第2話 ついでに追放

「ここに居たのか、カホウリン。ずいぶん探したぞ」


 いきなり、ノックもなしに男が入ってくる。


「えっ、あっ、すいませんジャミスーズさま」


 どうやら、ぞくではなくカホウリンの知り合いみたいだな。


「騎士団長どのは、いかがした?」


 騎士団長を、探していたらしいな。


「それが、その………」


 言葉を、にごすカホウリン。


『ここにいるぞ!!』


 空気を読まず、声を出す騎士団長。

 マズくないか?


「ちょっ、ちょっと出てもらえますか?」


 入って来たジャミスーズを、反対にクルッと回転させて、押し出そうとするカホウリン。


「おい、どうしたカホウリン! 騎士団長どのは、ご無事なのか?」


 手足を、バタバタするジャミスーズ。


「大丈夫です、少し出てください」


 思い切り、ジャミスーズの背中を押すカホウリン。


「おぉ、少しだぞ?」


 折れて、部屋を出るジャミスーズ。


「はいッ」


バタン!


 ドアを、勢いよく閉めるカホウリン。


「なんなんだ、まったく………」


 いろいろと、変なことが起きやがる。

 こちとら、全身が痛いのに。


「フゥー」


『どうした? カホウリンよ』


 疑問を、ぶつける騎士団長のケンタクロシスト。


「こんな………蘇生そせいに失敗して、剣に騎士団長さまの魂を入れたなんて知られたら、せっかく苦労して近衛騎士団に入って、ソードのチャームを手に入れたのにッ………クビになっちゃうよ」


 半べそで、訴えるカホウリン。


『それは、仕方のないことだし、クビにならないように、わしから女王様に進言するから』


 やさしく、語りかけるケンタクロシスト。


「いいえ、女王の性格からして、極刑は免れません」


 どうやら、厳しい人なんだね。


『むぅー、それもそうか………』


 剣になった、騎士団長ケンタクロシストが、うなだれる。


「あの~」


 オレも、言いたいことがある。


「今、大事な話をしているのです。部外者は口を挟まないでください!」


 だいぶ、追い込まれているカホウリン。


『まぁ、そう言うなカホウリン。話してみてくれ』


「要は、オレが騎士団長のフリをすればイイんだろ。それで、丸くおさまる話だろ?」


 ちょっと、提案してみる。

 オレが、剣に変えられたら詰みそうだし。


「えっ!?」


『そうかッ、そのアイデアがあったな』


 いや、それしかないって。


「オレは、口をモゴモゴ動かすからさ、その間に騎士団長が話すと。そうしたらオレが、しゃべっているように見えるっしょ?」


 まぁ、うまくいくかは別としてさ。


『よし、そうしよう』


 決断の早い騎士団長。


「まだか、カホウリン!」


 しびれを切らせた、ジャミスーズが外で大声を出す。


「も、もう大丈夫です~」


「入るぞ!騎士団長、ご無事でしたか!」


『あっ、あー見ての通りだ』


 なんとか、騎士団長のしゃべりに口を合わせるオレ。


「ずいぶんと、派手にやられたみたいだな」


 なんだ、全身を見ながら苦々しい顔を、一瞬見せたが。


『まぁな。でもカホウリンの魔力が回復すれば歩けるようには、してもらえるさ』


 えっ、そんなのすぐに歩けるようにしてよー。


「ドラゴンに、踏み潰されたにしては、よく生還されたな」


「えっ、今、なんて言いました?」


 ジャミスーズの発言に、異常に神経を高ぶらせるカホウリン。


「はっ?」


 変な、汗が出るジャミスーズ。


「今、ドラゴンに踏み潰されたって………」


 問いただすカホウリン。


「それは、その、兵士に聞いたのだ。それより女王は、激怒しておられる」


 急に、話題を変えるジャミスーズ。


『それは、なぜです?』


「聞くところによればドラゴンは、まだ生きているそうじゃあないか?」


 両腰に、手を置いて鼻息を荒くするジャミスーズ。


「ちょっと待って!」


 どうにも、腑に落ちなくて話を切るカホウリン。


「えっ?」


「さっきから、なにか違和感があるわ」


 多少、イラついてきたカホウリン。


『どうしたカホウリン?』


 騎士団長が、心配そうに聞く。


「ねぇ、ジャミスーズ。あなた兵士から騎士団長さまが、ドラゴンに踏み潰されたって聞いたって言ったわよね?」


「あぁ、言ったがそれがどうした?」


 鋭く言われて、逆切れするジャミスーズ。


「そんなこと、出来ないのよ」


「どうして、そんなことが言える?」


「それは、わたしとケンタクロシストさまだ

けが、生きてドラゴンの谷を出られた………他の5名はもう即死に近い死に方だったからよ」


 さすがに、矛盾があるな。


「うぐっ、それは………」


 挙動が、おかしくなるジャミスーズ。


「あなたは、おそらくがけの上から最初に、騎士団長さまが潰されたのを確認して、王都に報告に行った。そうでしょ?」


 ズバリと、核心をつくカホウリン。


「なにを、そのような………」


 あくまでも、シラをきるジャミスーズ。


「イイわ、決闘をしましょう!」


「はぁ? 決闘は、女王に固く禁じられておるだろうが!」


 決闘をすれば、おたずね者になり、すぐ投獄されてしまう。


「カードバトルで、決着つけましょう」


 カードバトルは、認められている。


「おれに? カードバトルで勝つ? 冗談だろおい」


 半笑いのジャミスーズ。


「さあ、勝負よ!」


 右手に、デッキを握りしめ、ポケットから取り出す。


「受けてたつ。後悔して吠え面かかせてやる!」


「「フィールドオープン、開放!」」


 声を、そろえる。


「えっ、なにコレ?」


 周囲の、景色がゆがんでいる。

 四次元ですか、ここは?


『第1フレーム』


 女性の声がする。


「まずは、おれのターンだな。ドロー。ロングホーンビートル召喚。ゴーシュート」


 手元に5枚のカード。そして、カードの山から、1枚引いて手札にして、6枚から1枚テーブルに置くと、カブトムシの頭部を模したコスプレをした女性が、出現する。

 その人が、ボーリングっぽい動きをする。


「フィールド展開。炎の坑窟こうくつレベル1。フラッシュタイミング、バックパス!」


 カホウリンが、カードを2枚テーブルに置く。

 ボーリングの球が、火山の洞窟内を突き進む。

 しかし、マグマの熱風で押し戻される。 


「させるかよ。ツノでつく」


 コスプレの女性が、しゃがみこんで頭のツノで、戻って来た球をまた押す。


ガコーン


 10本あるピンに、命中して飛んでいく。

 なんだ? ボーリングっぽいって思ったら、ボーリングだわコレ。


『ストライク』


「あ゛あ゛ーーッ」


 どうやら、ピンが倒れると、受けた方の体にダメージがあるみたいだ。

 カホウリンが、痛みにもだえる。


「フ………ハーッハッハ、口ほどにもないなカホウリン!」


 余裕を、見せるジャミスーズ。


「ふぅーッふぅーッ、まだ勝負はこれからよ! わたしのターン。ドロー。ファンシーキャット召喚。ゴーシュート!」


 ネコ耳を付けた、メイドがあらわれてボーリングの球を投げる。


「フィールド展開。雨の山脈レベル1。フラッシュタイミング、トス!」


 背の短い草が、球の勢いを止めて跳ね返す。


「させない。手玉にとる」


 メイドが、両手で遊ぶように球を扱って押し返す。


ガコーン


 8本の、ピンが倒れる。


「クッ」


 痛みに、耐えるジャミスーズ。


「あーん。2本残っちゃった、残念!」


「フン。アテが外れたな」


「まだまだぁ。スペアを取ればイイんだもん。いっけぇーゴーシュート!」


「雨の山脈の効果発動。落石!」


 どこからともなく、石が降り注ぐ。


「あぁっ! コース変わっちゃった」


コーーン


 からくも、1本だけピンを倒す。


「フフフ、1本残ってスペアならずだな」


 かなり、安心した面になるジャミスーズ。


「くやしい………」


 唇を、噛み締めるカホウリン。


『第2フレーム』


「よし、おれのターン。ドロー。よし、次もストライクもらうぜ」


 ニヤリと、笑うジャミスーズ。


「させないわ!」


「ミルドック召喚。ゴーシュート!」


 グレーの、ピチピチ全身タイツに、シルバーの髪色にパーマを当てた女性が出て、球を投げる。


「炎の坑窟レベル2。フラッシュタイミング、ノックオン!」


 カホウリンが、叫ぶ。

 球の、軌道がそれて闇に吸い込まれる。


「なにぃ!!」


「残念だったわね。ガターよ」


 ニコッと、笑うカホウリン。


「クソッ! まだスペアを取れば………」


「フッ、どうだかね」


「いけっミルドック。ゴーシュート!」


「させないわ」


「なにぃ!?」


「炎の坑窟レベル2の効果発動。落盤!」


 洞窟を、ふさぐように岩が落ちる。


「クソッ!」


ガラガラ

ガコーン


 それでも、ピンに当たる。


「ギャア゛」


 のたうち回るカホウリン。


「クソッ! 8ピンしか倒れなかった………26かッ」


「ハァハァ、残念だったわね」


 ゆっくりと、立ち上がるカホウリン。


「チッ!」


「わたしのターン。ドロー。オフロードバード召喚。ゴーシュート!」


 ダチョウのような、コスプレをした女性が球を投げる。


「フィールド展開。」


「なにっ!」


 どうやら、フィールドを変更するみたいだ。


「霧の細道レベル1。フラッシュタイミング、インターセプト!」


「えぇーッ!」


バトルは、続き………


『第10フレーム』


「はぁぁはぁぁ」


 しんどそうに、荒い息をするジャミスーズ。


「ハァハァハァ」


 肩を、上下させ息をするカホウリン。


「お前、もう良カード残ってないだろ?」


 探るような、言葉を言うジャミスーズ。


「ハァハァ、それはあなたの方でしょ!」


 息も、絶え絶えなカホウリン。


「まさか。この第10フレームの重要性は、わかっているつもりだが?」


 虚勢きょせいをはるジャミスーズ。


「どうだかね」


「ぐぬぬ。おれのターン。こいっドロー。………クッ」


「アハッ、イイの出たかしら?」


 思わず、笑顔になるカホウリン。


「うるさい、ミルドック召喚。ゴーシュート!!」


「炎の坑窟レベル10の効果発動。ミルドックを焼きつくせ!」


グォオオ

ギャア


 投げ終わった直後に、球ごと炎に包まれるミルドック。


ガコン


「キャッ!」


「なんと!まさかの1本!」


 9ピン残ったな。


「アハハ、ガターには出来なかったけど!」


 苦笑いするカホウリン。


「チッ!でも、スペアは取らせてもらうぞ。ゴーシュート!」


「させない! フラッシュタイミング、スチール!」


「チッ、ガターかよ!9ピン残ったか………」


「残念でしたー」


 満面の、笑みのカホウリン。


「要は、もうお前に点を取らせなければ、どうと言うことはない!!」


 カッと、目を見開くジャミスーズ。


「それは、どうかしら?」


「なんだ、余裕だな………」


 点数的にはストライクが出れば、勝てるがどうするカホウリンちゃん。


「わたしのターン。ドロー。ジャンクヒポポタマス召喚。ゴーシュート!!!」


「なっ! なんだとォォォ!!!」


『勝負あったな』


 騎士団長が、つぶやく。


「そうなんだ?」


 カホウリンの余裕は、強カードを引いていたからなんだな。


「ウワーァァァ」


「よし、勝ったわ」


 2連続ストライクで、逆転勝利したカホウリン。


『おめでとう、カホウリン』


「ありがとうございます騎士団長!」


 跳ねあがって、よろこぶカホウリン。


『さて、詳しく聞こうか』


 騎士団長の言葉で、ジャミスーズを見下ろすカホウリン。


「クッ………ある人に頼まれて騎士団長が死ぬところを確認して来いと」


「誰だ、そんなことを依頼したのは?」


「………」


「言え!」


『もうイイ。だいたいのめぼしは、ついている』


 落ち着いた口調で、残念そうに口にする。

 剣だが、表情が見えるような気がして、見つめるカホウリン。


「騎士団長が、そうおっしゃるのなら………よかったな、命びろいを………あれ?」


 カホウリンが、ジャミスーズの方を見ると、すでに姿がなかった。


『逃げたか、よし魔力は回復したろ? 全回復してくれ』


「はい、騎士団長さま」


 カホウリンが、剣に向かって両手をかかげると、


『いや、わしじゃなくて、ベッドに寝ている男だ』


「あっ、そうですよね」


ホワワ


 温かい光が、オレを包む。


「うぉお、動けるッ」


 体が、全然痛くないぞ!


『さあ、王都へと帰還しよう』


 馬に乗って、ひた走る。


謁見えっけんの間


「ようやく戻ったか、この役立たずが!」


 なんか、めっちゃ怒っているよ。

 コイツが、女王なのか?


『すいません女王様。部隊は全滅してし───』


 オレは、ヒザを地面につけたくないが、カホウリンが魔法を使ったみたい。


「クビじゃ!」


 騎士団長の話を、全部聞くことなく解雇を言いわたす女王。


『えっ?』


「騎士団長、お前を追放する!」


『なっ』


「お待ちください、どうかお考えを改めていた───」


 女王を、制止するカホウリン。


「クビ!クビ!クビィ!」


 気でも、おかしくなったように連呼する女王。

 大丈夫か、コイツ?


「それなら、わたしも───」


 止めるつもりで、言ったカホウリンだが、


『待てカホウリン!』


「お前も、クビじあーーーツッ」

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