第20話 もくもく目的

「ハァハァ、夜明けまでには高原まで着きたいですねぇ」


 馬に股がり、ひたすら山道を登るトゥフエルとアムナベル女王。

 海賊たちも、ゾロゾロとついて来る。


「あぁ、そうだな。………しかし、あたしが女王になって、クビ第1号のお前とこうして共に兵を率いるとは、思いもしなかったわ」


 トゥフエルをクビにしたのは、3年前のことなので、お互い顔をしっかりと覚えていなかったが、記憶の片隅に残っていた。


「そうですね………シッ!」


 気配を感じて、黙るトゥフエル。


「どうした?」


 アムナベルが聞くと、


「敵兵の詰所があります。どうしましょう?」


 街道沿いに、検問のような兵舎があり、見張り塔もある。


「そうだな。高原まではまだ距離があるのか?」


 残りの道のりを聞くアムナベル


「このペースだと、1時間以上はかかるでしょう」


 腕組みするトゥフエル。


 「おかしら、どうします?」


 顔じゅう毛むくじゃらの海賊が聞く。


「なら、突っきるわけにはいかないな」


 アムナベルは、もう少しで高原なら目的地まで走ってしまおうと思っていた。

 しかし、そうはいかない。


「そうですね。攻め落としましょう」


 腹を、くくるトゥフエル。


「よし、行け」


 アムナベルが、指差すと、


「ハッ!」


 海賊たちが、音もなく小屋に近づく。


「誰だ! そこでなにをしている!?」


 見張り台の兵士に、見つかってしまい、


「見つかったか、行け!」


 一気に小屋を取り囲む海賊。


「放てーッ」


 見張り台の兵士が、弓矢を構えて放つ。


「ウッ………」


 矢が、アムナベルの体に当たる。


「アムナベル女王!」


 トゥフエルが、様子を見ると、


「大丈夫! かすっただけだ!!」


その頃


「もう1息で、城門が開きます」


 城門に、丸太を当て続けて、ようやく開きそうだ。


「よし、一気に攻略するぞ」


 バドムーンが、兵士に声をかける。


「せーーのッ!」


ドーーーン

ドガッ


 丸太を、当て続けられた城門が、豪快に倒れる。


「よし、入るぞ!!」


 次々と、兵士がなだれこむ。


「あっ、誰か来るぞ」


 闇の向こうから、大勢の人影がこちらにやって来る。


「構えろ」


 松明で、照らしながら剣を構える兵士。


「キャアーーー」


 暗闇から出てきたのは女たちだ。


「斬らないで~~」


 どの女性も、一糸まとわぬ姿で駆けてくる。


「ややっ!」


 ビックリする兵士たち。


「女!?」


 思わず、目をこする兵士。


「女たちが、裸でこっちに来るぞ!」


 少々、興奮気味に話す兵士。


「あぁぁ」


 今にも倒れそうに、ゆらゆらと歩いて来る。


「どうした? なにがあった!?」


 女を、抱きしめようと両手を伸ばす兵士だが、


「オリヤ!」


 いきなり、右手に隠していた剣を突き出す女性。


「ギャア」


 剣が、腹を貫通する。


「こいつら、ウグゥ」


 気付いた時には遅い。

 次々と、兵士が刺されていく。


「なんだ!? なにがおきていグフ」


 混乱する兵士たち。

 バタバタと倒されていく。


「そいつらは、兵士だ! 幻術だ!」


 グミちゃんが、叫ぶ。


「クッ! わかっていても切りにくい!」


 いきなり目の前に来る剣を、はじきながら下がる兵士。


「ホーラァ」


ズブシュ


 ついに、刺される。


「ぅぎゃあああ」


 腹から剣を抜く為に、兵士を蹴る女。


「この野郎!」


ガギーン


 スキを見て、女の胸に剣を刺そうとした兵士だが、変な音がする。


「おい、胸が! 刃が通らん!」


 まるで鉄だ。


「だから、幻術だっての!」


 グミちゃんが、肩をすくめる。


「アハッ」


 ピョンピョンと跳ねる女性。

 ダメージは、無いようだ。


「おりゃ!」


 ならばと、脇腹を狙うと、


「ギャハ」


 女の顔が、苦痛に歪む。


「アーマーの弱いところを狙え!」


 おそらく、体の中心以外はガードが弱いと見る。


「オーッ!」


 兵士たちが、一斉に巻き返す。


「あそこでも、幻術でカホウリンの父親が惑わされていた………うーん」


 オレは、なにかが引っ掛かっている。


「どうしたの? ケンタクロシスト?」


 カホウリンが、オレの顔を見る。


「ああ、カホウリン。妙だよね、幻術使いがまたあらわれたって」


 そんなに、あっちこっちいる世界なのかな?


「そうよね。そもそも、幻術使いなんてこの国にいたのが珍しいわ」


 幻術使い自体が、レアだと言うカホウリン。


「それなら、湖の城にいたヤツのどれかが怪しいってことにならないか?」


 あそこにいた人物が、幻術使いの可能性が出てきた。


「うん………そうかも」


 うなずくカホウリン。


「おーい、サフィス!」


 女神サフィスを呼ぶ。


「………ファーーッ。イイ気分で眠っていたのに~」


 眠たそうな目を、こすりながらサフィスが出てきた。


「サフィス! 聞きたいことがある」


 サフィスなら、見ているかも知れない。


「な~に?」


 アクビをしながら、聞くサフィス。


「幻術使いと、ドラゴン使いって同じ人物か?」


 単刀直入に聞くオレ。


「それは違うけど、その一派ね」


 ヒントをくれるサフィス。


「それは、あの湖の城にいたヤツか?」


「そうよ。いきなり姿をくらました人がいたでしょ?」


 また、ヒントを出すサフィス。


「えっ………? 誰だろう」


 思いうかべると、ハモミールもバフティーもあやしく思えてくる。


「あれじゃない? ビーターとか言ってた」


 カホウリンが、気付く。


「おお、ビーター? そう、なんかいたよな」


 戦おうと思っていたら、いなくなっていたよ。


「そう、そいつが幻術使いよ」


 眠そうに、答えるサフィス。


「まさか………それじゃあ、あいつを倒しておくべきだったのか!」


 あの時、剣で倒しておけばと、倒れた兵士たちを見ながら思う。


「うん! ………まぁ、そうなるわね」


 腰に、手を置いて苦笑いするサフィス。

 近づいて来た女の体を、一瞬で真っ二つにする。


「強いッ! どうやったの今!?」


 あまりにも速い動きに、ビックリするカホウリン。


「これね、固さを変えられるの」


 手を上げて、腕輪から伸びた緑色の布をヒラヒラさせる。


「へぇー、便利だなぁー」


 めちゃくちゃ切れ味があるね。


「だから、こう!」


 体を、舞うように回転するサフィス。


「ギヒァ!」


 首が飛ぶ女。


「こう」


 回り続けるサフィス。


「グヘッ!」


 斜めに斬られて、分離する。


「こう!!」


 舞い続けるだけで、血しぶきが飛ぶ。


ビシャーーッ


「ねっ!」


 ポーズをきめるサフィス。


「す………スゴい」


 ほとんど、駆逐してしまっている。


「チッ!」


 物陰から、悪態をついている人影が見える。


「あっ! あそこビーターがいる!」


 カホウリンが、指差す。

 明かりに、照らされる。


「ビーターじゃねぇ!」


 名前を、間違えられてイラついているようだ。


「おおっ、出たな!」


 まさか、ヤツの方から出てくるとは。


「フフフ。剣で切り刻んであげるわ」


 腰の剣を抜くジーター。


「剣で? おもしろい」


 剣を構えるオレ。


「幻術なしで倒してあげる」


 余裕を見せる。

 なんで、そんなに自信があるのだろうか?


「そんなに、余裕出しちゃって、大丈夫か!? おいッ騎士団長?」


 小声で、剣の中にいる騎士団長を呼ぶが、


「………」


 無反応な騎士団長。

 どうなっちゃってんだよ?


「もちろん!」


 突撃して来るジーター。


「ちょっと、待って!」


 こっちにも、準備があるんだよ!


「待たん!」


キーン


 パチンと、火花が飛ぶ。


「うわっ! ちょっ! 待てって」


 あぶなかった! 心臓を、えぐられるところだった。


「くどい!」


 横に、剣を振るジーター。


「わっ」


 ギリギリで、かわす。


「さすが、国内一の剣士。さすがね」


 構えなおすジーター。


「それはどうも」


 ほめられても、あまりうれしくない。


「ハッ」


 素早い突きを繰り出すジーター


「わっ!」


 剣で、ふせぐだけで精一杯だ。


「どうした。遠慮しているのか?」


 怒りを見せるジーター。


「イヤ! 手はぬいてないから」


 参ったなこれは!


「どういうつもりだ! バカにしやがって!」


 防戦一方のオレに対して、おちょくられていると感じるジーター。


「違うっての!」


 力をこめて、横に剣を振ると当たりどころがよかったのか、ジーターの手から剣が離れて、飛んでいく。


「あッ!」


 地面に、突き刺さる剣。


「勝った!」


 なんとかギリギリ!


「チッ………」


 へたりこんで、下を向くジーター。


「ふぅ、疲れた~」


 剣を、鞘におさめるオレ。


「どうした?」


 座ったままで、見上げるジーター。


「えっ?」


 なんだ?


「なぜ、とどめを刺さない?」


 自身の胸に、親指をつき立てるジーター。


「えっ? だって、勝負ついたろ?」


 別に、無駄に殺すことないでしょ。


「クッ」


 悔しそうなジーター。


「逃げないように、捕まえて」


 カホウリンが、捕縛するように言うと、


「ハッ!」


 兵士たちが、ジーターに縄をかける。


「逃げないわよ」


「どうだか。それより、幻術を解いてくれ。ありがたいんだが」


 オレが頼むと、


「国一番の剣士の頼みだもん、幻術を解くわ」


 幻術を解くと、女性たちの姿が消えていく。


「ありがとうビーター」


 オレが、お礼を言うと、


「ちょっと! わざとじゃないの?」


 顔色を、赤くして怒る。


「あっ、ゴメン」


 なんだよ、わざとじゃあないし。


「もっ!」


「だいぶ、片付いたけどね」


 カホウリンが、魔法を使って敵を倒しまくる。


「おぉ、カホウリンがやったのか?」


 頑丈そうなアーマーを装備した兵士の遺体が、たくさん転がっている。


「うん、グミちゃんと一緒にね」


 ほほ笑んで、グミちゃんを見るカホウリン。

 うん? と、カホウリンを見るグミちゃん。


「スゴいな。完全装備の兵士だったんだね」


 幻術が解けてみると、すごい固そうな甲冑だな。


「おい、それより!」


 ジーターを指差すバドムーン。


「それより?」


 首を、かしげるジーター。


「ベーナード卿は、どこにいる?」


 この騒動の首謀者ベーナード卿の所在を聞くバドムーン。


「どこにったってねぇ、勝手に王になったって玉座の間にいるわよ」


 あっさりと、答えるジーター。


「なに、ふてぶてしいヤツめ」


 怒るバドムーン。


「捕まえて、外に引きずり出せ!」


 ハッキンサワーが、指示を出す。


「はッ!」


ズブッ


 兵士どうしが、玉座の間の前で斬りあっている。


「ギャア!!」


 ドアの前で、守っていた兵士が斬られて倒れる。


「ここだ、開けるぞ」


 玉座の間の、大きなドアに手をかける。


「おう」


 剣を構えて、開くと同時に突入する兵士。


「ダーッ」


 ドアの近くで、待ち構えていた兵士。


「グゥッ!」


 突入した兵士の脇腹が、えぐられる。


「おおおりゃあ」


 剣を引き抜き、切る。


「グフッ」


 逆に、その兵を斬りすてる。


「なんだ! もう来たではないか!」


 玉座に座っているベーナード卿が、あせっている。


「見つけたぞベーナード卿! 観念しろ!」


 兵士たちが、なだれこむ。


「まだだ! 捕まってたまるか!」


 玉座から立ち上がり、裏へと消えるベーナード卿。


「待て!」


 兵士たちが、追いかける。


「また、再興してやる! それまで、さらばだ諸君!」


 螺旋階段を、こだまするベーナード卿の声。


「隠し通路だ!」


 急いで追いかける兵士たち。


「ハハハハハ………」


タッタッタッタッ


 走り抜けるベーナード卿。


「追え! 追えーッ!」


 兵士たちが追うが、追いつかない。


「しまったな。ベッドに愛人を残して来てしまった」


 城内に、呼び寄せて一緒にベッドで寝ていた。


「ワーーッ」


 兵士たちの声が響く。


「………誰も、いないな。よし───」


 裏庭の出口に、ひょっこり頭を出すベーナード卿。

 フタを、カパカパしながら、ようやく這い出ると、


「よお、ベーナード卿。調子は、どうだい?」


 ハッキンサワーが、待ち構えていた。


「ウワッ!」


 あわてて引っ込むが、捕まるベーナード卿。


「待てよ。本物の国王が、相手してくれるってよ」


 ハッキンサワーが、ベーナード卿を引きずり出す。


「離せ! 国王は儂だぁ!」


 ジタバタするベーナード卿。


「違うね、ニセ国王が! 連れて来い」


 兵士に、引き渡すハッキンサワー。


「ハッ!」


 兵士2人が、ベーナード卿の腕を掴んで引きずる。


「やめろ~」


 もがくベーナード卿。


「来たかニセ王クソベーナード卿」


 バドムーンが、悪態をつく。


「ぐぬぬ。もう少しで、本物の王になれたのに………」


 小声で、つぶやくベーナード卿。


「なにか、言い残すことはあるか?」


 そう、国王に聞かれると、


「見逃してくれ。つい、出来心で───」


 命乞いをするベーナード卿。


「普通なら、断頭台を用意してやらんこともないが、国王を幽閉し国王を名乗った罪は重いぞ?」


 バドムーンが、やさしく言う。


「たーすけてくれぇえー~」


 抵抗するベーナード卿。


「バドムーンよ」


 国王が、バドムーンに手招きする。


「はい、国王さま!」


 国王を見るバドムーン。


「こやつの首をはねよ」


「はいッ!」


 国王の指示で、剣を抜くバドムーン。


「待て待て」


「ご覚悟を」


ザン


 ベーナード卿の首が、弾むように転がっていく。


「よし、これで争いはおさまったか」


 国王が、安心したような表情になる。


「あの、国王さま」


 ハッキンサワーが、国王の前にひざまずく。


「どうした、ハッキンサワー?」


 不思議そうな顔をする国王。


「それがその、ベーナード卿が勝手にはじめたザンシュガルとの戦闘が、高原で───」


 と、ハッキンサワーが言いかけると、


「なんと! それで、戦況は?」


 ただごとではない状況に、顔が強ばる国王。


「一進一退、なかなか決着がつきませぬ」


 苦しそうな顔をするハッキンサワー。


「よし、行って直接指揮をとる」


 国王が、自ら軍を動かすと言う。


「よろしいので、体調の方は?」


 体を、気づかうバドムーン。


「大丈夫だ、戦争を終わらせてこよう」


「オーーッ」

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