第7話 こんこん混沌
「ここか。これが例の場所………」
グミちゃんの家から、道無き道のジャングルを、ひたすら3時間かけて進んだ先に湖があり、その湖面から2本の塔が立っている。
その2本の塔の、水面から50メートルほどの場所が、くっついた状態でつながっており、その上に西洋風のお城が建っている。
「そうだよ。2階までは攻略したのだが、その上のエリアボスを倒すには、カードゲームで勝つ必要がある」
グミちゃんの口から、カードゲームというワードが飛び出して、
「カードゲームか………」
カホウリンが、微妙な差で勝ったのを思い出す。
「それなら、カードゲームに強い人を、スカウトした方が、よかったんじゃないの?」
至極、まっとうなことを言うカホウリン。
「それがさぁ、何回も魔法防御をされて、おまけにカードゲームでも勝てないからさ、力でブッとばして欲しいのよ」
どうやら、剣で倒して欲しいらしい。
「まさか、魔法が効かない相手なの?」
カホウリンが、身震いする。
「そうよ。魔法が効けば、わざわざ他人を雇ったりしないわよ」
腕組みして、胸を張るグミちゃん。
「なるほど。もしかして力業で突破しようとか、そういうことか?」
なんだか、イヤな予感が、
「その通り!!」
オレを、指差すグミちゃん。
「その通りじゃねぇよまったく………」
肩をすくめて、あきれるバドムーン。
「それで、なんなんですかこの施設は?」
なにかの、テーマパークみたいな美しい建物を、見上げるオレ。
「元々は、この辺を統治していた豪族のお城で、今は魔物の巣窟になっているわ」
バスガイドさんみたいに、右手を上げて説明するグミちゃん。
「へぇー。それで、なんの為にこの廃城を攻略したいんだ?」
バドムーンが、顔をしかめる。
「いちばんてっぺんに、魔導書があるというウワサがあってね。それを、ちょうだいしたいのよ」
「なるほどね」
よほど、それが欲しいんだね。
「それで、どこに入り口があるんだ? 見たところ、それらしいのが見当たらないが?」
2本の塔は、完全に水に浸かっており、手前にある塔を見回しても壁に出入口がない。
「もともとは、この森のどこかと地下通路でつながっていたみたいだけど、今はどこにあるのか、わからないわ」
塔どうしは、地下でつながっていて、その入り口は森のどこかにあるらしい。
「それじゃあ、どうやってあそこまで行くんだ? まさか、泳ぐんじゃないよな?」
塔のところどころに、明かりをとるような穴が空いていて、壁をよじ登るにしても3メートルはありそうだ。
「大丈夫よ。空を飛んであそこの窓から入るから」
明かりとりの穴まで、飛んで行くと言うグミちゃん。
「だったらさあ、一気に最上階に行くのはどうだ?」
どうせ飛べるなら、一気に上から行けばイイじゃん。
「そう! それがイイな!」
提案に乗るバドムーン。
「ダメ。それは試したけど、ある程度の高さで、なにかにぶつかるの」
上は上で、結界が張ってあるらしい。
「それじゃあ、下から登っていくしかないか」
面倒だな~。
普通に、歩いて上がるだけでも、しんどいよこの高さは。
「そうよ。わかったら、ワタシの杖に乗って!」
そう言って、グミちゃんの横にフワフワ浮いている丸太を指差す。
「その、ぶっといの魔法の杖だったの?」
なんの為に、浮かせているのかと思えば、太すぎる魔法の杖らしい。
「えっ、そうよ。あたりまえじゃない!」
中央の、くびれているところを掴んで、横向きにして、先端にまたがるグミちゃん。
「いや、知らねぇよ!」
カホウリンが、細い枝を使っているから、それがこの世界の魔法使いの杖だと思っていた。
「そんなことより、早く乗ってよ」
乗っかっている丸太の、後ろをペシペシと手で叩くグミちゃん。
「お、おう………」
グミちゃんの後ろにオレ、次にカホウリン、最後尾にバドムーンが乗ると、ギュウギュウだ。
「うっ………もう少し、そっちに寄れないか?」
後ろを、振り返る。
カホウリンの胸が、密着していてヤバい。
「無理よ、ギリギリ」
カホウリンも、モゾモゾと動くが身動きがとれない。
「浮かせるわよ!」
グミちゃんが、待ちきれず言うと、
ポワワワ
つま先が、地面から離れる。
「わっ! バランスが!」
ムニュ
体制を崩して、こともあろうにグミちゃんの豊満な胸を持ってしまった。
「ちょっ、ドコ
頬を、赤らめるグミちゃん。
「あっ、でも今、離せない!」
手を離したら、地面に落ちて死んでしまう。
「アッ! ちょっ」
制御がブレて、暴れ馬のように動く魔法の杖。
「頼む、集中してくれ」
グミちゃんの耳元に、そっとささやく。
「だって、アアッ!」
細かく、上下する棒。
「落ちちゃうじゃないの! しっかり飛ばしてよーーー!!」
カホウリンが、叫ぶと、
「っっっわかってるって」
やっと、前に進み出す。
「もう少しだ、もう少しでイク!!」
塔の窓が、目の前まで来ている。
「ぁぁぁあっ!!」
でも、入れそうで入れない。
グルンと、1回転する。
「よし、手が届きそうだぜ」
その時、やっと真っ直ぐになり、
スポン
そのまま、窓の中に吸い込まれるように入ると、
「わっ、イテテ!」
隊列が崩れて、階段にみんな散らばる。
「っつ………なんとか、中に入ったな」
肩やら腰やら打ったが、立ち上がるオレ。
「そうね」
カホウリンも、なんとか自力で立っている。
「グミちゃん大丈夫? ケガしてない?」
グミちゃんが、うずくまっているので、手を出すと、
「………大丈夫よ」
オレの手を、ギュッと掴んで立ち上がるグミちゃん。
「そうか、よかった。それで、ここは?」
壁際に、石段がつけてあり湾曲している。
「今、明かりを出すわ」
丸い明かりが、3つほど出現して見えやすくなり、
「おお、明るくなった」
すごく広い空間にいる。
「あれは!」
石段から見下ろすと、バレーが出来そうな広い空間に、うっすらと水が張っているようだ。
「すごい。塔の中は、こんなに広いんだね」
見た目と、全然違う。
「そう。こんな空間が、何階か続くのよ」
グミちゃんは、やっと落ち着きをとり戻す。
「ここにも、モンスターがいたんだね?」
バドムーンが、周囲を見回しながら言うと、
「そう、魚人モンスターがいたわ」
半魚人のモンスターって、人を喰うアレかな。
コワッ。
「それで、そいつらってグミちゃんが倒したんだね?」
確認するように聞くバドムーン。
「もちろんよ! 丸焼きにしてやったわ!」
腰に、手を置いて自慢気に話すグミちゃん。
「そうなんだね」
グミちゃんの、実力を見極めるバドムーン。
「次のフロアに、行きましょう」
階段の、上を指差すグミちゃん。
「あぁ、そうだな」
と、しばらく登ると、
「わッ、なんだ!!」
目の前に、黒いのがヒラヒラ舞うのが見えて、オレの横を通りすぎる。
「ちょっと、こっちがビックリするじゃないの! ただのコウモリよ!」
あきれたように言うグミちゃん。
「そうか、ビビった~」
なんだか、はずかしいなオレ。
「次のフロアも、攻略は済んでいるから安心して」
オレの手を握って、引っ張るグミちゃん。
「そうだよな。ちょっと、神経がピリピリしていたからね」
トボトボと、歩きだすオレ。
「しっかりしてよ!!」
グイグイ引っ張られながら、
「あぁ、わかっている」
長いな階段。
一体何段あるんだコレ。
「それにしても、騎士団長さまが、全然しゃべらないですね」
カホウリンが、小声で聞いてくる。
「そう言えば、まったくなにも言わないな」
ゆうべ、料理をうまそうに食べていたからヘソを曲げたのかな?
「どうされました?」
バドムーンが、聞いてくる。
「あっ、いえこっちの話でして………」
バドムーンがいるからなのか?
まぁ、そのうち話してみるか。
「騎士団長が、お疲れなら僕が2番手で進みましょうか?」
隊列を、変わろうかと聞いてくるバドムーン。
「あぁ、いや大丈夫。むしろ逆に後ろを守って………」
後ろから、襲われるのがイヤだから、頼むよ。
「えっ? 今、なんて言い───」
つい、本音が出てしまっているオレ。
バドムーンに、つっこまれたので、
「いや、オレが2番手で行く!」
隊列は、崩さないぞ。
「そうですか、わかりました。出過ぎたまねを致しまして、申し訳ございません」
丁寧に、頭を下げるバドムーン。
「ああ、イイの気にしないで大丈夫───」
そう、オレが言いかけた時、
「シッ! 気配がする………」
姿勢を、低くするグミちゃん。
「えっ! ………モンスターは、退治したんじゃあないの?」
さっきは、モンスターを退治したって言ったよね?
「このフロアは、攻略したのだが、その後に住み着いたのかも知れない………」
真剣な、顔つきのグミちゃん。
「マジかよ………」
そんなのだったら、めちゃくちゃ強いモンスターの可能性もあるよね?
「慎重に行くぞ」
低い姿勢のまま、次のフロアに足を踏み入れるパーティーメンバー。
「おぅ」
ゆっくりと、歩を進めると足下に、
「焚き火のあとだ。まだくすぶっている」
だれかが、ここにいた形跡だ。
しかも、そんなに時間はたっていない。
「………どこだ、モンスター」
焚き火をしていた人は、モンスターに喰われてしまったのだろうか?
「ウ゛ー」
オレの、左から声がして振り向くと、腕が6本くらいあるような人が、襲ってくる!
「ギャーーァ」
おもいっきり、腰を抜かして尻もちをつくオレ。
「わーっ」
みんな、ビックリする。
「なんだコイツ、腕が何本あるんだ!」
バドムーンが、剣を抜いて叫ぶ。
「なんだ、人間か。おどかすなよ」
腕が、いっぱいあるヤツが、人間の言葉を話している。
なんなんだコイツは?
「その声は、大魔仏ハモミール」
グミちゃんが、こいつを知っているようだ。
「おう、お前はグミだな!」
大魔仏と呼ばれたハモミールが、うれしそうに言う。
「久しぶりだな、ハモミール」
グミちゃんが、ハモミールと握手する。
「200年ぶりくらいか、元気だったか?」
昔を、なつかしむハモミール。
「うん、なんとか元気だよ。ハモミールも元気そうじゃないか?」
「ああ、元気だ。ピンピンしているぞ。いゃあ、なつかしいな」
うれしそうに、談笑していたが、オレたちの視線を感じて、
「ああッ。こいつは、大魔仏ハモミール。こちら、ケンとカホウリンそしてバドムーン」
と、紹介するグミちゃん。
「よろしく!!」
手を、差し出すハモミール。
「あっ、はい。よろしく」
なんか、よくわからんが敵ではなさそう。
とりあえず、握手する。
「よろしくお願いします」
2人も、続いて握手をする。
「なんか、アシュ───」
と、オレが言いかけると、
「おお、よく間違われるが顔が1つだろう?」
説明してくれるハモミール。
「おっ、そうですね!」
よくわからんが、そうなんだろう。
「まぁ、気にするな。人間より、ただ腕が多いだけだ!」
そう言って、全部の親指を立てるハモミール。
「そうですよね~」
なんだか、おもしろそうな人だな。
人間じゃあなさそうだが。
「それで、なぜここにいるんだ?」
疑問に思うグミ。
「よくぞ聞いてくれたグミよ。もしかしたら、お主たちと目的は同じやも知れぬが」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます