第13話 きたきた忌憚

「だいたい、都合のイイことばかり言いやがる。人間ってヤツはよ!」


 バフティーは、とにかくなにかに怒っているようだ。

 なんだか、初対面からこういうテンションで来られると、なんだか話しづらいんだが、


「どうした? いったいなにに怒っているんだ?」


 聞いてみて、解決法が見つかるかも知れないし、一応聞いてみるのだが、


「ワッチーの怒りの理由なんて、話したところで、どうもこうもなんねぇ!」


 理由があっても、話そうとしないバフティー。


「なんだ? 言ってみないとわからないだろ───」


 詳細を、聞こうとするのだが、


「うるさい。ワッチーが勝ったら、すぐにでも立ち去れ!」


 まったく、聞く気のないバフティー。


「おう! わかったよ! オレが勝ったら道をあけてもらうぞ!」


 あえて、あまり触れない方がイイのかも知れない。


「あぁ、わかった。ってか、そこの女はワッチーがカードゲームをしようと言っても、断ったからな」


 バフティーが、グミちゃんを指差す。


「えっ?」


 グミちゃんの顔を、一斉に見るパーティーメンバー。


「………しょうがないじゃない。すぐ魔導書を手に入れたかったから、力ずくでやったのよ」


 多少、悪びれる素振りを見せるグミちゃん。

 なんだか、その事が怒りの原因じゃないだろうな?


「なんだよソレ? だったら、改めてカードゲームで勝負だ!」


 そうすれば、満足なんだろうし。


「イイわよ。グチョグチョにしてあげる」


 半笑いのバフティー。

 なんだか、コワいな。


「グチョグチョって………」


 響きが、なにか引っかかるのだが。


「「フィールドオープン、開放」」


 声を、合わせるオレとバフティー。


『第1フレーム』


「まずは、ワッチーのターンだな。ドロー。うーん………召喚はなし。ワッチーが投げる。ゴーシュート!!」


 なんと、バフティー自ら投げるらしい。

 カードを、温存する作戦か、はたまたよほど投球に自信があるのか!?


「マジかよ!?」


 表情からは、読み取れないな。

 なにを、考えてやがる。


「集中して、ケンタクロシスト! フイールド展開!」


 カホウリンが、声をかけてくれる。


「おう!! フイールド展開。月の氷柱レベル1。フラッシュタイミング、トス!」


 まずは、無難なチョイスで様子を見るとしますかねぇ。


「させるかぁ! ツノでつく!」


 バフティーは、自分の頭のツノを器用に使って、球をはじく。


「なにぃ!?」


 ビックリだよ。

 人間には、マネ出来ないことだ。


コーーン


「1ピンかぁ、しまった!」


 1本しかピンが倒れないので、くやしがるバフティー。


「っつ!! ギャアーーーッ!!」


 オレの全身に、針で刺されたような刺激がはしり、電流が流れたようになった。


「ケンタクロシスト! 大丈夫!?」


 オレの様子を見て、心配するカホウリン。


「ぁああ、痛ってぇな。なんだコレ!?」


 まだ、シビれているよ。

 脳天を、エグられたんじゃないか!?


「騎士団長! どうしたんですか?」


 バドムーンも、心配する。


「いや、大丈夫だ! めっちゃ痛いけど………」


 ヤバいな、これは。


「なんだ? 1本だけの刺激で、その痛がりようは。10本倒れたら、失神するんじゃないだろうな!?」


 苦笑いするバフティー。


「うるせぇ! しかし、聞いてないよォー」


 なんだこの痛み。

 サフィスが、ほくそ笑んでいる姿が浮かぶ。


「2投目いくぞ! ゴーシュート!」


 指示を出すバフティー。


「月の氷柱レベル1の効果発動! 突き出ろ氷柱!」


 なにかで、防がないとと思い叫ぶオレ。


ガコーン


 地面から、突き出た氷の塊によって、球の軌道がそれて、スペアとはならなかった。


「チッ! 1本残ったか………」


 くやしがるバフティー。


「ウンギャアーーー」


 痛みに、悶えるオレ。


「ちょっと、リアクションが大げさね」


 カホウリンも、少し冷ややかに見る。


「いや、痛いってコレ! どうやっているんだよ、まったく! みんなも、こんな痛みに耐えてカードゲームをやっているんだな………」


 これ、ストライクだとマジで泣いてしまうかも。


「そうなのよ。けっこう、容赦ようしゃないわよ───」


 肩を、すくめるカホウリン。


「さあ、お前のターンだぞ!」


 割って入るバフティー。


「わかってるよ! えーっと、オレのターン。ドロー! ロングホーンビートル召喚! ゴーシュート!」


 セオリー通りに、弱いカードを使うオレ。


「フイールド展開。鏡の砂漠レベル1。フラッシュタイミング、バント!」


 バフティーは、余裕の表情だ。


「うわっ!」


 すぐ球がかえって来て、驚いてしまう。


「ツノでつくよ!」


 カホウリンが、見かねてアドバイスする。


「オッケー! ツノでつく!」


 ロングホーンビートルが、しゃがみこむ。


ガコーン


「よし、9ピンいけた!」


 やったぜ。

 ストライクではないが、弱いカードでよく取れた。


「ギャハッ!」


 お腹を押さえて、飛び上がるバフティー。


「おー、痛そうだなー」


 めちゃくちゃ大きな胸が、上下する。


「うるさい!」


 オレを、にらみつけるバフティー。


「それじゃあ、もう1発! ゴーシュート!」


 ロングホーンビートルに、指示する。


「鏡の砂漠レベル1の効果発動。砂塵!」


 いきなり、砂ぼこりが舞って視界がさえぎられる。


「うわぁ」


 どうなった?


コーーン


 ピンに、当たる音が響く。


「ギャア」


 四つん這いになり、おしりを右手で押さえるバフティー。


「やった、スペア!!」


 これは、最初からイイ感じだぞ!


「………やるわね」


 中腰で、おしりをさするバフティー。


「やめた方が、イイんじゃない?」


 お互いに、痛いのはさ。


「やめるもんですか!」


 鼻息の荒いバフティー。


「そうなんだ?」


 なんだよ。

 こんなのが、あと9フレームも続くのか!


『第2フレーム』


「ワッチーのターン。ドロー! ミルドック召喚。ゴーシュート!」


 おそらく、弱カードを出したバフティー。


「月の氷柱レベル2。フラッシュタイミング、バックパス!」


 だんだん、やり方がわかってきたぞ。


「させないわ。キバでかむ!」


 球を、ガブッと噛むミルドック。


ガコン


「やった、ストライクだワ!」


 なんと、10ピンを倒した。

 パーティーメンバーも、みんな驚いている。


「いっ!!! ってぇーー!」


 これが、一気に10本倒れた痛みか!


「どうやら、気絶はしなかったようね」


 口角を上げるバフティー。


「ハァハァ………この程度で、気絶なんかするかよ………」


 シビれを感じつつも、なんとか立ち上がる。


「それなら、あなたのターンよ」


 オレを、指差すバフティー。


「オレのターン。ドロー」


 やってやる。

 あいつにも、ストライクで同じ痛みを!


「スペアの後だから、ストライク取って!」


 カホウリンが、声をかける。


「あっうん、そうだよね。オフロードバード召喚。ゴーシュート!」


 ちょっと、冷静になるオレ。


「鏡の砂漠レベル2。フラッシュタイミング、インターセプト!!」


 強いフラッシュタイミングカードを切ってきたバフティー。


「わっ!」


 下手すると、ガターに一直線だ。


「ガターは、まぬがれたわ。打ち返して!」


 カホウリンが、すぐアドバイスしてくれる。

 なんとか、助かった!


「おしっ! オフロードバード、キックだ!」


 派手に、球をけるオフロードバード。


ガコーン


 惜しくも、9ピン倒れる。


「うわぁ、1ピン残った!」


 チャンスだったのに、逃してしまった。


「ギャアーーーッ」


 バフティーが、痛みに耐える。


「確実に、ストライクだと思ったのに………」


 10ピン倒れそうなコースに行っていたのだが………


「ハァハァ、残念だったわね」


 スッと、立ち上がるバフティー。


「くっ! 1ピン取りに行く! ゴーシュート!」


 そう、オフロードバードに指示するが、


「鏡の砂漠レベル2の効果発動、ミラーイリュージョン」


 バフティーが、そう言うと、


「えっ、残り1ピンなのに何本にも見える………」


 万華鏡の中に、入り込んだように視界がくらむ。


ドッ


 ピンに、当たらなかった。


「えーっ、スペアならずかよ~」


 マズいな~。


「ハッハー、残念だったわね」


 余裕の表情になるバフティー。


『第3フレーム』


「ケンタクロシスト! 連続ストライクを防いで!!」


 カホウリンが、アドバイスする。


「ああ、やってみるよ!」


 防ぎたいのは、そうなんだけど。

 手札を、チラッと見る。


「防げるかしらね」


 その様子を見て、ニヤけるバフティー。


「やってやるさ!」


 わざと、ニッコリと笑う。


「フフフ、ワッチーのターン。ドロー。フフ」


 なぜか、笑いがこらえきれないバフティー。


「どうした?」


 変な汗が出そうだ。


「いえ。ジャンクヒポポタマス召喚!」


 強カードを出すバフティー。


「なっ! なんだって!?」


 そんなの、第10フレーム目に出すヤツじゃんか。


「フフ、ゴーシュート!!」


 不適な笑みをうかべるバフティー。


「月の氷柱レベル3。フラッシュタイミング、バント」


 すごく判断に悩む。

 ここで、強カードをぶつけるべきなのか。


「なっ………」


 絶句するカホウリン。


「ハハハ。ジャンクヒポポタマス、突進!!」


 勢いよく、突っ込むジャンクヒポポタマス。


ガコーーン


 10ピンが、宙を舞う。


「連続ストライクね!」


 親指を立てるバフティー。


「うぎゃあああ」


 信じられないほどの痛みが、体を突き抜ける。


「ダメ………もう見てらんない………」


 カホウリンが、目を伏せる。


「どうした? 降参か?」


 バフティーは、見下すようにオレを見る。


「フ………フーフー。ふざけんな!」


 少々、息を整えるのに時間がかかる。


「まだ、威勢がイイわね~」


 舌を出すバフティー。


「まだ、負けたわけじゃねぇーーッ」


 気合いを入れ直す。


「威勢だけじゃないってところを、見せてもらおうじゃない」


 真剣な顔をするバフティー。


「やってやる! オレのターン。ドロー。オフロードバード召喚。ゴーシュート!」


 ここから、意地のぶつかり合いだ。


「鏡の砂漠レベル3。フラッシュタイミング、トス」


 バフティーは、涼しい顔でカードを出すが、


「えっ、トス?」


 カホウリンが、驚く。


「押しかえせオフロードバード! キックだ!!」


 相手が、弱カードを出したってことは、まだ勝算があるかも知れない。


ガコーーン


「よしっ、ストライク!」


 このゲームで、初めてストライクが取れたぜ!


「ア゛ア゛ア゛ーン」


 あお向けに、ひっくり返って手足をブルブルさせるバフティー。


「どうした? やめとくか?」


 すごい体勢になったバフティーを見て、心配になるオレ。


「ハァ………ハァ………久しぶりのこの感じ………ゾクゾクするわ」


 ゆっくりと、立ち上がるバフティー。


「えっ? ヤベーなマジで………」


 そんなになってまで、なぜやるんだ?


「当然、続けるわよ………」


 肩で、息をするバフティー。


『第4フレーム』


「ここは、絶対にストライクを阻止してみせる!」


 さすがに、3連続ストライクだと勝てる見込みが薄い。


「あら、そんなこと出来るかしらね?」


 苦笑いするバフティー。


「やってやる!」


 拳を、突き出すオレ。


「それじゃあ、ワッチーのターン。ドロー。ロングホーンビートル召喚。ゴーシュート!」


 なんと、弱カードを出すバフティー。


「どうした、弾切れか? 月の氷柱レベル4。フラッシュタイミング、インターセプト!」


 絶対に、阻止してみせる。


「すごい! インターセプトがきまったわ!」


 球が、溝に吸い込まれていく。


ゴーーン


「ちっ! ガターかよ!」


 くやしがるバフティー。


「やっ………やったォラアアアッ」


 やったぜ!

 これで、わからなくなった。


「ロングホーンビートル、もう1発。ゴーシュート!」


 そう指示を出して、球を投げさせるが、


「月の氷柱レベル4の効果発動!突き出ろ氷柱!」


 邪魔をするように、氷柱がそびえ立つ。


カコッ


「なんだよ2本って………」


 コースがそれて、2ピンだけ倒す。


「っツ、よしっ!」


 なんとか、これで勝てるかも知れない。


「ケンタクロシストー頑張って!」


 応援してくれるカホウリン。


「うん、やってやるぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る