第14話 どれどれ味噌

「モグモグ………」


 目の前のテーブルに並べられた料理を、黙々と食べ続けるラヴカシール。


「あっ、あの~」


 シーキンが、声をかける。


「うん?」


 シーキンを、一瞥いちべつもせず返事するラヴカシール。


「どうでしょう、お味の方は………?」


 苦笑いするシーキン。


「ん~~~まぁまぁかなぁー」


 骨付き肉を、しゃぶって骨を投げるラヴカシール。

 シーキンの顔に当たる。


「さようで………」


 怒りを、必死に押さえるシーキン。


「あぁ、塩気が全然足らない!」


 スプーンを、シーキンに向けるラヴカシール。


「あっ、さようでございますか?」


 投げるかと思い、身を固くするシーキン。


「そうそう。濃ゆい味が好きなのだー」


 そう言いつつ、スープを豪快にすくうラヴカシール。


「はぁ………」


 肩を、すくめるシーキン。


「なにか、文句でも?」


 鋭い目で、シーキンをにらむラヴカシール。


「イヤ! 料理を作りなおさせるので今、しばらく!」


 テーブルに寄るシーキン。


「もうイイや………」


 口を、ナプキンでぬぐうラヴカシール。


「はい?」


「お腹いっぱいになったから、帰るわ~」


 立ち上がるラヴカシール。


「それじゃあ、騎士団長は探さないでよろしいですか?」


 手もみするシーキン。


「いや、次に来るまでに探しておけよ。さもないと………」


 口角を上げるラヴカシール。


「さもないと?」


 冷や汗が、にじむシーキン。


「また、城内を暴れちゃうぞ!」


 顔の横で、指を開いて閉じてを繰り返すラヴカシール。


「ヒィィ!!」


 顔色が、青ざめるシーキン。


「それじゃまー、よろしくね~」


 そう言って、たくさんの小さなコウモリになって、パッと消えるラヴカシール。


「はい、かしこまりました!」


 頭を下げるシーキン。


「………ふぅ。女王さまも、探さなければならぬのに………」


 つぶやくシーキン。


「いかがいたしましょう?」


 兵士が聞く。


「捜索隊を、編成しなおさなければ………」


 腕組みするシーキン。


「はい、2つに分けます!」


 兵士が、返事する。


「早急に、探し出せ!」


「はい!」


 部屋から、走って飛び出す兵士。


「あっ、お帰りなさいませラヴカシールさま」


 別の場所に、姿をあらわすラヴカシール。

 40代くらいの男性が、あいさつする。


「ルーゴよ。わての留守中に、なにか変わったことはないか?」


 ルーゴの目を、見つめるラヴカシール。

 ルーゴの目に、生気がない。


「変わったことと言えば、冒険者のパーティが侵入して来たようです」


 ロボットのように返事するルーゴ。


「それは、前から侵入しているハモミールとかいうヤツのことか?」


 壁に、もたれるラヴカシール。


「いえ、別の連中でして」


 気配を消して、確認したルーゴ 。


「それで、どうした?」


 どう対処したのか聞く。


「今、バフティーを向かわせましたので、駆除は出来ているものと思われます」


 特に、表情を変えないルーゴ。


「そうか。それなら、安心だな」


 壁から、体を離すラヴカシール。


「はい!」


 コクッと、頭を下げるルーゴ。


「わては、用事があるから、また出かけるぞ!」


 小さなコウモリに変化していく。


「はい………」


 その様子を見るルーゴ。


「もし、冒険者が上層階まで来たら、そう言ってくれ」


 コウモリの集団から、声が響く。


「わかりました」


 頭を下げるルーゴ。


「それじゃあ」


 透明になって消えるラヴカシール。


「忙しいお方だな」


 天井を、見上げるルーゴ。


「たっだいまー」


 ラヴカシールは、残雪の山々の谷にある野原に立つ。

 たくさんの花が咲いていて、気持ちのよいところだ。


「おう、ラヴよ。よく戻った」


 ヒゲに、顔半分が覆われたじいさんが言う。


「ねぇ、ドラゴンが卵を温めていたじゃん。あれ、どうなった?」


 ここは、ラヴカシールのふるさと。

 ドラゴン農場がある。


「おお、アレは今朝に卵からかえったぞ! 見るか?」


 じいさんが、手招きする。


「本当に? 見たい見たい!」


 子供のような表情になるラヴカシール。


「行っておいで」


 ひときわ大きな建物を、指差すじいさん。


「は~い」


 駆け出すラヴカシール。


「あぁ、お嬢様」


 大きなドアを開けて中に入ると、頭巾をかぶった飼育係が、頭を下げる。


「どれどれ? 卵からかえったって!?」


 ソワソワしながら、歩くラヴカシール。


「ホラ、この子たちですよ~」


 指差す先に、母ドラゴンに抱かれた子供ドラゴンがいる。


「うわあ、かわいい~」


 目が、ハートになるラヴカシール。


「でしょー」


「もっと、近くで見たい!」


 10メートルくらい離れて見ていたラヴカシールだが、徐々に近づく。


「ダメですよー。母親は、気が立っていますからね~」


 ラヴカシールの前に、立ちふさがる飼育係。


「えーっ。ちょっとならイイでしょ?」


 飼育係をよけて、前に進んでいくラヴカシール。


「ちょっとでもダメです。母親が攻撃して来たり、育児放棄したりしますからね───」


 そう、飼育係が言うが聞く様子のないラヴカシール。


「フフフ~ン」


 ズンズン進むラヴカシール。


「って、聞いてねぇ!」


「ギャッ。ギャアアア!!」


 警戒して、奇声をあげるドラゴン。


「よーし、よーし」


 構わず進むラヴカシール。


「グァアアア、ボーーーォォォ」


 炎を、吹き出すドラゴン。


「ヒィィ!!!」


 ラヴカシールと飼育係が、炎に包まれる。


「炎なんて、慣れているから大丈夫! なぁ、そうだろ………ん!?」


 ラヴカシールは、平気だ。


「ボ、ボ、ボ………」


 飼育係は、服がなくなってしまった。


「おい、大丈夫かよ~」


 半笑いのラヴカシール。


「………大丈夫デス」


 口から、ケムリを吹き出す飼育係。


「ならイイけど!」


その頃


「そっ! そんな! ギャアーーーーーッ」


 バフティーは、オレが第9フレームから連続でストライクを取って、倒れこむ。


「ハァ………ハァ………勝ったぞーーーッ」


 ギリギリの攻防戦を、なんとか取ることが出来たオレ。


『バフティー戦闘不能』


 バフティーは、倒れたままだ。


「やったわ! ケンタクロシスト!!」


 よろこぶカホウリン。


「おう、とてもイイ勝負だったなバフティー?」


 バフティーに、目線を落とす。


「………」


 ピクりともしないバフティー。


「………えっ? なんだ、どうした!?」


 どうしたのだろうか。


「………」


 バフティーに近づいてみる。


「ダメだ、呼吸していない………」


 バフティーの口に、耳を近づけたが、息がない。

 グミちゃんの顔を見るオレ。


「イヤよ。こんなモンスターに回復魔法をかけるなんて、魔力の無駄使いだわ!」


 回復を、拒否するグミちゃん。


「でも、呼吸をしてない! 助けなきゃ! カホウリン?」


 カホウリンの顔を見る。


「………残念だけど、グミちゃんさんと同意見だわ」


 首を振るカホウリン。


「なんでだよォ。オレは、あきらめないぞ」


 心臓マッサージするオレ。


「なにする気よ!」


 不思議そうな顔をするカホウリン。


「こうする!」


 バフティーに、人工呼吸をする。


「ヒアッ」


 顔を、赤くするカホウリン。


「おい、正気かお前!」


 グミちゃんが、半笑いで見下ろす。


「ハァハァ、このまま死んだら後味が悪いだろ!」


 殺したくない!


「………わかったわ。魔法で助けるからモンスターにキスするのは、や───」


 そう、言いかけたカホウリン。


「ゲホッ!!」


 意識を、取り戻すバフティー。


「おお、よかった!」


 バフティーの顔を、のぞきこむオレ。


「な………なにを………」


 状況が、よくわからないバフティー。


「人工呼吸で、意識が戻った!」


 あまり、詳しく言わない。


「助けてくれた………のか?」


 オレを、見つめるバフティー。


「まぁ、結果的にそういうこと───」


 と、言いかけると、


「口から、直接息を入れてたわ!」


 カホウリンが、いらないことを言う。


「えっ! ありがとう!!」


 ムクッと起き上がるバフティー。


「ぅガッ………くるしい!」


 バフティーに、キツく抱きつかれた。


「よかったですわね!」


 カホウリンは、一瞬ニコッと笑い真顔になる。


「ちょっ、カホウリン。なんで、機嫌が悪くなっているんだ!?」


 どうしてだよ!?


「知りません、そんなの!」


 向こうを向くカホウリン。


「なんか、誤解してないか!?」


 人工呼吸が、気にいらないのか?


「フン!!」


 ますます、機嫌が悪くなるカホウリン。


「おい………まったくどうなってるんだ」


 機嫌なおしてくれよ。


「わたしはもう、次の階に行きます!」


 スタスタと、歩きだすカホウリン。


「ちょっと待てって! めっちゃ強いヤツがいるんだから、単独行動はやめろって!」


 勝手に、上に行くなよ。


「行かないで、もう1回キスしよー」


 バフティーが、しがみつく。


「いや、キスじゃないっての!」


 めんどうなことになったな。


「なによ! 腹立つ! ………えッ、あれぇーーーッ」


 ツカツカと、階段を登っていたカホウリンが声をあげる。


「おい、どうした!?」


 敵が、増えたのか?


「誰もいないわ………」


 ガランとしている。


「本当だ、どこに隠れているんだ………」


 逆に、人がいないと不気味だ。


「気配がないよな………」


 生物のいる様子がない。


「しばらく、ここで様子を見ようよ」


 このフロアで、敵を待ち伏せする。


「うん………そうね」


 パーティーメンバーが、床に座る。


「カードバトルしてみたら、お腹が減ったぞ!」


 話題を、変えてみる。


「そうよね。でも、あのスープしかないんじゃない?」


 カホウリンは、グミちゃんの方を見る。


「うーん、そうかぁ」


 味は、悪くないのだが………


「あの」


 バフティーが、声をかける。


「うん? どうしたのかな?」


 なぜか、ついて来たバフティー。


「干し肉なら、あるよ!」


 袋から、せんべいみたいなのを、取り出すバフティー。


「えっ! くれるの?」


 なんだか、うまそう。


「もちろん!」


 満面の笑みのバフティー。


「でも、どうして?」


 あんなにバトルしたのに。


「命を、救ってくれたお礼がしたくて!」


 助けたお礼らしい。


「あぁ、そうなんだね」


 それじゃあ、もらってもイイのか?


「それじゃあ、コレを」


 3枚ほど、手渡すバフティー。


「ちょっと! コレって何の肉なの!?」


 カホウリンが、なにかに気付く。


「馬の肉だよ。おいしいよ!」


 そう言うバフティーに、


「ヒッ!」


 顔を、背けるカホウリン。


「どうした? 食べないのかカホウリン?」


 今すぐ、かじりたい。


「騎士団長こそ、食べるんですか?」


 バドムーンが、聞いてくる。


「わたしたちは、食べないのでケンタクロシストは食べて………」


 か細い声のカホウリン。


「そうなんだ? いただきます。んゴッ、固いけど美味しいな~」


 けっこう、味がする。


「ごくり」


 オレの様子を見て、ツバを飲むカホウリン。


「うん、馬も案外イケるな。なんか、欲しそうに見てるけど?」


 カホウリンの、視線を感じる。


「べっ、別に欲しくないんだけど! お腹だって減ってないし………!!」


ぐぅ~


 お腹を鳴らして、顔が赤くなるカホウリン。


「いや、減ってるだろ」


 めっちゃ我慢しているな。


「スープなら、あるぞ!?」


 グミちゃんが、おすすめする。


「それは、絶対いらない」


 カホウリンと、バドムーンが拒否する。


「よし、それじゃあ十分待ったし、敵が出てこないなら、上に上がるかな!?」


 立ち上がる。


「そうね! 警戒しながら上がりましょう」


 パーティーメンバーも、立ち上がる。


「ですね。まだ、ジーターを倒したわけじゃあないんで!」


 ゆっくりと、階段に向かう。


「まぁ、進んで行けば、そのうち会えるだろ」


 バドムーンも、階段を登る。


「そうですよね。倒すのが目的じゃあなくて魔導書を持ち帰るのが目標ですからね」


 カホウリンも、ゆっくり階段を登る。


「そうそう。おや、誰かいるぞ………」


 上のフロアは、横に広くなっていて、ドアの前に、誰かが立っている。


「ジーターですか?」


 バドムーンが聞く。


「………うーん、髪の毛の色が違うな」


 黒っぽい茶色の髪色。


「グミちゃんあいつは、このフロアのボスですか?」


 そう、グミちゃんに聞くが、


「いや、このフロアまで来たことがないから、よくはわからないよ」


 下のフロアで、跳ねかえされていたグミちゃんには、初見のフロアだ。


「そうなんだね………」


「騎士団長、時間がもったいないので、突撃しましょう!」


 いきなり、斬り倒そうと言うバドムーン。


「待て、扉を開けて入るぞ」


 金色に、ふちどられた大きなドアを開ける男性。


「じゃあ、入る前に討ちましょう!」


 中腰から、立ち上がるバドムーンを引っ張る。


「いや、このフロアの確認が先だ!」


バタム


「むっ。チャンスだったのに………」


 不満そうなバドムーン。


「まぁ、よく確認しないで挟撃きょうげきされたらイヤだからね」


 こっちも、後ろから不意打ちされたくはない。


「それで、どうするの?」


 カホウリンが聞いてくる。


「まず、あっちの方を確認しよう」


 フロアの、反対側を指差す。


「そうね」


「下りの階段か。ということは………」


 行ってみると、下に螺旋階段がある。


「ここで2つの塔が、つながっているということか」


 ここが、合流地点だね。


「そうみたいね。降りて戦うの?」


 カホウリンが、確認する。


「いや、そっとしておこう」


 わざわざ、やぶ蛇でしょう。


「それが、賢明でしょう!」


 バドムーンも、同意する。


「それじゃあ、ドアを開けるぞ」


 豪華絢爛な扉を開く。


「来たか、冒険者!」


 向こうを向いていた男が、こちらを向く。


「えっ!?」


 カホウリンが、絶句する。


「どうしたカホウリン?」


 なにがあったんだ?


「お父さん………!?」

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