第9話 ぼうぼう忘却
「ベーナード卿さま!」
ベーナード卿は、領地の城へと命からがら戻ることが出来た。
そして、後から追いかけて来たシーキンが状況を報告するために、やって来た。
「おうシーキン。どうだ、女王は見つかったか?」
応接間のイスに、腰かけているがプルプルと、小刻みに震えているベーナード卿。
そのたびに、指輪の宝石がギラギラと光る。
「いえ、ヒュンゲルの行方も、わかりませぬ」
配下の者に、王都レギルスの中の、至るところを探させたシーキンだったが、見つからないので捜索がてら知らせに来たのだ。
「どこに行ってしまったのだ。迷惑な………せっかく正統な後継者を───」
苦虫を、噛み潰したような顔をするベーナード卿。
「ですよね。王家の後継者を、次々と謀殺してさらに王子を………」
冷や汗が、ひたいににじむシーキン。
「………そうだ。今までの謀略が、水の泡になってしまう。なんとしても、王女を探し出すのだ」
国王の座を、
「はい」
疲労の色が濃いシーキン。
2時間ほど、捜索隊を指揮してからここまで馬を走らせて来た。
「いいか、王女から公式な場で委譲《いじ
ょう》されるのが、目標なのだ。それまで、どのような状態でも王女が生きてさえいれば、あとはどうなろうが───」
目が、血走るベーナード卿。
「よく、わかっておりますベーナード卿」
呼吸を、ととのえるシーキン。
「それがわかったなら、お前も捜索に行け!!」
「えっ! わたくしめもですか!?」
ビクッとするシーキン。
一晩中、あばれまくったドラゴンが、王都にはまだいる。
「そうだ。一刻も早く探してまいれよ」
声を、震わせて言うベーナード卿。
「わかりました………」
しぶしぶソファーから立ち上がり、応接間を出るシーキン。
「このまま、見つからないとなると、計画を大幅に変えなくては、ならないかもな」
独り言を、口にするベーナード卿。
「チッ!!」
その頃
「えっ!? 生きてる? グミちゃんまさか!?」
倒れているオレを、見下ろすハモミール。
グミちゃんが、蘇生させたのかと思いチラッと見る。
「ちっ、違うわよ」
否定するグミちゃん。
「我が、この程度で死ぬわけがないだろう。なぁ、グミ!」
よく見ると、腕も脚も元通りになって、笑っている。
「うん、そんなのわかってるわ」
あきれたように言うグミちゃん。
ハモミールは、自分の力で再生したと言うことか。とんでもないモンスターだなコイツは。
「クソッ、まだやろうってことか!」
まだ、回復していないが、上半身を起こすオレ。
しかし、頭がフラフラする。
気合いを入れて、中腰まで立つが剣を持つ手がしびれてしまって、カチャカチャと小刻みに音を鳴らす。
「まぁ、落ち着きたまえよ」
腕組みして、ニヤリと笑うハモミール。
「ヘッ?」
なんだ、なにを考えてやがる!?
勝負がついたとでも、言いたいのか?
「もう、戦う気がない。好きにしたまえ」
戦意が、もうないと言うハモミール。
「………どういうことだ!?」
ついさっきまで、強烈に放っていた殺気が消えて、おだやかになっている。
「キミらの気持ちは、十分に受け取った!」
なにか、スッキリしたような顔をするハモミール。
「えっ? グミちゃん、この人はなにを言っているんだ?」
コロッと、人が変わったようになっている。
「コイツは、昔から話し合いがニガテなヤバいヤツなんだよ」
グミちゃんまで、ニヤニヤしながら言っている。
でも、この人にさっき殺されかけたよね?
「なんだそれ!!」
中腰まで、立ち上がったオレは、
「おい!今、回復してやるぞ」
あわてて、駆け寄るグミちゃん。
「アウアウ………」
あぁ~、意識が遠くなっていく。
「ケン………大丈夫?」
暖かい光に包まれる。
「ああ、回復した~。ありがとうグミちゃん」
体は、なんとなく動くようになった。
「そう。それなら、よかったわ」
目を、細めるグミちゃん。
「さすがに、ダメかと思ったよ………」
マジ死んだと思った。
「ハモミールの右手を、切り落としたのはスゴかったわね」
魔力切れで、ヘロヘロなカホウリンがほめてくれる。
「ありがとうカホウリン。この剣のおかげだよ」
剣を、持ち上げる。
「騎士団長が、目覚めたのね?」
そう、カホウリンが聞くので、
「ああ、一瞬だけ目覚めたが、また眠ってしまったようだ」
剣は重く、ウンともスンとも言わない。
「一瞬だけ?」
不思議そうな顔をするカホウリン。
「そうなんだ。どうなっているんだ、ちくしょう!」
剣を振るが、反応はない。
「まぁ、でも魂が抜けて行ったわけじゃあないみたいだし、戦いになればまた出て来るんじゃないかな?」
多少、楽観的なみかたをするカホウリン。
「うーん、それならイイけどさ………」
イヤな不具合だな~ヤレヤレ。
「さ~てと、心置きなく次の敵をブッとばせるわね」
グミちゃんが、重い空気を変えるように言うのだが、
「ちょっと待ってよ」
今は、オレが止める。
「えっ、今度はなんなの?」
不思議そうに、聞くグミちゃん。
「いや、すぐには行けないよ」
首を振るオレ。
「なんで? 回復魔法は効いているはずよ?」
オレの目を見るグミちゃん。
「いや、それは体力的には効果があったけど、精神的なつかれまでは取れてないぞ」
いろいろありすぎて、整理しないと次に進めない。
「そうなの?」
拍子抜けになるグミちゃん。
「だから、ちょっと休ませてよ~」
立て続けにバトルは、しんどいよ。
「なんだ、そうなんだ。一旦ここで食事をとるとしようか?」
そう言って、荷物袋から道具を取り出す。
「おおっ! 賛成!」
カホウリンもホッとした笑顔になる。
「騎士団長どの! 少しだからと聞いてここまで来たが、こんなに大変なら後回しして欲しかったです!」
今朝の食卓で、いろいろ話し合いした結果、バドムーンも同行することに合意していた、と言うより強引に連れて来た。
「まぁまぁ、そう言わずに最後まで付き合ってよバドムーンちゃん、乗りかかった船だろう?」
騎士団長が不調なうちは、なんとしてでも逃がさないぞ。
「むぅ。あまり、時間をかけないでください。女王を探すのを、グミちゃんさんが手伝ってくれるとのことだから、力をかしているのですから───」
交換条件として、捜索にグミちゃんを連れて行く約束をした。
「わかってるって。グミちゃんも、すぐ終わるって言っているんだし。なぁ、グミちゃん?」
魔法が効かないように、封じ込められているだけなんだよね?
「あー、そんなこと言ったっけ」
すっとぼけるグミちゃん。
鍋で、スープを温めている。
「えっ! ちょっと待ってよ」
すでに、聞いていた状況と違うことに、一抹の不安を感じているオレ。
「よし、スープが温まったぞ」
皿に、緑色の液体を盛って、みんなに配るグミちゃん。
「えっ、昨日食べて今朝も食べたスープかな?」
カホウリンが、そう言いつつ食べてみる。
「さすがに、それはないっすよね?」
オレも、さすがにそんな不衛生なのは食べさせないだろうと思いながら食べる。
みんなが、口に入れたところで、
「………ムフ」
変な、笑い声を出すグミちゃん。
「いゃあ、ムリムリムリ!! さすがに今朝は、イヤな気分になりながらも、食べたけれども!」
今朝食べた、もっと言えば昨日食べた味だ。
まるっきり、同じものを温めなおしている。
「それじゃあ、まだイケるわね!」
変に、安堵した雰囲気のグミちゃん。
「だいたい、いつ作ったスープなのそれ?」
カホウリンが聞くと、
「あー、そろそろってか今日で7日たつ───」
サラッと、コワいことを言うグミちゃん。
「はぁ!? 7日目!!?」
さすがに、ビックリするオレ。
香辛料のせいか、腐っているようには感じなかった。
「オロロロロ」
思わず、吐き出すバドムーン。
「1週間前に作ったって、もう食べちゃったよ………」
涙目になるカホウリン。
1つわかったことは、騎士団長は胃腸がイイみたいだ。
「あの、少しわがままを言ってかまわないか?」
ハモミールが、落ち着いた口調で話す。
「えっ、なにオレとまた戦うとか?」
また、そういうのヤメようよ。
「イヤ、そうではなくて今、休憩している間だけでも、カードバトルをして来てイイかな?」
やはり、心残りだと言うハモミール。
「えっ? こっちは、急いでいるんですよ! ねぇ、騎士団長!?」
あせりが先行するバドムーン。
「あぁ、まぁやりたいならイイんじゃないか?」
こっちは、しばらく休みたいし。
「そんな………」
がく然とするバドムーン。
「カードバトルが終了すれば、あなた方の味方となり手足となります。ですのでなんとか1回、最後に1回だけ対戦したいのです」
平伏して、たのみこむハモミール。
「それじゃあ、女王を探すの手伝うってことでさ。バドムーンそれでイイだろ?」
捜索の人数が、多いにこしたことはないでしょう。
「………うん、まぁ騎士団長がそれで了解なら反論はないですが………」
言いたいことを、噛み潰すバドムーン。
「ありがとうバドムーン。よかったなハモミール」
これで、両方の顔が立つだろう。
「はい、ありがとうございます」
感謝するハモミール。
「それじゃあ、サクッと倒して来てよ」
ハモミールが、階段を登るのを見送るオレ。
「はい! さっそく行ってジーターを倒して来ます!」
階段を、
ジーターってヤツを、倒してくれるだろうか。
「はいは~い」
手を振るオレ。
「どういうつもりですか騎士団長?」
バドムーンが、不満をぶつけてくる。
「イヤ、よく考えてみなよバドムーンくん」
なだめるように、話すオレ。
「えっ?」
不思議そうな顔をするバドムーン。
「もしかしたら、ハモミールが敵を駆逐してくれるかも知れないだろ? そうすれば、無駄に苦労しなくて済むだろう?」
やってくれることは、任さないと。
「………たしかに、魔法が効かない敵を正面から倒すのは、大変でしょうし」
腕組みして、つぶやくバドムーン。
「そうだろう」
ようやく、わかってくれたみたいだね。
「では、ハモミールの戦いぶりを見に行こうじゃないか?」
ジーターってのが、どんな敵か見ておきたいしな。
「そうですね、もう行ったら勝っていたりして」
爽やかに笑うバドムーン。
「まさか、そんな」
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