第2章
第8話 さくさく早急
「ワタシは、魔導書を探しに来た。どうだ、一緒に探してくれないか?」
グミちゃんが、仲間にならないか聞くと、
「なるほど、目的は同じか。我は、なかなかカードゲームが強くならなくてな、相手を倒せずに、ここで滞在して修行をしていたのだ」
次の階にいる敵を、倒すために滞在中だと言うハモミール。
なにが、彼をそこまで熱くしているのだろうか。
「えっ、やっぱりカードゲームで突破するつもりなんだ?」
グミちゃんが、不思議そうに言うと、
「と、言うと?」
ハモミールも、首をかしげる。
「ワタシはもう、力ずくで突破することにしたの。あなたも、協力してくれるわよね?」
力こぶを、作って見せるグミちゃん。
「………」
腕組みをして、黙るハモミール。
「そうしたら、確実に倒すことが出来るわ。だって、こっちには国で一番強い剣士の騎士団長が、ついているのだもの───」
ハモミールの反応を見て、力説するグミちゃんだが、
「………それは、少し違うな」
思わぬ返事をするハモミール。
「えっ?」
少し驚いて、のけ反るグミちゃん。
「我は、力で押すのは賛成しかねる。今しばらく、カードゲームで戦って倒すのを楽しみたいのだ」
純粋に、カードゲームを
「なっ!! なんでよ!」
目が点になるグミちゃん。
「あんな敵など、力でねじ伏せることは我の苦ではないが、そうすれば必ず心残りがある………」
要するに、カードゲームで負けたまま終わりたくないらしい。
「苦ではないって、ワタシは魔法を無効にされて苦労したの!」
けっこう、ヤバい状況まで追い込まれたグミちゃん。
「そうであったか」
魔法が、全くきかないわけではないが、強力なバリアを破る必要がある。
「なんか、よくわかんないけど、カードゲームで負けたのが、よっぽどくやしくて仕返しがしたいのね」
グミちゃんが、あわれみの視線をハモミールに向ける。
「それとも、少し違う───」
また、説明をしようとするハモミールを制するように、
「イイの! 結局、そういうことなら残念ね。ワタシたちは物理攻撃で突破することにしたから」
ハモミールを、指差して言い放つグミちゃん。
「残念だ。非常に残念!」
そう言いながら、首や指を鳴らし始めるハモミール。
「なに、もしかしてワタシたちを妨害しようとか、考えてないわよね?」
宙に浮いている、極太の魔法の杖を、手元に寄せるグミちゃん。
「もちろん、楽しみを奪うようであれば、それを阻止させてもらうぞ」
準備運動をするハモミール。
「やると言うなら、
魔法の杖を、掴むグミちゃん。
「それは、我のセリフだ!」
姿勢を低くして、構えるハモミール。
「ちょっ、なんで戦う感じになっているのよ!?」
カホウリンが、あわてて止めるのだが、
「邪魔をするヤツは、敵よ! 腕ならしと思って、倒して!!」
こっちを、振り向くことなく答えるグミちゃん。
「そんな、むちゃくちゃだな」
オレも、なんで戦うのかサッパリだぜ。
「そうよ! なんで、
カホウリンが、考えなおすように言うが、
「そちらがやらないなら、こちらからやるぞ。ファイヤー」
それぞれの手のひらから、火の球を出してその6つの球を一斉に飛ばすハモミール。
ドゴーン
「わっ! いきなりなにしやがる!」
とんでもないヤツだな。
「先手必勝! 次は、必ず当てるぞ!」
また、6つの火の球を出すハモミール。
「クッ! カホウリン、ガードを」
バリアを、張ってもらわないと身の危険を感じる。
「はい」
魔法の杖を、ヒョイッと突き出すカホウリン。
「こちらも、黙っていられないわ。ファイヤーアロー!!」
丸太を、少しハモミールに傾けると、炎の矢が無数に飛んでいく。
ズッドーーン
「くっ!」
両腕で、防御姿勢をとったハモミール。
全くの無傷だ。
「なに? 効いてないだと!?」
ビックリするグミちゃん。
「相変わらずの、大火力だなグミ!」
なにやら、グミの攻撃を見たことがあるみたいな、言いまわしをするハモミール。
「チッ! ケン、お前はヤツの背後から叩け!」
グミちゃんが、オレに指示する。
「おっ、おう!」
2人の、圧倒的な攻撃力を見せつけられて、正直関わりたくないオレ。
「気をつけて!」
カホウリンが、声をかけてくれる。
「おう、まかせとけ! なぁ、騎士団長」
剣を抜いて、話しかける。
「僕は、左手から行きます!」
バドムーンが、左に駆け出す。
「お、おう」
そう、返事はしたものの、なぜか騎士団長の反応がないことに違和感を感じるオレ。
「どうかしましたか?」
心配そうな顔をするカホウリン。
「いや、その。おい、寝てるのか? 起きてくれ!」
剣を、上下左右に揺すってみる。
「おや、様子が変ですねぇ」
それを見ていたハモミールが、不適な笑みを浮かべる。
「どこ見てる! ファイヤー」
攻撃を、たたみかけるグミちゃん。
「クッ! そんなものでしたか」
炎に包まれるが、なんともなっていないハモミール。
「チッ………化け物め!」
バドムーンが、チラッと見えたので、一歩引くグミちゃん。
「でゃああ!!」
ハモミールの、右後方から切りかかるバドムーン。
「おっと!」
サッと、よけるハモミール。
「まだまだ!」
次々と、剣を振るうバドムーン。
「はいっはいっ、ゆっくりすぎますよ」
それを、余裕でかわすハモミール。
「ハッ!ハッ!ヤーッ」
渾身の突きを繰り出すバドムーンだが、
「ハッ!!」
体を捕まれ、投げ飛ばされる。
「うわぁーッ」
宙を舞うバドムーン。
ドゴーッ
強烈に、壁へと叩きつけられて、そのまま地面に落ちて身動きしなくなるバドムーン。
「バドムーン!!」
叫んで呼ぶが、反応しない。
「回復は、まかせて! それより───」
カホウリンが、バドムーンにかけ寄る。
「あぁ、わかってる!」
反応しない剣を、グッと持ち上げる。
「この国で一番の剣士が、どれほどのものか、楽しみですな~」
口角を上げて、余裕を見せるハモミール。
「黙っとけ、オラアーッ!」
正面から、斬りかかるオレ。
「なんですか! その大振りは!」
軽いステップで、かわされる。
「オラッオラッ!」
とにかく、剣をハモミールに当てようと必死に振る。
「ちょっ、本気を出してます?」
半笑いのハモミール。
「うるさい………って、い………ってる、だろうが………よ!」
ダメだ。
あきらかに、スピードが落ちてきている。
いくら振っても、かすりもしない。
「なーんだ。非常に、失望しました」
アクビをするハモミール。
「なんだと!!」
ハモミールは、全く涼しい顔をしているが、オレは息があがってしまった。
「ケン、下がって! ワタシがやるわ!」
それを見かねて、割って入るグミちゃん。
「おう」
跳ねて下がるオレ。
「無駄ですよ」
余裕の表情を、崩さないハモミール。
「この至近距離なら! ファイヤーアロー!」
自分の身も、かえりみない近さで炎の矢を放つグミちゃん。
ドドドドドドッ
「グミちゃん!!」
真っ赤に、燃え上がる。
思わず、叫ぶオレ。
「やったか?」
回復魔法を受けていたバドムーンが、半身を起こす。
「………ウソでしょ?」
爆炎から、あらわした2人の姿に、
「かはッ」
ハモミールは、たいしたダメージがなさそうだが。
グミちゃんが、ハモミールの右手第1に首を、右手第2に右ふともも、右手第3に左ふとももを掴まれ、引きちぎれそうになっている。
「弱いですねぇ~」
グミちゃんの、首をしめあげるハモミール。
「クソッ! グミちゃんを離せ!」
大声で、やめるように言うが、
「さあ、この国で最強の実力を、見せてください。さあ、さあ───」
完全に、調子に乗っているハモミール。
「どうすれば………」
オレは、誰も救えないのか………?
『ケン』
どこからか、声がする。
「………えっ!?」
ジッと、剣を見る。
『持ち上げろ、まだ負けたわけじゃない』
騎士団長だ。
なぜだか、復活した。
「どうしてたんだよ!」
呼び掛けに答えなかったのに、どうなっているんだ?
『今、説明している時間はない。ヤツを倒すぞ』
そうだ。
グミちゃんの首が、変になっている。
「おう、やってやるぞ!」
もう一度、力を込めて剣をふり上げる。
『よし、それでイイ』
満足したように言う騎士団長。
「なにを、ゴチャゴチャ言っておる。グミの首から上と下が、ちぎれて別れることになるぞ」
グッと握るハモミール。
「く………か………ッ」
全然、呼吸が出来ていないグミちゃん。
「させるものか!!」
ハモミールに向かって走る。
『飛べ!』
掛け声をかける騎士団長。
「はぁあああッ」
精一杯、跳ねあがる。
「なにっ?」
空中で、1回転するオレに何も出来ないハモミール。
「くらえーッ」
ズバーン
ハモミールの、右腕を全部切り落とす。
「ウギャアーーーッ」
さすがに、苦悶の表情を見せるハモミール。
グミちゃんが、解放されたので腰に手を回して連れて離れる。
「大丈夫か、グミちゃん!」
グミちゃんの口に、耳を当てる。
「ハッハッ」
浅い呼吸をしているが、意識はない。
「おのれ、よくも我の腕を!!」
痛がり、のたうち回っていたハモミールが、すぐそばに立っている。
「………ケン、後ろ!」
カホウリンが、教えてくれたが、その前に把握して、
「よッ」
ハモミールのけりを、よける。
「ぶち殺してやる!!」
興奮状態になったハモミール。
『出来るものなら、やってみろ!』
「えぇぇ!?」
やめてくれよー!
「ぅおおおオーッ!」
ハモミールが、叫んだと思ったら、人間サイズから3倍に大きくなった。
「なんだ!? でっかくなっちゃった」
そんなのアリかよ!?
「潰してやる!!」
足を上げて、振り下ろすハモミール。
「ぉわーーッ」
走って逃げる。
「ちょこまかと!」
次々と、足を振り下ろすハモミール。
「こっちだ!」
グミちゃんを、踏まれないように誘導する。
「クソッ」
3つの火の球が、落ちて来る。
「今だッ」
バドムーンの方に、走る。
「まかしてくれ!」
回復して、構えていたバドムーンに、アイコンタクトする。
「なにッ」
全く、ノーマークの方向から一気に足下に入られて動揺するハモミール。
「くらえーッ」
ズバーン
バドムーンの一撃が、ハモミールの左脚をとらえて、切り落とす。
「ギャアーーーーー」
もがくハモミール。
「よし!」
なんとか、渾身の一撃をぶつけることが出来たバドムーン。
「よくも、やりやがったな!」
残っている手足で、器用に立ち上がるハモミール。
「まだよ! 油断しないで!」
カホウリンが、そう言うが、
「スピントルネード」
体を、高速で回転させるハモミール。
「なんだ、これは!」
すごい風だ。
「くらえーッ」
ズゴーン
ハモミールの、体が浮いたと思ったら強力な蹴りがバドムーンに炸裂する。
「バドムーン!」
ヤバい、直撃だ。
「グハッ!!」
口から、血を吐くバドムーン。
「ちくしょう!」
油断してしまった!
「次は、お前だ。スピントルネード」
こっちにも、同じ攻撃をしようとするハモミール。
「ケン! 逃げて!!」
カホウリンが叫ぶ。
「逃げるったってよォ、お前ら残して行けるかっての」
どうすれば、助かるんだ!?
『ヤツの攻撃を、見切った。まかせろ!』
騎士団長が、頼りになる言葉をかけてくれる。
「よーっし、ブッ倒してやる!」
「くらえーッ」
『今だッ!』
あえて、ハモミールの作る風の中に入って、
「ウォオオオオ!!」
風を味方にして、
「なにッ」
『オオオオオ!!』
「いっけぇーーッ!!」
思い切り、剣をつきたてる。
ズブシュッ
「ゥ………」
スタッ
スッと地面に立つオレ。
ザザーッ
足を、滑らしながら片足で立つハモミール。
「くッ………」
片ヒザをつくオレ。
「………見事だ」
バダッ
倒れて、縮んでいくハモミール。
「………やった! 勝ったよケン!」
カホウリンが、オレにかけ寄る。
「あぁ、なんとか………」
バタッ
倒れるオレ。
「あっ! 回復しなきゃ!」
オレに、手をかざすカホウリン。
「………オレより先に、グミちゃんを回復してくれないか?」
どう見ても、あっちが重傷だ。
「えっ、後でイイの?」
悲しそうな顔をするカホウリン。
「あぁ、たのむよ………」
あー、意識が飛びそう。
「わかったわ」
「ハァハァ、さすが騎士団長だ。頼りになる」
よろけながら、バドムーンが来る。
「バドムーン、無事か?」
口のまわりが、鮮血に染まっているが。
「はい、カホウリンに回復魔法をかけてもらったので」
どうやら、大丈夫みたいだ。
「そうか。よかった」
もう、1歩も動けんぞ。
「ありがとうございます、騎士団長」
礼を言うバドムーン。
「あっ、いや
剣を、持ち上げる。
「ハハハ、それならそっちにも礼を言わないと。ありがとう」
『………!』
反応しない。
「恥ずかしがっているのかな」
なんだ、さっきまでしゃべっていたのに。
『………、、、』
ズシッと、重くなる剣。
「おい、だいぶやられたな!」
グミちゃんが、カホウリンにささえられながら、歩いて来る。
「グミちゃん! よかった無事で」
もう死にそうだったが、助かった。
「まぁ、首がモゲる寸前だったがなッ」
親指を立てるグミちゃん。
「なにを言う。手加減してやったぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます