さないと。これからは事業の規模は僕らだけでは手に負えなくなるなるし。」


 今までなら考えなきゃいけないことも多くは無かったし、クレイグとマリー、それに俺でも管理しきれたが今後は従業員の人数も桁が一つ増えるだろうから言ってしまえば中間管理職が必要になる。……まさか俺が中間管理職の上に立つとはなぁ。前世ではいいとこそこまででその上、重役など夢のまた夢と思っていたが。


「では、求人はどういたしましょうか?」

「そのあたりはあまり詳しくないんだよね……。何かいい案ないかな?」


 前世の日本で言えば公共職業安定所とか就職エージェントがあるからそこを介せばいいのだけど残念ながらと言うべきか存在しない。経済や社会はまだ発展途上な面もあり、職業紹介は人づての紹介が主なこの世界だ。先の通信員の確保にしてもクレイグの人脈づてだったからな。


「でしたら……冒険者ギルドで依頼と言う形で集めるという方法がありますね。」

「そんな方法が。」

「ええ。冒険者と言いますが別に”冒険”をする者ばかりではありませんから。」


 確かに、俺もそういう人間の一人だからな。……中世ごろのヨーロッパにしろ江戸時代前後の日本にしろ封建体制下では縁故で人間を集めるのが普通だったらしいがこの世界は少々事情が違うと見た。意外と転職とかもしやすかったりしてな。


「じゃあその通り手配するとしよう。何か特別にやることはあるかな?」

「いえ、特には。窓口で依頼を出せば早ければ翌日には反映されますし。保証金をいくらか預ける必要がありますが。」

「そのあたりは問題無いね。早速やろう。」

「解りました。では諸々の手続きは私がしますか?」

「それじゃお願い。人数は……120人前後を目途に。条件は……前に集めた時と同じで。確かマリーも知っていたよね?」

「ええ。勿論。ではそのように。」

「それが終わったら……早速各地で中継所の整備に向けて交渉だ。」

「かしこまりました。帯同いたしますか?」

「もちろん。僕だけだったら十中八九さらわれちゃうからね。クレイグは本人の仕事が忙しいし。」


 俺一人で旅をするなんて鴨がねぎを背負った上で鍋まで持ち歩くようなものだからな。ジャンヌみたいに有無を言わさず魔術でぶっ飛ばしたり、クレイグみたいに魔物を豆腐よろしくぶった切ることはできないからな。マリーも手練れのようだからいてくれれば安心だ。


「それじゃあ人手の事はそういう事で、僕の方は授業を抜けるのは最低限にするにしても、ちょいちょい学校を抜け出すことについて学校の事について先生方と話を付けて来るよ。それが終わったら早速各地に向けて出発だ。決まり次第連絡入れるよ。」

「解りました。お待ちしております。」


 こういうホウ・レン・ソウは大事だからな。勝手にいなくなるなんぞ大問題だ。ましてや特別扱いで入学している俺は特にな。


「それはそうと、アルフォンス様。この後お暇でしょうか?」

「そうだね。予定は特にないけど……。何か用事?」

「ええ。離れて暮らしている妹への誕生日の贈り物をと考えていまして。今日買いに行こうかと考えていたんです。私とは少々歳が離れているものですから色々一緒に見て頂いてご意見を伺いたいなと。」


 妹、かぁ。なるほどなぁ……。でも俺の中身妹どころか十中八九マリーの年上なんだよなぁ。見たところ二十歳くらいだし。俺の方は転生前はアラサーだったし……。どうしようかな。


「うーん。自分で言うのも何だけど僕の意見がお役に立てるとはって感じだね。見ての通り一般的な同年代とはかけ離れているからねぇ。」

「いえ、そこは問題ないです。妹も同年代からかけ離れているタイプですし。」

「あら、そう?」


 マジかよ。案外俺と同じ転生者だったりしてな。そんなこと俺以外にあるかと聞かれたら絶対無いと言いきれる案件だけど。まぁ、やたら大人びた子とかだろう。だったらどういうのが良いかとかは予測ぐらいなら付けられるか。


「マリーの妹さんがどういう人となりか解らないから参考になるかはわからないけど力にはなるよ。」

「ありがとうございます。では早速行きましょうか。」


 さて、今度はマリーとデートか。俺もモテモテな事だな。ハッハッハ。


「あ、念のため言っておくとこれからすることはデートでは無いですからね。念のため。」


 釘をされてしまった。前にもこういう展開あったな……。


--------


 年頃の女の子が好む物というからその手のオシャレな店にでも行くのかと思ったら、そうでは無く、魔術品の専門店に来ていた。


「意外、だね。妹さんはこういうのが好みなの?」

「ええ。暇さえあれば魔導書を読んでいるような子でしたから。」

「それじゃあ、将来は大魔術師だね。」

「ええ。……実際目指していたみたいですから。」


 変わり者の天才肌。会ってみたいものだな。


「今考えているのがこれなんです。」


 そう言ってマリーは一つの銀製の青い石が入った髪飾りを見せて来た。


「髪飾り……?」

「ええ。ただの髪飾りではありませんよ。頭部を保護し、かつ付けている者の魔術を増幅する術式が掛けられた魔術付与品マジックアイテムです。」

「なるほど。デザインもオシャレだね。」

「いえ、そこは別に。妹はそういう方面には頓着していませんでしたし。最も身だしなみにだけはうるさかったですが。」


 実用性重視な性格なのね。まぁわからんでもないな。


「他にはどういう物を考えているの?」

「そうですね……たとえばこれとかですね。」


 今度は一冊の本を見せて来た。


「こっちは最新の考古魔術学の本です。古代魔術にも興味があったようなのでこういうのもいいかと思ったのですが。」

「良いと思うよ。ただ、妹さんが既に入手しているかもだよね。その方面に興味を持っているならね。」

「確かにそうですね……。これとさっきの髪飾りとで迷っていたのですが、やはり髪飾りにすることにします。」

「うん。マリーが決めるなら妹さんもきっと喜ぶよ。」

「ありがとうございます。では購入してきます。」


 これでよし、と。


 しっかりとラッピングまでやってもらって買った物をマリーが手にし、共に店を出る。


「それじゃあ、また。次はたぶん各地を回る打ち合わせの時になると思う。」

「ええ。承知しました。アルフォンス様。それではまた。」


 それぞれの帰路につく。さて、次は学校側との交渉だな。これでも品行方正に過ごしてきたつもりだ。悪いようにはならんとは思うが、どうだろうか。


 まぁ、なんとかかんとかやるだけだな。

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