第5話 がりがり我流
「おい、ケン!」
西洋風で、こじんまりとした平屋建てがあり、テラスを通り建物の中へと入るなり、グミちゃんが詰めよって来る。
「えっ、なんですか?」
押し倒して、喰うつもりか?
そう思って、体を硬直しているが、その気配は感じられない。
「ちょっち、手を出してくれ」
手を、前に出すように言うグミちゃん。
「手? えっ、なにすんのコワッ」
思わず、体の後ろ側へと手を隠すようにかばうオレ。
「大丈夫、喰ったりせんから。さあ!」
なにやら、苦笑いしながら右手をヒラヒラさせるグミちゃん。
「え~~~」
おそるおそる、手を出してみると、
「はようせんか!」
強引に、左手でオレの右腕をつかみ、引き寄せるグミちゃん。
「はい~」
引っ張っても、右手が抜けない。
体を、のけ反らせるオレだが、
「こう」
柔らかい感触。
グミちゃんと、握手している。
「えっ、なんの握手ですかコレは?」
アイドルだから?
いや、アイドルにピンときていない以上、なにか、別の意図があるような気がするような………
「えーっと、お主の元いたところを見せて欲しいんだよ~」
顔を、赤くしながら言うグミちゃん。
こうやって、じっくり見るとカワイイ。
「えっ? それと握手がどう?」
どうも、話が見えないな………
「良いか、以前にどんなワタシを見たのか頭で思い出してみろ」
つまり、頭でイメージした映像を見たいらしい。
「えー、なんか大丈夫なの?」
不意に、エロい妄想とか流れないかな。
「はやく、見せてみろ!」
鼻息の、荒いグミちゃん。
「………それじゃあ、こんなのとか」
ミュージックビデオの映像を、思い出してみる。
「おおっ、なにやら音楽に合わせて踊っておるぞ。たしかにワタシだ」
あれ? 本当に見えているんだね。
「あと、こんなのとか」
グミちゃんが、Tフロントの水着を着て、踊っている。
「わっ、ハダカ?」
顔色が、真っ赤になるグミちゃん。
「水着ですね、あとは」
舞台上で、号泣するグミちゃん。
「これは?」
不思議がるグミちゃん。
「人気ランキング2位になったところですね」
夕日ニャーニャ時代から、グループを渡り歩き、AkNにてやっと人気総選挙で2位になったのを、メンバーとよろこんでいる。
「なんだと? 1位は取れないと?」
本人からすれば、くやし涙だ。
「最近の、ランキングは知らないですよ。今は、フルーツチョッパーというグループが人気ですから」
次々と、生まれては消えていく。
「………そうか、栄枯盛衰か」
なにやら、しんみりとした空気が漂う。
「と、まぁそんなところです。どう伝わったのですか?」
途中で、ヤバい映像になりそうだったが、なんとか耐えた。
「テレメトリックだ。と言っても分からないだろうが」
手を離し、頭を指差すグミちゃん。
「テレパシーみたいなことですか?」
会話しないで、通じる的な。
「あー、似ているが違う。テレパシーは、能力者同士が、会話に使うもの。テレメトリックは、残留思念を読み取るものなのでな」
残留思念と………
「はぁ………それで見えたんですね?」
ヤバいな。
「ひどく、つかれているようだがワタシだな」
笑って見せるグミちゃん。
「でしょ? やっぱりそうだ」
よかった。
でも、グミちゃん本人は記憶にないみたいだし、どうなっているのか新しい疑問点が出来た。
「うん………お腹減ってないか?」
キッチンに向かうグミちゃん。
『わしは、減って───』
騎士団長が、そう言いかけるのを制するように、
「あーッ、減ってます減ってます」
カホウリンが、割って入る。
「そうだな。あの食事は、半分くらいで邪魔が入ったからな」
うまかったのに。
食べに行くと、また兵士に見つかりそうだし、困ったな。
「それなら、食事にしよう」
振り返り、ニッコリと笑うグミちゃん。
「やったー」
カホウリンは、よろこんでいるようだが、
「あの、食事ってグミちゃんが作ってくれるのですか?」
一応、確認するオレ。
「もちろん、ワタシ1人で暮らしているからな」
親指を、立てるグミちゃん。
「オフぅ」
ヤバいだろ、どう考えても。
「………なんだ、不満かや?」
察するグミちゃん。
「いいえ、不満なんてありません!」
喰わないとか言ったら、殺されるかも知れない。
「それなら、よかった」
ドボドボ
ドスン
奥の方に、火にかけたツボがあり、おたまで緑色のスープを皿に盛り付けて、オレの前に勢いよく置くグミちゃん。
「えっ? なんですかコレは?」
食欲不振になりそうな液体。
「まぁ、まず喰ってみろ!」
スプーンを、オレに押し付けるグミちゃん。
「………えっ」
その頃
「うぎゃあーーッ」
ドラゴンが、大暴れしている。
「わーッ、アチチーーッ」
炎を、大噴射するドラゴンに、背中を焼かれる兵士。
「なにごとじゃーッ」
「おお、女王さま」
側近が、ガードする。
「今は、出たらいけませぬぞ」
すぐ近くの廊下まで、ドラゴンが来ている。
「なにが………そんな、あれはドラゴンではないか!」
自分の目を、疑う女王。
理解が、追い付いていないようだ。
「はいっ、ドラゴンです!!」
守備兵が、気のぬけた声を出す。
「なっ………なぜじゃーーッ」
大声を出す女王。
滝のように、汗が吹き出す。
「それがその………」
お互いに、顔を見合せる兵士たち。
「言うてみよ! 言わねば首を、はねるぞーっ!」
兵士の目の前まで、指を差す女王。
さされた兵士は、へたりつく。
「おそれながら、ドラゴン使いを城内に招き入れた連中がおるそうで───」
ビクビクしながら、答える兵士。
「あれは、レギルスに向かって来ていたの
と、違うのか?」
ドラゴンということで、ピンときた女王。
「いえ、はい王都に向かって来ていたドラゴンと、全く同じヤツであります!」
認める兵士たち。
「なんだと!? それでは、話がおかしいではないか! ドラゴンが、このレギルスに向かって来ていると言うから、隣国との戦線から、ドラゴン討伐部隊を編成したと言うのに!!」
ドラゴンは、倒せなかったが王都レギルスからは、遠ざけることは出来たと聞いていた女王。
「
玉座の間の奥を、指差す側近の兵士。
「しかし、きさまらは?」
残る兵士を、心配する女王。
「我らは、後で合流いたします。ヒュンゲル、王女を頼んだぞ」
近衛兵士の、ヒュンゲルを護衛につける側近たち。
「はいッ」
若いが、将来性のある男だ。
「必ず、来るんだぞ」
側近に、念を押す女王。
「はい!もちろんでございます」
半笑いで、答える側近。
「ではッ!」
玉座の裏にある、隠し通路に向かって走る女王とヒュンゲル。
タッタッタッ
その様子を、見送る側近。
「よーし、死んでもここを通すな!」
兵士たちに、激をとばす側近。
「オーーッ………ぎゃあー」
言った端から、ドラゴンに喰われる兵士。
「クッ! 1秒でも耐えてや………」
ブシューーッ
側近の、首から上が喰われて、血が吹き出す。
「あぁぁ!」
ショックを、隠せない兵士たち。
「この野郎!」
ガキーンッ
兵士が、剣を刺そうとするが、硬いウロコに跳ねかえされる。
「クソッ! 刃が全くたたんッ!」
苦悶の、表情を見せる兵士。
「ぎゃはッ!」
腕を、喰われる兵士。
「ドラゴンの野郎、人間狩りを楽しんでやがる!!」
汗だくの兵士が叫ぶ。
「アハハ、イイぞもっと喰え! 遠慮はいらぬぞ」
その様子を見ながら、せせら笑うラヴカシール。
「なんだアイツ!? あんなに近くにいて、なぜあの女は喰われないんだ?」
不思議な光景に、首をかしげる兵士たち。
「アイツだ、アイツがドラゴンを手懐けていやがるんだ!!」
1人の兵士が叫ぶ。
「それじゃあ、アイツを倒せばドラゴンは止まるのか?」
ターゲットを、ドラゴンからラヴカシールに変える。
「いや、そうではない………」
他の兵士が、つぶやく。
「それは、どういう?」
詳しく聞く。
「術者を叩いても、ドラゴンが暴走するだけだと言ってい───」
落ち着いた、口調で話していると、
「そんなの、やってみねぇと分かんねぇじゃねぇか!」
若い兵士が叫んで走りだす。
「おい、コラ! 無茶をするな!!」
制止したのだが、突っ込んでいく。
「ほう、わてを狙って来るとはおもしろい。そんなことは───」
フラッと、前に歩みを進めるラヴカシール。
「でゃあああ!」
剣を、高く振り上げる兵士。
「予想の
跳躍して、剣を振り下ろした兵士に、黒い影のような鎌の形状のなにかが、ラヴカシールの背後から無数に伸びて、兵士に突き刺さる。
そして、そのまま持ち上がる。
「カハッ」
空中に静止して、大量の血を口から吐く兵士。
「おいっ!!」
止めた兵士が叫ぶ。
「むごい………」
体が、全く動いていない。
「クッソー、ふざけやがって!!」
怒りが、頂点に達した兵士。
「さぁ、次に餌食となるのは、どいつだい?」
唇を、一周なめるラヴカシール。
「ムッ………! 一斉に、かかれーッ」
号令で、飛びかかる兵士たち。
「「おーッ」」
「勝てないと、わかっていても、けなげだねぇーーー」
華麗な、ステップを踏んで攻撃をかわして、兵士の足下から黒い鎌を出して、串刺しにするラヴカシール。
「ア゛ビィ」
次々と、串刺しになっていく兵士。
「あーぁ、新鮮なエサが、こんなになっちゃったわぁ~!」
地面に、転がった兵士の
「ふッ………ふざけやがって………」
ドラゴンに、腕を喰われた兵士が立ち上がる。
「オレたちは、エサじゃねぇー!!」
兵士が、大声を出す。
「それじゃあ、なんなのよ? 動く的? 肉の壁かしらね?」
右手を、フワフワするラヴカシール。
「クッ………相手の挑発に乗るな! 間合いを、つめていけ!」
ジリジリと、距離をつめながら寄る。
「残念ねぇ?」
腕組みするラヴカシール。
「なにが、残念だ!?」
「だって、最近はカードバトルで勝敗を決めるらしいじゃないの? それじゃあ、体がなまっても仕方ないわよねぇ~!」
あまりにも、歯ごたえのない兵士たちを見て、
「黙れ! 隣国との戦争で兵士を割いてなければ、お前なんぞは一捻りだバカ野郎!」
いきがる兵士。
「あーら、御愁傷様~。もうそろそろ、楽になりなさいよ。さーあ!」
手を、前に伸ばすラヴカシール。
「クッ、どう思うよ?」
横の兵士に、小声で話す。
「………あいつの使う黒い影は、射程距離はそんなに長くないと見るが………」
どうやら、近付くと串刺しみたいだと見る兵士。
「それなら、弓か?」
剣を、鞘に入れる兵士。
「よし、試してみよう!」
背中の弓矢を、手にとる兵士。
「弓、持てーいぃ!」
号令で、一斉に弓矢を構える。
「ほう………」
目を、細めるラヴカシール。
「
シューッ
「ふぁーっ」
あくびを、一つするラヴカシール。
キンキンキンッ
黒い影に、次々と矢が落とされる。
「そんなの、きくわけないじゃないのよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます