第19話 ゆくゆく行方
「門を開けよ! ベーナード卿!!」
王都レギルスに、私兵団を率いてあらわれたベーナード卿は、城内に入ると城門を締めて立てこもってしまった。
その数時間前
「もはや、女王は亡くなった! ここで一気に挙兵し、この国をおさめる王と
ベーナード卿は、自分の領地で兵士を鍛え上げ、このチャンスに国王に成り上がるつもりだ。
重装備を身につけ、右手に持った松明を振り上げると、
「ワーー!!」
屈強な兵士どもが、深夜の静寂を破る。
「「ベーナード国王バンザーイ!」」
この時を、待ちわびた兵士が気勢をあげる。
「うむ。いざ進軍だ!!」
王都レギルスを目指すベーナード卿。
「オーーッ!」
ベーナード卿が乗る馬の後を、走って追いかける兵士たち。
「あっ! ベーナード卿よ!」
レギルスに、帰って来た住民がベーナード卿の姿を目撃する。
「ここで戦争でも、おっぱじめる気か!?」
その、ものものしい出で立ちに、いやがおうにも不安が隠しきれない住民たち。
「やあベーナード卿!」
女王を捜索中のフガリット卿が、たまたまベーナード卿の隊列に遭遇する。
「おっ、フガリット卿ではないか」
少し、気まずいベーナード卿。
「どうした? そんな重装備で?」
夜中に、軍隊を動かしていることもあるが、それよりもベーナード卿の重装備の方が気にかかるフガリット卿。
「なーに、女王を捜索しなければならんと聞いたので、駆けつけたまでよ」
あくまでも、捜索隊だと言うベーナード卿。
「そうでしたか。それでは、森を───」
森の方を、指差すフガリット卿に対し、ベーナード卿は、
「待った!」
右手を、突き出すベーナード卿
「えっ?」
「儂らは、一旦休憩をとる為に入城する。その後、まずは城内から捜索を始めるゆえ───」
兵を休ませる為に、城に入ると言うベーナード卿。
「ちょっと待った!」
止めるフガリット卿。
「なに?」
「城内は、わがはいがくまなく探しました。出来れば森を探していただけると、ありがたいのだが───」
そうフガリット卿が言いかけると、
「やかましいわ。見落としもあるだろうから、まずは城内からと言うておる!」
全く、取り合わないベーナード卿。
「さようでございますか………では、お好きなように、なさってください」
強く言って、亀裂が広がるのをふせぎたいフガリット卿。
「おう、そうさせてもらうぞ!」
隊列を率いて、城内に入っていくベーナード卿。
「さあ、捜索を再開しよう」
フガリット卿が、呼びかけて捜索を再開する。
「はい」
ペコリと、頭を下げる兵士たち。
「おい、シーキンはいるか?」
ベーナード卿は、城内でシーキンを探す。
「はい、ベーナード卿! ここに」
シーキンが、近づく。
「やはり、女王はザンシュガルに?」
シーキンが、女王がザンシュガルに行ったという情報を、ベーナード卿だけに手紙で伝えていた。
「おそらくは。そして、ザンシュガルからそのような話が出て来ないと言うことは、たぶんヒュンゲルの企みは失敗して2人は死んだと思われます」
そう、シーキンが予想を言うと、
「であるか」
アゴをさわるベーナード卿。
「はい。ベーナード卿、その装備からするともしかして………」
シーキンは、察して聞く。
「ああ。儂は、決めたぞ! 城門を閉じよ!」
兵士に命じるベーナード卿。
「はッ!!」
走って行く兵士。
「よろしいので?」
ニヤリと笑うシーキン。
「ああ。さいは投げられた」
覚悟を決めた顔をするベーナード卿。
「しかし、妙ですね」
フガリット卿の側近が首をかしげる。
「なにがだ?」
フガリット卿が、汗をぬぐいながら聞く。
「ちょっと、違和感がありまして………」
側近が、苦笑いする。
「あぁ、わがはいも感じた。イヤな予感を」
真顔になるフガリット卿。
「一旦、ベーナード卿の様子を見てきますか?」
城を、指差す側近。
「そうだな。夜も遅いし、みんなに城内で休憩をとるように伝えてくれ」
一旦、集合するように指示を出すフガリット卿。
「はい!」
そう指示したフガリット卿が、城に戻ってみると、
「おや、なんで城門が閉まっている?」
夜中は、閉まっているのが普通ではあるが、こんな緊急事態の時に誰が閉めたのか引っ掛かるフガリット卿。
「さあ?」
側近の者が、腕組みする。
「フガリットである。城門を開けよ!」
城壁の上に、見張りの兵士を見つけて、フガリット卿が声をかけると、
「できません!」
思いもよらない答えがかえってくる。
「えっ!? なにを戯れ言を───」
そう言いかけたフガリット卿だが、
「お帰りください!」
くい気味で、立ち退くように言うベーナード卿の兵士。
「誰だ! 誰の命令だ!?」
フガリット卿が、そうたずねると、
「ベーナード卿の命令です」
あっさり答える兵士。
「門を開けよ! ベーナード卿!!」
夜中なのに、大きい声を出すフガリット卿。
「ラチが、開きませんね」
側近が、あきれたように言う。
「仕方ない。
フガリット卿の顔に、怒りが満ちていく。
「はい!」
フガリット卿の気迫に、押される側近。
「兵を編成して、連れて来い!」
全面衝突は、やむなしと腹を決めるフガリット卿。
「はいッ!」
側近が、兵士に連絡して集合をかけるように指示する。
「後悔しても遅いぞベーナード!」
その頃
「ひあっ!」
木々が、生い茂った中を進むカホウリンが、顔に飛んで来た白い液体に驚いて立ち止まる。
「どうした!?」
オレが、心配して様子を見る。
「アァメガネが、ドロドロ~」
なにか、白いスライムのようなモノが付着したので、ゆっくりと外すカホウリン。
「顔に、白い液体が付いてるよカホウリン!」
いきなり、なにがあったの?
「なにこれ、生臭い~。人体に影響あるの?」
あぶない液体か聞くカホウリン。
「大丈夫。それは、植物が虫を捕らえる時に出す液体だから、人間には影響はない」
グミちゃんが、安全だと答える。
「なぁ、ここが王都に戻る近道だって聞いたが、本当に大丈夫だろうな?」
道無き道を、突き進むパーティーメンバー。
「大丈夫じゃ! 間違いない!」
グミちゃんが、魔法の杖に乗ったまま答える。
「それならイイんだけど………」
一瞬、来た道を戻った方が早く着くような気もしたのだが、
「もうすぐで、街道に出る。心配するな」
グミちゃんが、あと少しでジャングルを抜けると言う。
「うーん」
このまま行って、大丈夫かな~
「ホラ、街道だ! 見ろ!」
視界が開けて、ちょっと進むと2メートルほど下に、広い道がある。
「やったぜ!」
ゆっくりと、崖をくだると、
「あれ、誰か来る」
馬が走るひづめの音が、たくさんこっちに近づいて来ている。
「わっ、人だ! 人がいる、止まれぇ!!」
ヒヒーン
ハッキンサワーが、手綱を引く。
「わあーーッ!」
目の前まで迫って来た。
「あれ、カホウリン! えっ騎士団長も! こんなところで、なにしてるんですか?」
カホウリンが出している明かりに照らされて、顔がわかる。
「ハッキンサワー! あなたこそ、なんでこんなところに!?」
どうやら、カホウリンは馬に乗っている人物を知っているようだね。
「レギルスにいるはずの女王が、いなくなったと聞いたので、これから様子を見る為に戻る途中なんですよ」
そう、ハッキンサワーが言うので、
「わたしたちも、王都に戻る途中なの! そ
れに、すごい事実がわかったの!」
目を、輝かせるカホウリン。
「なんだいカホウリン? その事実って?」
興味を、そそられるハッキンサワー。
「若き王は、死んでなかった!」
ありのまま話すカホウリン。
「なに!?」
あっけにとられるハッキンサワー。
「死んだことにされて、ベーナード卿が国王を幽閉していたの!!」
隠された真実を言うカホウリン。
「なっ! なんだって!?」
目が点になるハッキンサワー。
「ホラ、国王よ!」
影に隠れていた国王を、前に出す。
「たっ、たしかに!!」
馬から降りて、確認するハッキンサワー。
「あのね。夜があける前にはレギルスに着きたいな」
カホウリンが、そう言うと、
「馬に、乗ってください!」
2人乗りするように言うハッキンサワー。
「助かるわ、行きましょ」
それぞれ、兵士の後ろに乗馬する。
「はい。ハア゛ーッ!」
その頃
「フガリット卿!」
兵士を呼びに行った伝令の兵が、兵士たちを連れて来る。
「よし、そろったな」
数の上では互角。
しかし、籠城する兵に対しては心もとない。
「フガリット卿! あれを!」
街道に続く光を見て、指差す兵士たち。
「なんだ!?」
夜中で、顔が確認出来ないので、目をこらす。
「ハッキンサワーさま! 誰か、城門の前に集結しています!」
ハッキンサワーの視線の先に、兵士が隊列を組んでいる。
「本当だ。急ぐぞ!」
ただならぬ雰囲気に、焦りが強くなる。
「はッ!」
「ハッキンサワーだ、お前らなにしている?」
城門の前に、固まっている兵士に声をかけるハッキンサワー。
「おぉ、ハッキンサワー! フガリットだ」
ハッキンサワーの顔を見て、駆け寄るフガリット卿。
「フガリット卿! ここでなにをされているのだ?」
こんな夜更けに、城の前にいるのはあやしすぎる。
「ベーナード卿が、城門を閉じて城内に立てこもっておるのだ」
現状の説明をするフガリット卿。
「なにぃ? おーい! ベーナード卿!」
ハッキンサワーが、声をかける。
「ベーナード卿は、就寝中です。お静かに」
城壁の上から、声がかかる。
「やかましいわ! 城門を開けないと叩き壊すぞ」
怒鳴りちらすハッキンサワー。
「そうだ。 こちらには国王がいる!」
カホウリンが、そう言うと、
「国王? あっ、国王!」
フガリット卿が、ギョッとした顔で国王の顔を見る。
「フガリット卿。ひさしいな」
遠い目をする国王。
「こんなになられて。葬儀をあげたのに、なぜ生きておられるのですか?」
ひざまづくフガリット卿。
「ベーナード卿の企みらしいんだ。半信半疑だったが、これで確証が得られた!」
ハッキンサワーは、くやしい表情を見せる。
「よし。逆賊のベーナード卿を、討ち取りましょう!」
フガリット卿は、右手をつきあげる。
「ああ。粉々に粉砕してくれる!」
ハッキンサワーは、気合いがみなぎる。
「打ち壊せ!」
「はッ!!」
フガリット卿の指示で、丸太を持った兵士たちが、城門の前に出る。
「せーのッ」
ドーーン
「ンぐ………なんの音だ!?」
ベッドで、横になっていたベーナード卿が目をさまして、上半身を起こす。
「ベーナードさま」
シーキンが、寝室に入って来る。
「シーキン! なんの騒ぎだ!?」
ドスンドスンと、外から音がする。
ベーナード卿が、ベッドから降りて聞くと、
「幽閉していた王です………なぜか戻って来ています───」
そう、小声で言いかけたシーキン。
「なんだと!? 今は儂が王だぞ! 望遠鏡をここへ!」
バルコニーに、出て集団を見下ろす。
「はい!」
シーキンが、望遠鏡を取り出す。
「どれ………なッ! なんで、王が。ラヴカシールは、なにをしておるのだ!?」
望遠鏡をのぞくと、たしかに王がいる。
幽閉をたのんでおいたラヴカシールに、怒るベーナード卿。
「ラヴカシールとは、連絡がとれません」
シーキンが、申し訳なさげに言うと、
「チッ! 肝心な時にィ!」
いら立ちを、あらわにするベーナード卿。
「いかがいたしましょう?」
そう、シーキンが問うと、
「今は、こちらが正規軍だ。城門を開けるな!」
守りを固めるように言うベーナード卿。
「御意。もし、城門を破られたら………?」
つい心配で、聞いてしまうシーキン。
「その時には、全力で叩き潰せ!」
拳を、震わせるベーナード卿。
「はい、そのように」
「ククク………めにものみせてくれるわ」
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