第18話 きりきり気流
「それで、
ザンシュガル国の港町チッコ・リッタ。
この街は、交通の
北西に向かう街道を行けば、現在戦場になっている高原に行く。
逆に言えば、ザンシュガルにとって、高原との唯一の補給線となる街だ。
「あっ、いえまだ………」
チッコ・リッタを治めるブランカ・バーンズという女が部下に聞くが、良い返事がかえって来ない。
「接触は、あったか?」
ブランカ・バーンズが聞くと、
「それが、国境を守る兵士が言うには酒樽は、しっかり見たらしいんですが
部下が答える。
「それじゃあ、あのヒュンゲルという男が虚偽の話をしている可能性もあるではないか?」
ヒュンゲルの言動を、いぶかしく思い、牢屋に入れておくことにしたブランカ・バーンズ。
「はい、可能性としてあります」
うなずく部下。
「しぼりあげろ。イセシアの女としてはそんなヤカラを、許してはおけない」
部下に指示するブランカ・バーンズ。
「はい、ブランカさま」
その頃
「アムナベルさま、どいつもこいつも屈強な海の戦士たちです!」
トゥフェルが、ヴァッカルゴーン号の船上で、アムナベルのご機嫌をとる。
周囲には、同じくらいの大きさの船が、20艘は漂っている。
「うむ。その実力を存分に見せてみよ!」
アムナベルの指差す先に、チッコ・リッタの明かりが、ボンヤリと見える。
「御意」
頭を下げるトゥフェル。
「さあ、お前ら。派手にやらかすぞ!」
トゥフェルは、右手を突き上げる。
「ウォーーーーー」
海の上に、男たちの声が響きわたる。
「なんだ? 海に誰か出てるのか?」
チッコ・リッタにある、やぐらの上で監視している兵士2人が、顔を見合わせる。
「こんな夜中に、出てるわけねぇだろ」
もう1人の兵士が、否定する。
「んだな~」
ジッと、真っ暗な海を眺めていたが微笑する。
ヒューーーッ
トツッ
「うっ………」
首に、矢が命中した兵士。
「どうしたんだべ?」
海賊が放った矢が、命中して倒れた兵士を抱きかかえる兵士。
「一気に、チッコリッタを制圧するぞ」
海賊船が、次々と湾になだれこむ。
「「オーーーーーッ」」
海賊の男どもが、大声をあげる。
「わーッ、海から敵襲だべ」
ベルを、鳴らそうと立ち上がる兵士だが、
「はーッ!!」
マストから、やぐらに飛び移る海賊。
「うひっ!」
いきなり、目の前にあらわれた敵に、一瞬ひるむ兵士。
「お目覚めかな~」
ニヤリと笑う海賊。
「こっ、このォオオ!」
兵士が、剣を抜きかけるが、
ズブシュ
湾曲した剣で、頭と体が別れる兵士。
「まだ寝てろ!」
自分の鼻を、親指でシュッとする海賊。
「いけーっ。狙うは、ブランカ・バーンズの首のみだ!」
オレンジ色のバンダナを巻いた海賊が、そう叫ぶと、
「ウォーーー」
接岸した海賊船から、次々と港町に突入していく海賊たち。
「んーーッ、寝ていたのにさわがしいな」
ベッドに、横になっていたブランカ・バーンズが、起き上がる。
そーっと、ドアを開けると、
「おい、それは本当か───」
廊下で、兵士たちが話している。
「なにごとだ!?」
ブランカ・バーンズが、ドアを開ける。
「就寝中のところ悪い知らせですが、何者かに襲撃を受けております!」
短パン姿のブランカ・バーンズに、頭を下げる兵士。
「なに? どこのどいつだ?」
怒りをあらわにするブランカ・バーンズ。
「わかりません!」
再び、頭を下げる兵士。
「わからねぇことは! ねーだろ!」
兵士に、つめ寄るブランカ・バーンズ。
「ひっ、申し訳ござんせん」
小さくなる兵士。
「まぁ、よい。ケンカを売ったこと、後悔させてやる」
ベッドの横に、置いてある剣を手に取り、鞘から抜くブランカ。
「いけーッ!! 突撃ぃ!!」
アムナベルも、上陸して剣を振る。
「こっちです、アムナベルさま。見つけました」
先行していたトゥフェルと合流する。
「よし、ごくろう。生きているか?」
小走りで進みながら、聞くアムナベル。
「はい。生きております」
うなずくトゥフェル。
「そこに案内しろ」
立ち止まるアムナベル。
「はッ」
牢屋まで、案内するトゥフェル。
「おおい~」
格子から、酔っぱらいが手を伸ばす。
「奥の独房です」
一番奥に鉄格子があり、そこからヒュンゲルが、青アザの顔を突き出している。
「うむ………」
近づいて見るアムナベル。
「出してくれ~」
うめくヒュンゲル。
「どうですか?」
トゥフェルが、アムナベルに聞くと、
「たしかに、ヒュンゲルだな」
顔が、腫れているが確認する。
「女王さま! 出してください!!」
アムナベルに気付き、声をあげるヒュンゲル。
「お前、あたしになにをしたか言ってみろ!」
怒りに、震えるアムナベル。
「えっ! なんでしたっけ? アハッ」
とぼけるヒュンゲル。
「もうしばらく、そこにいろ」
話すだけ無駄だと思い、そのまま立ち去るアムナベル。
「待って! た~すけて~」
命乞いをするヒュンゲル。
「どこだ! ブランカ・バーンズ!」
海賊たちが、探していると、
「騒がしいヤツだ! な!!」
隠れていたブランカ・バーンズが、海賊の腹をえぐる。
「卑怯なヤツめ。カードゲームで勝負しろ!」
それを目撃したアムナベルが、カードの束を出す。
「ここは、ナタルシじゃあねえんだよ!」
一笑にふすブランカ・バーンズ。
「クッ! 野蛮な! ミンチにしてくれる」
剣を抜くアムナベル。
「やれるもんなら、やってみろ!」
剣を振って、血のりを落とすブランカ・バーンズ
「ヤーーー」
剣を、構えるアムナベル。
「あ゛ーーー」
シュ
カキン
「ぐあっ」
脚を、切りつけられて、立ち上がれないブランカ・バーンズ
「バカめ。ちゃんと剣術も心得ておるわ」
鼻で笑うアムナベル。
「クッ………」
地面に、倒れこむブランカ・バーンズ。
「ブランカバーンズに、縄をかけろ!」
海賊に、指示を出すアムナベル。
「はい!」
身動きが、とれなくなったブランカ・バーンズ。
「どうするつもりだ!?」
悪態をつくブランカ・バーンズ。
「お前に、ふさわしい場所を用意してやる」
口角を上げるアムナベル。
「クッ………」
うつむくブランカ・バーンズ。
「牢屋にいるヒュンゲルにも、縄をかけて連れて来い」
海賊に指示を出すアムナベル。
「どうするんです?」
「あたしに、歯向かうとどうなるか見せてあげる」
自分の首に、人差し指を立てるアムナベル。
「まさか………」
海賊が、息をのむ。
「そう。ここで兵を半分に分ける。ここに残って、補給線を断つ部隊と、このまま高原へ攻め登る部隊だ!」
補給線を、断つだけじゃなく、挟撃を考えていたアムナベル。
「そこまで考えていたんですね」
感心する海賊。
「この、千載一遇のチャンスを逃すわけがなかろう!」
自慢気なアムナベル。
「さすがですアムナベルさま」
トゥフェルが、ヨイショする。
「おだてても、なにも出ないぞ」
「ハハハ」
その頃
『第9フレーム』
いよいよ、ケンタクロシストとルーゴの対戦も佳境にさしかかる。
「さあ、私のターンだ。ドロー。ミルドック召喚。ゴーシュート!」
ルーゴは、まだ余裕を見せている。
「風の夏島レベル9。フラッシュタイミング、スライディング!」
オレは、なんとかしのぐのに必死だ。
「ミルドック、噛みつけ!」
ルーゴの指示で、ミルドックが球に噛みつく。
コーーーン
8ピン残る。
「2本だけとはーッ………」
顔を、ゆがめるルーゴ。
「フーッ。残念だったな」
ここにきて、ミルドックだと助かる。
「続けていけミルドック! ゴーシュート!!」
ひるまないルーゴ。
「風の夏島レベル9の効果発動。ハリケーン!」
強烈な風に、吹き飛ぶ球。
「いけー。ミルドック。噛みつけーッ!」
大きく跳びはねるミルドック。
コーーーン
「また2本かーーーッ」
苦虫を、噛みつぶした顔をするルーゴ。
「ハァハァ………よっしゃあ!」
なんとか、防いだぞ。
「お前のターンだぞ!」
オレを、指差すルーゴ。
「よっしオレのターン! ドロー!」
ワクワクする!
「いよいよね」
カホウリンも、頬を赤くする。
「ロングホーンビートルとミルドックを墓場にトラッシュ!!」
カホウリンの顔を見て、こっちまで妙に緊張感が出てきた。
「なっ! なんだと!?」
ルーゴは、知らないことが起きて、目を丸くする。
「いでよ! ブルームアイファイヤードラゴンを召喚! この召喚したドラゴンは、2フレーム戦うことが出来る! ゴーシュート!!!」
でっかいドラゴンが出現して、大きく腕を振る。
「なんだ! そいつはァ!?」
あっけにとられるルーゴ。
「どうだ!」
初めて見るけど、圧巻だな。
「クゥゥ! やってやる! 雨の山脈レベル9! フラッシュタイミング、トス!」
足掻くルーゴ。
「ブルームアイファイヤードラゴン! はたけ!」
ブルームアイファイヤードラゴンに、指示すると、
「グォォオオオーーー」
案外、素早く動く。
ガコーーーーーンンッッッ
目で、追えないほどのスピードで放たれて、10本のピンが吹き飛ぶ。
「やった! ストライク!」
んギもちィイイ!
「うギャァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
雷にでも、うたれたようにエビ反りになるルーゴ。
「スゴいなこいつは!」
ビックリするほどの快感が、背骨を突き抜けた。
「お父さん………」
悲しげに、父を見るカホウリン。
「どうだ、降参するか?」
さすがに、効いたでしょコレは。
「ハアッハアッハアッしない! 降参などするものか!!」
まだ、立ち上がるルーゴ。
脚は、震えている。
「がんばるね」
頭を振るオレ。
『第10フレーム』
「私のターン。ドロー。ジャンクヒポポタマス召喚! ゴーシュート!」
ルーゴの、とっておきはジャンクヒポポタマスだ。
「風の夏島レベル10。フラッシュタイミング、インターセプト!」
こっちも、防がせてもらうぞ。
「ジャンクヒポポタマス! ジャンクアタック!」
すごいパワーで押すジャンクヒポポタマス。
コーーン
「チッ、2本残ってしまった………」
奥歯を、ギリギリと鳴らすルーゴ。
「クッッ! やった、防いだ!」
ここで、ストライクを防いだのは大きい。
「まだだ。ジャンクヒポポタマス! もう1回ゴーシュート!」
あせるルーゴ。
「風の夏島のレベル10の効果発動! ハリケーン!」
風に包まれる球。
「いけ、ジャンクヒポポタマス!」
コン
「なッ! 1本だけ………」
ヒザから、崩れ落ちるルーゴ。
「よっしゃあーーーッ」
これで、勝つのぞみが出てきた。
「でも、次にストライクを取れないと、私には勝てないぞ」
冷静に、分析するルーゴ。
「取ってみせる! オレのターン。ドロー。ブルームアイファイヤードラゴンで、ゴーシュート!」
すでに、召喚していたブルームアイファイヤードラゴンが、球を投げる。
「雨の山脈レベル10。フラッシュタイミング、ノックオン」
なんとか、妨害しようとするルーゴだが、
「ブルームアイファイヤードラゴン! 炎を吹け!」
「グォオ」
火炎に包まれる球。
ガコーーーーーン
宙を舞う10本のピン。
「よし! ストライク!」
連続ストライクで、うれしい誤算だ。
「ギャアアアア」
のたうち回るルーゴ。
「もう、やめたげて」
心配になるカホウリン。
「ブルームアイファイヤードラゴン! もう1回! ゴーシュート!」
ガコーーーー………ン
「う゛ぎゃあああぁぁ………」
全身の痛みで、体をくねらせるルーゴ。
『ルーゴ・ディアスト戦闘不能』
「やったぁ!」
逆転勝利だ!
「おめでとう、ケンタクロシスト」
健闘を、たたえるカホウリン。
「ありがとう、カホウリン」
なんだか、うれしいな。
「実は、そのカード………わたしも引いていたけど使えなかったの。ありがとう」
ブルームアイファイヤードラゴンのカードは、使えずとっていたと言うカホウリン。
「えっ!?」
立ち尽くすオレ。
カホウリンは、倒れた父親に駆け寄る。
「あっ、お父さん」
父を、抱えるカホウリン。
「ウ゛ッ………ここは?」
やっと、正気になったルーゴ。
「やった! 術がとけたのね!」
よろこぶカホウリン。
「………なにか、悪い夢を見させられていたような」
立ち上がって、周囲を見るルーゴ。
「そうよ! 全部悪い夢だったの!」
「そうか」
うつむくルーゴ。
「うん、よかった」
「あれは、国王ではないか。あんなにやつれて………」
ニセの玉座に座る男を見るルーゴ。
「なにか、食べるもの………」
なにかを、食べさせようとするカホウリン。
「今は、干し肉くらいしかないけど」
ポケットから、干し肉を出す。
「バカ、このような状態のヤツが干し肉など食べれるわけがないだろう。スープを、飲ませてやろう」
グミちゃんが、スープを取り出す。
「スープ………ってまさかグミちゃん!?」
あれを飲ます気か!?
「あっ、もう飲ませてる!!」
カホウリンが、固まる。
「どうじゃ味は?」
感想を聞くグミちゃん。
「………おいしい」
国王が、おいしそうに食べている。
「おいしいんかい」
思わず、つっこむオレ。
「オロロ」
カホウリンは、壁に向かっている。
「カホウリン、どうした?」
カホウリンを、心配するルーゴ。
「大丈夫。大丈夫そうだから大丈夫」
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