第8話 アルフォンス・リュシオールE級冒険者

 冒険者ギルド、その支部の建物はフェンの街の外れにあった。二階建ての石造りのそれなりにしっかりした立派な建物であった。また、まだまだこの世界においては高価な窓ガラスも多用されていて、思いのほか金回りの良い組織であることを思わせる。


 マリーに案内して貰い、建物の内部に入っていく。中は外の採光と照明で照らされていて明るくなっていた。また冒険者も結構たむろしていて活気があった。見回してみると一枚の現在の俺の背丈ほどの長さのあるボードが壁に掛けられており、そこには数多の紙が貼りつけられていた。建物の奥にはカウンターが並んでおり、冒険者と思わしき者達が受付の者と何かしらの交渉なのか、話し込んでいた。


「ここが私がよく出入りしている冒険者ギルドです。時たま王都にある本部に行ったり、リエルの街の方にある支部にも出入りしていますが基本はここで依頼を請け負ったりしています。」

「ははぁ、なるほど。こういう感じなのかぁ。」


 変な言い方、よくある冒険者ギルドと言ったところだ。


「とりあえず、新規登録の窓口が開いているようなので話を聞いてみることにしましょう。」


 マリーは受付の好青年風の男に声を掛ける。


「やあ、久しぶり。今日はこの方が登録できないかってことで来たんだができるか?」

「マリー!!しばらく来ないから心配していたよ。で、この方と言うのは……。」


 受付の男はマリーが指し示す先に居た俺を見て露骨に怪訝な表情を浮かべて来た。


「いやあ……確かに冒険者登録に年齢制限はないはずだけど……マリーは子供を無惨に死なせる気?直接危機が及ぶような依頼ばっかりじゃないとは言ってもどうなるのかが分からないのが俺たちの業界だぜ?」

「それは勿論わかっているさ。なに、確認だけだ。」

「分かったけど規則を確認してみない事には何とも言えないよ。ここの支部長呼んでくるからそこのテーブルでまっててくれるか?」

「ああ。わかった。」


 受付の男が指し示した方向にあるテーブルへと向かい、併せておいてある椅子に腰かける。丁度何か地図のようなものを広げて話し込んでいる最中だった冒険者らしい屈強な男達と相席をすることになった。


「おや?見ねー顔だなボウズ!!どうした?ナリは随分とこぎれいだが食い詰めでもしたか?」

「いえ、そんなことはありませんよ。冒険者さん。ま、社会勉強ってとこですよ。」

「ハッハッハ!!こいつは面白いじゃねえか!!いいぜ、俺たちが教えられることだったら何でもおしえてやるぜ!!」


 豪快に笑う男だ。しかしながら嫌らしさはあまり感じない。どちらかと言うと気の良さを感じる。言っちゃ悪いがこういうところは掃き溜めくらいに思っていたが……よく考えてみればマリーのような若い、それなりに美人な女性が出入りできるくらいの所なんだから治安がそんなに悪いわけが無いか。少なくとも常識もクソも無いようなトロルみたいなのが居る訳ないよな。


「ではお言葉に甘えて……。冒険者ってどんなことをする人なんですか?」

「おう!!そうだな、俺たちみたいなのは腕っぷしに自信があるから人里近くに現れた魔獣を駆除したり用心棒をしたりってところだな。そういうのが得意じゃないやつは薬草とか薬の原料を山とか森から取ってくるらしいぜ。俺は学が無いからよく分からんけどな。」

「なるほど。ただ単に戦うだけが冒険者じゃないんですね。」

「おうよ!!それとよ、俺みたいなのが言っても説得力無えけどよ、魔術が使えると受けられる依頼の幅ってもんが増えるぜボウズ。今のうちに勉強しとけよお。冒険者になりないならな!!ハッハッ!!」


 それにしても豪快だ。転生してからはこういうのもなんだがお上品な人にしか接していなかったからなんというかとても新鮮だ。こういうタイプの気のいい連中が俺の事業に加わってくれたらプラスにも働くんだろうか。


「とすると、冒険者ギルドとは一体何でしょうか?」

「それはだな、俺たち冒険者の助け合いの組織って感じだな。冒険者をやってるくせになんだけどそんなもんとしか俺にはわかんねえな。」


 ポリポリと頭を掻きながら男は言う。


「あとは、冒険者への依頼を取りまとめたり、犯罪に関わるような依頼を弾いたり、冒険者達を認証する役割を果たしています。」


 マリーが続けて補足をする。なるほど段々と理解ができてきた。冒険者ギルドは互助組織としての一面も存在するというわけか。


 思えば前世の世界でもそういった組織があったわけだ。それこそ中世世界に置いては西洋で言えば文字通りのギルド、立ち位置が微妙に違うが日本における株仲間、現代における組合等々……。集まることで力を発揮しようという取り組みはこちらの世界でも有効と言う訳だ。


「マリー、支部長をお連れしたよ。」

「どうもありがとう。」


 マリーは軽く手刀を切る仕草で礼をした。


「冒険者になれるかどうか確認したい者が居ると聞きやってきてみたが……。まさか、幼子とはな。」


 信じられないとでも言いたげな表情で支部長は俺の顔を覗き込む。


「不可能を除外した後に残るものがどんなに信じがたくとも真実。世の中得てしてそんなものですよ。」

「言うじゃないか。単なる子供とはおもえないな。」


 その言葉に俺はなんとも言えない気分になった。文字通り俺は子供のガワを着ている状態なのだし。


「まぁ、よい。機知に富んだ事が言えるくらいだ。討伐依頼とか護衛依頼とかじゃなきゃなんとかできるだろう。お前なら。」

「ということは、僕は登録しようとすればできるということですか?」

「そうだ。望むなら今すぐでも構わない。」


 できる、というか。なら一応登録してみても良いかもしれないな。別にどうしても冒険者としての活動をしなければならない義務は無いだろうし。


「では、よろしくお願いします。」

「うむ。あいわかった。では書いてもらう書類がある。ウィル!」


 ウィルと呼ばれたさっきの受付の好青年が紙を一枚持ってくる。


「文字は読み書きできるな?」

「ええ。一応。」

「なら話は早い。規約をよく読み署名したまえ。それでお前は冒険者として登録される。」


 言われた通り規約をよく読んでみる。こういう部分に騙しを入れたりするのが悪人の常とう手段であるが……。おそらく特にそういう物は仕込まれていないようだ。まとめると、


・冒険者として品格を持った行動を心掛けること

・依頼人に対しては誠実な態度でいること

・依頼は完遂すること

・有事の際は王国に協力すること


 この程度のシンプルなルールのみが冒険者が守るべきもののようだ。


 俺は迷わず署名をしっかりと記した。


「うむ。これでよし。ギルドカードはあとで出来る。しばし待て。これでお前はE級冒険者だ。」

「有難うございます。精進いたしますのでよろしくお願いします。」


 一度椅子から立ち上がり、一礼する。


「ああ。どのような活躍をしてくれるのか、楽しみにしているぞ。」


 そう言って支部長は去っていった。その背中からは威厳というものが伝わってきた。あれが人の上に立つ者の覚悟、そういう物だろうか。俺もああなれるのだろうか?


 何がともあれこれで俺も冒険者、か。成り行きみたいなものだが悪くない。二足のわらじにはなるがこっちも本気で取り組むことにしよう。そして、本命の通信事業に生かせそうな事を見つけてみる。大変にはなるが辛くはない。やってやろうじゃないか。

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