第22話 創刊号を書こう

 学内新聞を書くことが決まって、最初の会合。ジャンヌが手配してくれた部室的な、そんな学内の一角で侃々諤々かんかんがくがくの議論を俺たちは交わしていた。


 学内でのものとは言え、新聞は新聞。紙面に何を乗せていくのか、どういった形で新聞を作っていくのか。これからを決める大事な話し合いだ。なにより第一号の内容と構成はおそらくはずっと踏襲されるものになる。その意味でも慎重に決めていく必要があるという訳だ。


「取り敢えず……僕としては学内の出来事、学院が関わる学外の出来事、時事に触れるコラムの3つでやっていきたいと思っているけど……どうかな?」

「悪くは無い。しかし俺としては学内で発行する都合上学院側からのお触れも入れたい。仮にも新聞なのだからそういった内容は欲しい。」

「しかし、マティアス様。刊行のペースにもよりますが常にお触れがあるとは限りませんが……。」


 今発言した長髪のこいつは……入学式の日にもいたマティアスの取り巻きの片割れだったな。名前は……まだ聞いていなかったな。


「無ければ無いでそのスペースには別な記事でも書けば良いだろう、セルジュ。」


 セルジュていうのか。覚えておくか。こいつも一応メンバーにはなるしな。


「オイラも同感でやんす。ついでに言えば……何かかにか学校側から伝えたい事なんてある気がするでやんす。」


 こいつもマティアスの取り巻きだったな。てか貴族の子弟とは思えん口調だな……。キャラ付けでは無いよな……?


「エリックの言うとおりだな。」


 短髪のこっちはエリックか。しかと覚えておこう。


「まぁ、案外わしら教員からも伝えたい事というのは結構あるしの。何も無いときは余程じゃな。」


 ジャンヌがそう言うならそんなものか。


 まぁ、内容についてはそんなもので良いか。次の議題に移ろうか。でもその前に……


「じゃあ、取り敢えず今までの議論をまとめると……。新聞に載せるのは、学内と学院が関わる学外の出来事、コラム、そして学院側からのお知らせ……ということで決定でいいかな?無論それを決めるのはリーダーのマティアスだけどね。」

「あ、ああ。わかった。そうだな。それでいこう。セルジュもエリックもそれで良いな?」

「もちろんです。」

「問題無いでやんす。」


 よかった。これで次の話に行ける。さて、と。次は刊行ペースかな。


「マティアス、次の議題は月に何回、あるいは何周に一回刊行するかを議論したいけど、良いかな?」

「そうしよう。ではまずは言い出したお前に聞いてみたい。どのくらいが良いか?」

「そうだね……。まぁ毎日となるとまず不可能だから……僕らの手が回る範囲で隔週くらい、かな。」


 このくらいがベストだろう。今後我々の学内新聞に参加する者が増えれば毎週に増やせるだろう。それまでは、というところだ。


「なるほど良いところだと思う。セルジュ、お前はどう思う?」

「私はそれでかまいません。そのくらいのペースであれば充分やっていけます。」

「念のため、オイラもその方向で賛成でやんす。」


 これで決めるべきことは決まったか。あとはどう印刷するかの手配か。この辺りは俺が手配すれば良いか。さすがにそこまでマティアスに任せるのは放置プレイが過ぎる。


 後は諸々の打ち合わせをして会議は解散という事になった。


 さて、どうするかな。印刷機なら活版印刷機でも作ればいいが……俺は機械設計エンジニアであったことは前世含めて一度も無い。ゼロから作るというのでは流石に難しい。……こういう時はツテを頼るに限る。”彼”が居るじゃないか。少なくとも俺が知る人間の中では一番こういうことに詳しいしまた、俺以上にツテがあるだろうし。


--------


「それで私の所に来たという訳だね。アルフォンス。」

「ええ。ローランさんなら何か知恵を出していただけるのではないかと思いまして。」


 そう、この魔術全盛の世界に存在する科学者の知り合いが俺にはいたのだった。最も技術者ではない以上必ず解決できるとまでは思っていないが。


「一応、どうすればよいかある程度は考えているのですが……。それだけでは完成までほど遠いので細かく詰を出来る方を探している、と言う次第です。」

「なるほどね。それなら私の所を頼ってくれたのは正解ともいえるかもね。私自身もある程度モノづくりには通じているし、職人にもツテがあるからね。」

「それはとても有難いです。」


 俺には無い方面の人脈、そこにアクセスをローランを通じてどうにかできるのは幸運なことである。


「で、どのようなモノを考えているのかな?」

「ええ、まずは……。」


 俺はざっくりとではあるが活版印刷の概要について話した。前世世界の漢字の文化圏であった日本などは表意文字を使う都合上用意しなければいけない活字……言ってしまえば文字が刻まれたハンコ状の部品がそれ相応に必要になってしまうがこの世界のこの国の文字はアルファベットのような文字、文字数も偶然か26文字であるため運用もしやすい。また、一説によれば紀元前の中国でも存在していたらしいから技術的問題もこの世界の文明レベルなら問題なく解決するであろう。……よく考えたら漢字文化圏でやっていたってのもすごい話だな。でもやろうと思えばできる。いわんや文字の少ない言語をや、という事でもあるな。


「なるほど……アルフォンス君、君のやってみたい事は大体理解できた。やってみても良いよ。」

「ありがとうございます。報酬に関して無論何かしらの形ではお約束させていただくつもりですが……。」

「いや、それには及ばないよ。そのアイデアだけで私に利益があるからね。」


 それは有難い。とはいえ活版印刷のアイデアも厳密には俺の物では無いから若干気は退けるが……。まあそれはそれだ。


「とりあえず、簡易的な物を作ってみることにするよ。差し当たって7日ほどもらえれば出来上がると思う。そのときにまた。」

「ありがとうございます。」


 こっちの手配はこれで良い。あとは……しっかりと中身を作るだけだな。そのためには、まずは取材体制の構築、特に取材される側の信頼関係の構築やらをやっておかんとな。そのあたり、学内の事とは言えコンプライアンスの指南はちゃんとやっておくことにしよう。無論マティアスの顔を立てつつ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る