第17話 らんらん乱打
「キャアーーー」
衝撃波で、ふき飛ばされるカホウリン。
『カホウリン戦闘不能』
カホウリンは、第10フレームの自分の攻撃に入る前に、大ダメージで倒れてしまった。
「ふぅ………ふぅ、まだまだだな娘よ」
肩で、息をするルーゴ。
「ア゛、ア゛ア゛ア゛ア」
カホウリンは、全身がシビれているように、けいれんして横たわっている。
「大丈夫か!? カホウリン?」
カホウリンの肩を、揺すってみる。
「ちょっと、どいて」
グミちゃんが、回復魔法をかける。
「さあ、この場から立ち去れい!!」
ルーゴが、ドアを指差して言う。
「まだだ」
ゆっくりと、立ち上がるオレ。
「は?」
不満そうな、顔をするルーゴ。
「オレがやる!!」
ルーゴに、拳を向ける。
「よほど腕に自信があると見える」
半笑いのルーゴ。
「いや、カードバトル自体はやって1日もたってねぇ!」
おぼえたてホヤホヤだぜ、こっちはよ!
「なんだと。笑わせるな!」
口を、右手でおおうルーゴ。
「でも、やってやる!!」
カホウリンを、こんなにされて黙っていられるか!
「さあ来い。グチョグチョに蹴散らしてやるわ!!」
指を、グニョグニョ動かすルーゴ。
「カホウリン、借りるよ」
カホウリンのカードを、受けとる。
「………無理、しないでね」
やっと、意識がはっきりするカホウリン。
「ああ、大丈夫。勝つよ」
カホウリンの手を握る。
「「フィールドオープン、開放」」
声を、そろえる。
『第1フレーム』
「私のターンからだな。ドロー。ロングホーンビートル召喚。ゴーシュート」
ルーゴのターンから始まる。
「フィールド展開。風の夏島レベル1。フラッシュタイミング、トス」
だいぶ、おぼえてきた。
「ロングホーンビートル、つのでつけ!」
ルーゴの指示で、しゃがむロングホーンビートル。
カコーーーン
8ピン残る。
「チッ、2本か」
ぼんやりと、眺めるルーゴ。
「クッッ。やったぜ!」
どうにか、最初にストライクを取られるのを回避する。
「まだだ、いけッロングホーンビートル!」
続けざま指示するルーゴ。
「風の夏島レベル1の効果発動! タイフーン!」
強力な風が巻き起こり、球を包む。
「ロングホーンビートル、つのでつけ!」
ふせるロングホーンビートル。
ガコーーン
残りの8ピンが飛ぶ。
「よし、スペア」
拳を握るルーゴ。
「ぎゃあ」
痛いぜ。
別のフィールドの方が、よかったのか?
「もう終わりか?」
鼻で笑うルーゴ。
「………まだ、これからだ!」
この程度で、倒れるかよ。
「さあ、来い!!」
両手を、広げるルーゴ。
「オレのターン。ドロー。ファンシーキャット召喚。ゴーシュート!」
あわよくば、ストライクが欲しい。
「フィールド展開。雨の山脈レベル1。フラッシュタイミング、チップイン」
球が、跳ね上がる。
「ファンシーキャット、手玉にとれ!」
オレの指示で、ファンシーキャットが球を空中でキャッチする。
ガコーーン
2ピン残る。
「8ピンかぁ、まぁまぁだな」
思ったより取れた。
「クッ!!!」
体を、かがめるルーゴ。
「ファンシーキャット、もう1回いけぇ!」
その頃
ナタルシ国の東部。
国境付近にある高原のだだっ広い平地で、隣国ザンシュガルの兵士とナタルシの兵士同士が、ぶつかり合っている。
おびただしい量の兵士が、血みどろで倒れている。
「ええい、もう日没はすぎたと言うのに!」
指揮官ハッキンサワーは、敵が深夜まで攻撃をしかけてくるので、寝不足になりイライラしている。
「ヤツら、今夜も夜襲して来る気でしょうか?」
歩兵団長の男が、困った顔で笑う。
「わからん。だがヤツらならやりかねんな」
総大将の男が答える。
「ですよね。ヤツらの補給線を断つことが出来れば戦局も変わるかも知れない」
困ったように笑う歩兵団長。
「ハァハァ、報告です!」
馬を走らせて来た兵士が、馬から飛び降りて、よろけつつ駆け寄る。
「どうした?」
総大将が、聞くと、
「あっ、あの~………」
他の2人を、ジロリと見る兵士。
「ああ、この者は大丈夫だ。言うてみよ」
秘密の話だと察した総大将が、話すようにうながす。
「でしたらその、女王が………」
小声で、話しだす兵士。
「ん? 女王が、いかがした?」
また、なにかつまらないことを言い出したかと、
「王都に、ドラゴンが出まして、それで───」
そう兵士が言いかけると、
「まさか、女王がドラゴンにやられた?」
歩兵団長が、早合点する。
「いえ、───」
首を振る兵士。
「喰われた?」
半笑いの総大将。
「違います。生きて───」
両手を振る兵士。
「なんだよ、生きてんの?」
ハッキンサワーが、つまらなそうに言う。
「いえ、そ───」
真顔になる兵士。
「生きてないの? やったじゃん。さっさと戦争を終わらせようぜ」
うれしそうに言うハッキンサワー。
「安否不明です!」
声を、荒らげる兵士。
「なんだそりゃあ!?」
への字口をするハッキンサワー。
「くまなく探したのか?」
総大将が、確認すると、
「はい、捜索はしましたが、未確認情報ですが………」
再び、小声になる兵士。
「なんだ、言ってみろ」
歩兵団長が聞く。
「近衛兵のヒュンゲルが、女王を隠しているとの話がありまして………」
そっと、口に手をそえて話す兵士。
「なんだそれ」
にわかに、信じがたい話を聞かされて、顔を見合わせる総大将たち。
「未だに、姿を見せないのです。さんざん捜索しましたが………」
首を振る兵士。
「まぁ、兵士の指揮を実際にやっているのは我々だし、どこか散歩でもしているんだろう」
歩兵団長が、苦笑いしながら言う。
「わかりませんが………」
首を、かしげる兵士。
「それより、ドラゴンは退治したんだろうな?」
女王の安否より、王都で暴れたドラゴンの方が気になる。
「いえ、それが───」
言葉をにごす兵士。
「なんだ、王都に部隊を残してあっただろう? それに、騎士団長はなにしていたんだ?」
騎士団長の責任を問う歩兵団長。
「それが、王都にドラゴンが出た前日に騎士団長は、ドラゴン討伐に失敗しまして、女王が激怒しまして………」
頭を掻く兵士。
「なんだよ! まだドラゴンが生きていやがるのか?」
ハッキンサワーが、イラだって聞くと、
「いえ、
腕組みする兵士。
「そうか………」
総大将も、腕組みする。
「どうしますか?」
ハッキンサワーが、総大将に聞く。
「兵士を分ける。歩兵5千と、リザードマン部隊の残存兵は、そのまま戦闘を続けてくれ。騎兵隊1000騎の内20騎は王都に戻るぞ。ハッキンサワー、20騎を率いてくれ」
総大将が、歩兵団長とハッキンサワーに手招きして話す。
「はっ!」
ハッキンサワーが、背筋を伸ばす。
「このまま、王都の混乱が続くと、貴族たちが黙ってないだろうな………」
歩兵団長が、つぶやく。
ベーナード卿とフガリット卿それぞれ1000の歩兵と、100騎の騎兵隊を出してもらっている。
「そうですよね」
頭を抱えるハッキンサワー。
「特に、ベーナード卿とフガリット卿の対立が、表面化しかねない」
下手をすると、内戦もありうる微妙な情勢だ。
「それなら、20騎で足りますか? どちらも、歩兵を領地に500ほど抱えていますし、この戦場にいる兵士も、それぞれ王都に戻る可能性も………」
歩兵団長が、額をさわりながら指摘する。
「そっちの方は、まかせたぞ。20騎では正直心もとないが、オレはなんとかやってみせる」
ハッキンサワーは、笑って見せる。
「ハッキンサワー………」
歩兵団長は、口角を上げる。
「大丈夫だ、心配するな。後は、まかせたぞ」
その頃
『第6フレーム』
ルーゴは、第1・3・5フレームにスペア、ケンタクロシストは第3・4フレームにストライクを取った。
「ハァハァ、私のターンだ。ドロー。ピックベア召喚。ゴーシュート!」
ルーゴは、強いカードを切る。
「風の夏島レベル6。フラッシュタイミング、スライディング」
なんとか、連続を防いできたが、これはどうなるか。
「なんの! ピックベア、ツメでひっかけ!」
強力なツメで、球をひっかくピックベア。
ガコーン
「よし! ストライク!」
ルーゴは、ガッツポーズする。
「うぎゃあーーーッ」
めっちゃ痛い!
なんなんだよコレ!!
「さあ、お前の番だぞ!」
第3・4フレームに連続ストライクを取られた時には、死にそうな顔をしていたルーゴ。
息を、ふき返したようだ。
「ハアッハアッ。オレのターン。ドロー。おおっ!?」
なんとか、息をととのえてカードを引くと、明らかに強そうなカードを引く。
「どうした?」
オレの様子がおかしいから、目ざとく聞いてくるルーゴ。
「いや、なんでもない。アングリータイガー召喚。ゴーシュート!」
10フレーム用にとっておいたカードを切る。
「雨の山脈レベル6。フラッシュタイミング、スチール」
球が、跳ね返ってくる。
「アングリータイガー、つかんで回転!」
カコーーン
1ピンが残る。
「おしい。9本かぁ!」
なんとか、ストライクが欲しかったがなぁ。
「クゥゥッッ!」
片ヒザをつくルーゴ。
「さあ、1本取りにいくぞ! アングリータイガー。ゴーシュート!」
お楽しみの為に、なんとか取ってくれ!
「雨の山脈レベル6の効果発動。ぬかるめ!!」
コースが、微妙にズレていく。
コーーン
残った1本が、はじけ飛んでいく。
「うわ、ギリギリ取れた! やったぜ!」
あぶなかった。
さすが、強カードだな。
「グッッッ!」
中腰で、痛がるルーゴ。
「さあ、まだやるか?」
拳を、つき出すオレ。
「もちろんだ」
スッと、背筋を伸ばすルーゴ。
「そう来ないとな」
あのカードを見たい。
「余裕だな。よほど良いカードを引いたんだな?」
苦笑いするルーゴ。
「えっ? なんのこと~?」
なんとか、ゴマかさないと。
「まぁ、よい」
鼻で笑うルーゴ。
『第7フレーム』
「ハァァ。私のターン。ドロー。オフロードバード召喚。ゴーシュート!」
大きく、深呼吸するルーゴ。
手札には、連続ストライクを狙えそうなカードがない。
「風の夏島レベル7。フラッシュタイミング、インターセプト」
球が、溝へとスーッと消えていく。
『ガター』
「温存していたか」
手で顔を隠して、首を振るルーゴ。
「そりゃあ2連続でストライクは取られたくないからね」
ここは、死守しないとヤバい。
「フフ、オフロードバードよ、もう1回ゴーシュート!」
なんとか、スペアを取りたいルーゴ。
「風の夏島レベル7の効果発動! サイクロン!」
強力な風に巻き上げられる球。
「オフロードバード、キックだ!」
なんとか、足がとどくのだが、
カコーーン
8ピン残る。
「チッ、2ピンだけとはッ!」
あからさまに、不満そうな顔をするルーゴ。
「いっっ。なんとか回避できたぜ」
2ピンだけしか取られなかったうれしさが表情に出てしまう。
「さあ、やってみろ!」
強そうなカードを、逆に期待するルーゴ。
「オレのターン。ドロー。こいつを───」
手札の、1枚を引っ張り出そうとすると、
「待って!」
それを見ていたカホウリンが止める。
『ブブッ!』
なにか、不正解の音が鳴る。
「えっ、このカードを───」
また、カードを出そうとすると、
『ブブッ!』
音かと思えば、サフィスが言っているんだな。
「ケンタクロシスト! ごめんなさい、それを出すのはちょっと待って!」
様子を見ていたカホウリンが、あやまる。
「えっ? カホウリンどうして!?」
なんで、このカードは出せないんだ?
「ちょっと、耳打ちするから」
カホウリンが、口に手をそえて小声で言う。
「あっ、うん」
耳を、かたむける。
「それを使うには、生け贄として召喚獣カード2枚を墓地にトラッシュしないといけないの………」
いわゆるコストが必要みたい。
「えぇぇ………マジかぁー」
せっかく、強そうなカードが出たのに。
「そうなの。だから、第9フレームに出して。イイことがあるからねっ」
説明してくれるカホウリン。
「第9フレーム………わかったよ、ありがとうカホウリン」
どうやら、使い所があるっぽい。
「うん!」
満面の笑みのカホウリン。
「話は、終わったのか?」
少し、イライラしているルーゴ。
「ああ。待たせたな!」
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