第11話 わさわさ脇役

「わたしが、サポートするわ!!」


 カホウリンが、オレの提案に乗ってくれる。


「えっ、なんでだ?」


 カホウリンの顔を見るオレ。

 ため息を出しながら、メガネをはずすカホウリン。


「だって、その方が勝つ可能性があるでしょ?」


 ウインクするカホウリン。


「あっ………うん、そうだね」


 一瞬、脈拍が強く打つ。


「わからんな。どうしてそんなに気分が変わってしまったの? バドムーンは、どう思う?」


 グミちゃんは、納得していない様子だな。


「僕は、さっさと敵を倒して欲しいですね!」


 苦笑いするバドムーン。


「そうだよな!」


 グミちゃんが、指を差す。


「すぐ出来るようになるから!」


 カホウリンが、説得する。


「おう。やってやる」


 親指を立てるオレ。


「はぁ~。お願いしますよ騎士団長」


 バドムーンが、頭をかかえてしぶしぶ言う。


「もちろん!!」


 やってやるさ。

 剣では、どうにもならないし。


「コホン。それじゃあ、基本的というか基礎の基礎から教えてあげるわね」


 カホウリンが、改まってメガネをかけ直す。


「はい、お願いします………」


 頭を、下げるオレ。


「まず、デッキの構築」


 カードの山を、ポケットから取り出すカホウリン。


「はぁ、それはどういうことですか?」


 聞いたことあるけど、確認の意味で聞く。


「うん。とりあえずケンタクロシストはカードを1枚も持っていないでしょ?」


 小声で、聞いてくるカホウリン。


「おおぅ、持っていない………」


 騎士団長の、持ち物にそもそもないから、仕方ないよ。


「騎士団長、持っていないんですか!?」


 バドムーンが、つめ寄ってくる。


「おう、すまん!!」


 なんで、オレがあやまらないと、いけないんだよ~。


「ったく、あなたって人は!!!」


 軽蔑するように見るバドムーン。


「すまぬ………」


 中身が、バレないようにしないとな。


「そんなことは、今どうだってイイの!」


 グミちゃんが、イライラを爆発させる。


「よくないっすよ~~~」


 バドムーンが、うらめしそうに見てくる。


「とりあえず、カードはわたしのを使うとして。それじゃあ、対戦相手と声を合わせて『フィールドオープン、開放』って言ってね───」


 グイグイと、説明をはじめるカホウリン。


「あの~」


 多少、疑問に思うオレ。


「はい、なんでしょう?」


 話のコシを、折られたカホウリン。


「ソレって、なんですか?」


 すぐ聞かないと、すぐバトルだからね。


「かけ声のこと?」


 首を、かしげるカホウリン。


「そうです、ちょっとハズいかも………」


 もう、だいぶイイ年齢なんでね。


「亜空間でバトルするには、必要なことなのよ。女神サフィスの───」


 カホウリンが、そう言いかけたので、


「女神サフィス!!」


 オレは、忘れかけていた名前を、思い出した。

 あいつのせいで、死にかけたぞ。


「あの~」


 どこからか声がして、振り向くとサフィスがフワッとあらわれる。


「えっ!!」


 カホウリンが、驚きの声をあげる。


「わたくしを、呼びました?」


 サフィスは、苦笑いしながら聞く。


「サフィス!!」


 バドムーンも、思わず叫ぶ。


「えっ!? 本物? ウソ!!?」


 カホウリンが、あたふたする。


「はい、本物です」


 ほほえむサフィス。


「おい、サフィス! オレを元の世界に戻せ!」


 こんなところで、死にたくねぇぞ。


「なーんだ。そんな話?」


 腰に手を置き、目を細くするサフィス。


「そんなって!?」


 切実なんだよ。SNSも、気になるし。


「無理です。あきらめてください。では~」


 にこやかに、手を振って徐々に透明へと変化して消えるサフィス。


「おっ! ちょっ! 待ちやがれ!!」


 掴もうとして、空を切る。


「騎士団長って、女神サフィスと知り合いだったんですね!?」


 カホウリンが、目を輝かせる。


「あぁ、ちょっとした友達だな………」


 正確には、監視されているような感じだが。


「なんか、スゴいです。神。神ですね、神と呼ばせてください!」


 あこがれの、眼差しでオレを見るカホウリン。


「いや、断る!」


 なんだよ。

 急に、態度を変えて。


「それじゃあ神、続きの説明をさせていただいても?」


 完全に、調子に乗っているカホウリン。


「いや、やめろっての」


 まいったな~。


「まずは、カードをよく切って上から5枚を手札にしますよ~」


 シャッフルしながら、舌を出すカホウリン。


「はいはい。コレね」


 上から、5枚引くオレ。


「それじゃあ、わたしも。コレは、それぞれ持っているので、説明として引くだけだから」


 同じカードの山から引くのは、説明の為だと言うカホウリン。


「うん」


「次は、先攻後攻を決めるわ」


 そう言えば、順序も重要だな。


「どう決めるんだ?」


 ジャンケンでも、するのだろうか?


「普通は、サフィスがルーレットを回して決めるけど、今回はサイコロを振って目の大きい方が先攻でイイよね?」


 いつもは、ルーレットで決めているらしい。


「あぁうん」


 サイコロを振るなんて、いつぶりかな。


「それなら、わたしが先に振るわ。3ね」


 軽快な音をたてて、テーブルを転がるサイコロ。


「そうだな。それじゃあオレも。2だから後攻だな」


 感触を、確かめるように指先で転がして、投げると2つ点が掘ってある。


「それじゃあ、第1フレームをはじめるわ。わたしがまずドローして、説明の為に手札を見せてあげる。手札の召喚モンスターの2番目くらいに強いのをテーブルに置いて───」


 つらつらと、立て板に水を流すようにカホウリンが話すので、


「ちょっと、待ってくれ!」


 一旦、止めるオレ。


「どうしたの?」


 どうして止めるのよ、という顔をするカホウリン。


「イヤ、なんで1番強いカードを出さないんだ?」


 なにか、理由でもあるのだろうか?


「それはね、仮にストライクを取れたとするじゃない?」


 カホウリンが、ニヤリと笑う。


「うん」


「そうしたら、2連続ストライクは絶対取りたいの」


 ストライクの次のフレームにストライクを取るのは、セオリーとしてある。


「あっ、なるほど。その方が点数が増えるからね」


 次の、2投目まで足すことになる。


「そう。強カードを温存しておかないと、次のドローで、召喚モンスターのカードを引けなかったり、弱カードだった場合に2連続ストライクが狙いにくいわ」


 絶対に、ストライクを取れるモンスターは手札に置いておく。


「某主人公みたいに、主人公補正で神引きが出来れば………ちょっと昔に、かじった程度のオレには縁のない話だが」


 なぜか、スゴいカードが欲しい時に手に入る。


「それじゃあ、ファンシーキャット召喚で、ゴーシュート!」


 ゲームを、進めるカホウリン。


「えっと、なんだっけ?」


 なにか、言うんだったような………


「フィールド展開よ!」


 つっこむカホウリン。


「フィールド展開! それで?」


 こっちは、全く手探り状態なんだよ。


「見せて! フィールドカードは鏡の砂漠だけね。それを、テーブルに置いて! 鏡の砂漠レベル1」


 オレの手札を見るカホウリン。


「鏡の砂漠レベル1で!! それで?」


 なんだか、申し訳なくなってくる。


「フラッシュタイミングカードを出すでしょ?」


 オレの顔に、近づくカホウリン。


「うん、だけどどれを出せばイイんだ?」


 なんだか、ドキドキしてきた。


「とりあえず、バントね」


 妨害カードの中では、弱いカードを使ったみたい。


「フラッシュタイミング、バント」


 カードを、テーブルに置く。


「そうそう、その調子よ。ファンシーキャット、手玉にとる!」


 どうやら、打ち返したのをまた転がしたみたいだ。


「それで?」


 実際に、球がピンを弾くわけではない練習なので、


「仮に、ストライクだったとするわね」


 カホウリンが、ストライクを取ったと言う。


「そんな、卑怯な!」


 いくら、こっちがわからないからって………


「まぁ、イイじゃないですか。それじゃあケンタクロシストの番だよ」


 ニコニコしているカホウリン。


「おう、ストライク取ってやる!」


 負けてられるか。


「それなら、カードの山から1枚引いて、召喚モンスターのカードを出して!」


 カードの山を、指差すカホウリン。


「ドロー。オフロードバード召喚!」


 一気に、やってやるぜ。


「ちょっと、いきなり強いカードを出すのね!?」


 少々、おどろくカホウリン。


「もちろん」


 どうだ、見たか。


「イイわ。フィールド展開。雨の山脈レベル1。フラッシュタイミング、トス!」


 淡々と、妨害をするカホウリン。


「えっ、帰って来た球をどうするの?」


 投げられた球が、こっちに帰って来る。


「オフロードバードは、つつくとキックが使えるわ」


 さらに、投げるワザだ。


「それじゃあ、キックで」


 オフロードバードに蹴られた球は、ピンを全部倒したはずだが、


「うんうん、それで9ピン倒れたとするわね」


 なぜか、ストライクじゃないと言うカホウリン。


「ちょっと待って、なんでオレの方は1ピン残ったんだ?」


 ずりぃわ~ソレ。


「説明の為よ! 特に意味はないわ」


 あくまでも、例題だからと言い張るカホウリン。


「まぁ、そうだけど。なんか、ムカッときた」


 小声でしか反論が出来ないオレ。


「まぁ、そう言わずにサッサとおぼえてくれ」


 グミちゃんが、口を挟む。


「まぁ、そうだよな。オフロードバードいけぇ!」


 2投目を、投げさせるのだが、


「雨の山脈レベル1の効果発動。滑落」


 フィールドの効果を、見せつけるカホウリン。


「うわ。なんだよ!」


 球は、ガターになって消える。


「フレームの1投目は、フラッシュタイミングを使えて、2投目はフィールドの効果を使えるわ。1投目からフィールドの効果を使うことが───」


 カホウリンの、説明の途中で足音がして、上の階から誰かが降りてくる。


「そこで、なにしてやがる!!」


 頭には、牛のツノ。茶色いツナギを着ているが、右足は完全に露出している女性。

 四角レンチを右手に持ち、クルクル回している。


「なんだ、いったい?」


 人に見えるが、モンスターか?


「バフティー! お前は倒したはず………」


 グミちゃんは、知っているみたいだ。


「誰なんです? バフティーって?」


 オレが聞くと、


「馬喰猛牛バフティーは、このフロアのボスだ! あいつは牛人とドワーフの半々だ!!」


 どうやら、モンスターで間違いないみたいだな。


「それで、そいつがなんでいるんだ?」


 完全に、ピンピンしているバフティー。


「わからない。でも、また倒せばイイだけだ。そうだろう?」


 ぶっとい魔法の杖を掴むグミちゃん。


「それも、そうだね」


 臨戦態勢になるパーティーメンバー。


「さあ! このステージから出て行ってもらおうか!!」


 鼻息の荒いバフティー。


「イヤだね。出て行かない!」


 杖を、構えるグミちゃん。


「それなら、力ずくで倒す!」


 スパナを、振りかざすバフティー。


「アンタ、学習能力がないの? ワタシに1回倒されてるでしょうが!」


 言葉で、押しきるグミちゃん。


「そんなことは、イチイチ覚えてないわ! それに、あっちの塔の管理もしなきゃいけないから、忙しいんだ!」


 ゆっくりと、こちらに歩いてくるバフティー。


「迷惑なヤツめ。ケン、バドムーン! やって!」


 まずは、腕ならしにオレとバドムーンを戦わせるグミちゃん。


「ケン!」


 カホウリンが、意味深にこっちを見る。


「えっ、そうだ。カードゲームで勝負しようぜ!」

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