第10話 とうとう唐突

「うぎゃあーーーッ」


 次の階に向かって、ソーッと階段をのぼっているところで、上の階の方から断末魔の叫びのような声が、響いてくる。


「………なんだ? 今、うめき声が?」


 立ち止まるオレ。

 なにか、生命の危機を感じるんだが。


「もッ、もうやめてく………ギャハ!!」


 さらに、苦しみの叫びが聞こえる。

 なんだか、ヤバいな。


「おいおい、ハモミールの声じゃないか?」


 どうも、ハモミールの声らしい気がする。


「急ぎましょう!!」


 バドムーンが、オレを追い抜いて振り返る。


「おう!」


 正直、行きたくはないのだが、怖いもの見たさもある。


「ギャアーッ」


 展開されたフィールドの中で、ハモミールが、苦しみ悶えている。


「おい、ハモミール!!」


 オレが声をかけるが、寝転がり腕をクロスして体をくねらせるハモミール。


「ん? 誰なのキミたちは?」


 オレンジ色の短髪で、真っ赤な口紅を塗った男性が、砂色のはかまを揺らしながら聞いてくる。


「オレはケン! こいつはバドムーン!」


 名乗るオレ。


「アーラ、そうな~の」


 品定めするように、こっちを見る男。


「お前は、ジーターだな!?」


 確認してみると、


「そうよ、アタイはジーター。男じゃないわよ坊やたち」


 変なことを言いだすジーター。


「クッ、お前を倒すために僕らは来た───」


 バドムーンが、顔をしかめて言うのだが、


「ちょっと、よく見たらいいわねアンタ。バドムーンって名前だったっけ? タイプだわ」


 おかしなことを、口にするジーター。


「ウ゛ッ」


 めまいするバドムーン。


「………ダメだバドムーン。まともに相手したらヤツの術中にハマるぞ───」


 オレが、気をそらすように指示する。


「すっ、スミマセン騎士団長!」


 ハッと、我に帰るバドムーン。


「ハモミール! 生きてるか、よかった!」


 上半身を、起こしたハモミールの顔色がよくない。


「まーだ第10フレームの1投目が投げ終わったところよ。お寝んねするのは、ゲームが終わった後からにしてよね~!」


 いやみったらしく言うジーター。


「クッ!!」


 眉間みけんに、しわをよせるハモミール。


「スコアが、ボロ負けじゃん!」


 バドムーンが、惨状を嘆く。


「もう、ギブアップした方がイイんじゃ………」


 やめるように言うオレだが、


「イヤ、最後の最後まで戦ってやる!」


 ゆっくりと、立ち上がるハモミール。


「いいワよー。次々もストライクをキメて、ケチョケチョにしてあ、げ、る」


 ハモミールを、完全におちょくっているジーター。

 よく、耐えているな。感心する。


「おいハモミール! イイの持ってないのか!?」


 手札を、見てみる。


「………それが、我はカードを引く運がその………」


 おそるおそるカードを見せるハモミール。


「どうしたんですかコレ! ゴミみたいなカ

ードしか残ってないじゃないですか!!?」


 思わず、大声を出すバドムーン。


「おい、ゴミって言うなよ」


 恥ずかしそうに、笑うハモミール。

 笑っている場合かよ、マジで。


「だって、騎士団長!! これは、さすがにヒドすぎる───」


 手札を、指で指してオレの顔を見るバドムーン。


「わかったから、少しだまってろって!」


 手の内が、知られてしまう危険性がある。

 とは言え、弱カードで足掻いてもなぁ………。


「すっ、すいません騎士団長」


 素直に、あやまるバドムーン。


「ってか、なんかスゴいフィールドだな!」


 どこからか、雪が降っている。

 室内なのに。


「ハモミールは、雪の大橋を出していて、ジーターは、風の夏島を出しています」


 説明をしてくれるバドムーン。


「なんだか、季節が逆だなコレは」


 片方は、真冬の長い吊り橋で、もう片方はヤシの木がはえているリゾート地の砂浜だ。


「そうですね。どちらのコースも、難易度の高めなコースです」


 どうやら難コースらしい。


「難易度なんてあるんだね?」


 さっぱり、わかんないけど。


「はい。低い方から、炎の坑窟こうくつ、雨の山脈、雷の草原、鏡の砂漠、月の氷柱、霧の細道、雪の大橋、風の夏島、やみの湾岸、奥の孤城」


 簡単に、説明してくれるが、ますますサッパリだよ。


「ちょっと、フィールドってそんなにあるんだ?」


 よく、スラスラと言えるな。

 感心するわホントに。


「はい。騎士団長は、ご存知ではなかったですか?」


 首を、かしげるバドムーン。


「あぁうん、もちろん知っている。でも、あれだ騎士として、カードゲームなど───」


 なんとか、誤魔化していると、


「あーッ」


 バドムーンが突如、大声をあげる。


「どうしたバドムーン?」


 ビクッとなるオレ。


「それ! 女王さまの前で、ぜったい言ったらダメですよ!」


 口止めしているバドムーン。


「あー、わかってるよもちろん」


 あの人の前で、めったなことは言えないだろう。


「それならイイですが。それと、フィールドのレベルについても───」


 説明の続きを、はじめるバドムーン。


「あっ、そうそう。フィールドのレベルって、なんなの?」


 ちょっと、気になっていたので、この際くわしく聞いておく。


「フィールドのレベルは、通常出す場合はレベル1からです。そして、1ターンつまり1フレームごとに1つレベルが上がります」


 フレームと、連動してレベルが上がるらしい。


「なるほど。通常ってことは、イレギュラーな出し方もあるってこと?」


 ついでに、聞いておく。


「そうです。フィールドのカードを出す時に、手札の召喚獣カード1枚を、墓場へとトラッシュすることで、フィールドをレベル2からスタートすることができます」


 なんだ、その裏ワザみたいなのは!


「召喚獣のカードを、墓場にトラッシュ………」


 ヤバい響きだな。


「そうです!」


 一瞬、コワい顔になるバドムーン。


「それじゃあ、ドローして6枚で、フィールドカード1枚と、召喚獣カード5枚を墓場にトラッシュしたら、レベルは6から?」


 質問をバドムーンに、ぶつけてみるオレ。


「理論的には、そうですが違います。ドローするのは攻撃側なので手札の召喚獣カードは4枚でレベルは5ですね」


 サッと、間違いを指摘するバドムーン。


「そっ、そうだな!」


 そう言われてみれば、そうだよな。


「あと、もっと言うなら召喚獣カードを全部出し切るのは悪手ですね」


 根本的な間違いを、教えてくれるバドムーン。


「と、言うと?」


「召喚獣のパワーを借りずに、自分自身で球を投げると、ほぼガターになります。相手は、妨害が出来るわけですし」


 召喚獣カードが、手札にない場合は、自分で投げるスタイルみたいだな。


「うわ、なるほど」


 これは、完全に不利だ。


「アングリータイガー、トドメを刺してやりなさ~い、ゴーシュート!」


 ジーターが、大声を出す。


「クッ。雪の大橋レベル10の効果発動、スリップ!」


 フラッシュタイミングのカードがないハモミール。

 球を、跳ね返すことが出来ない。


「無駄よ、無駄」


ガコーーン


 10本のピンが、はじけ飛びストライクだ。


「うぎゃあーーーッ」


 また、苦しそうに悶えるハモミール。


「おい! ハモミール大丈夫か!?」


 ハモミールに、近寄ってみるが、


「ァヒー」


 変な声を、発している。


「こいつは、ヤバい!!」


 完全に、イッている。

 もうダメではないか?


『ハモミール戦闘不能。勝者ジーター』


 どこからか、音声が流れる。


「まーた勝っちゃったわねー」


 右手を、パタパタとあおぐようにして、向こうを向くジーター。

 鼻で、笑っている。


「クッ! おい、バドムーン」


 バドムーンを、手招きして寄せる。


「はい!」


 寄って来たバドムーン。


「一旦、ハモミールを連れて降りるぞ!」


 バドムーンに、耳打ちする。


「えっ………はい!」


 ハモミールの、足側を指差すオレ。

 2人で、持ち上げて階段を静かに降りる。


「それで、あんたたち2人はどうすんだい! ………あれ? どこいったワケ?」


 振り返って、キョロキョロするジーター。


「ヨイショ!ヨイショ!」


 重い。

 なにせ、普通の人より4本も腕が多いんだし、そりゃあ重いよ。


「案外、早かったわね? それで、ジーターは倒せたかしら?」


 降りて来たオレたちを見て、グミちゃんが聞く。


「いや、それどころじゃあない! コイツを………ハモミールを回復してやってくれ!」


 全く、意識のないハモミールを、地面に寝かせる。


「えっ? ちょっと見せて!」


 ハモミールの様子を見て、容態をみるグミちゃん。


「どうだ? 状態は?」


 バドムーンが、顔面蒼白で聞く。


「うーん、だいぶエネルギーが落ちてしまっているわね」


 命の状況を、確認したグミちゃんが腕組みする。


「それで、助かりそうか?」


 どうも、言葉をにごしているようなグミちゃんに、詰め寄るオレ。


「大丈夫よ、死にはしないから」


 特に、処置する素振りを見せないグミちゃん。

 なにか、考えがあるのかな。


「そうか、よかった………」


 とりあえず、死の危険はないと聞いて、安心する。


「ケン、あなたって不思議って言うか………お人よしね。」


 急に、毒舌を吐くグミちゃん。


「えっ!?」


 いきなり、なんだよ。


「だって、ハモミールと殺し合いをしたのに、今は仲間として心配している。なんていうか───」


 態度の変化に、違和感を感じたグミちゃん。


「昨日の敵は、今日の友って言うだろ?」


 テキトーに、返事してみる。


「………そんなこと、誰が言ったことなの?」


 不思議そうな顔をするグミちゃん。


「いや、知らん!!」


 腰に、手を置いて言い切る。


「アタタ………まぁ、イイわ」


 コケるグミちゃん。


「それより、ジーターは強いな」


 ヤツは、ヤバいかも知れない。


「えっ? 対戦したの?」


 拳を、ワンツーと突き出すグミちゃん。


「いや、カードゲームの話だよ」


 たぶん、どっちもだけど。


「そりゃあそうよ! 彼は強い。だから剣の力で、切り開こうって言ってるの!」


 とにかく、剣で倒せというスタンスのグミちゃん。


「魔法が効く相手じゃあないって話だけど、剣は通るんだよな?」


 そこは、気になる。


「通るか通らないかは、この国で1番の剣士をぶつければわかるでしょ? それとも、相手を見て自信を失くしたとか、やめてよね?」


 つまり、試してはないのかよ。


「それは、言われた通り剣で倒す………しかし、カードゲームで倒した方が手っ取り早くてイイんじゃないかと思うのだが?」


 正攻法でやった方が、うまくいくかも知れないし。


「だったら、カードゲームで勝てる自信があるのね?」


 答えを、せまるグミちゃん。


「それは………」

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