第3話 またきて失格って

「さあ、出た出たァー」


 兵士たちに、無理やり城壁の外まで追い出される。

 情けなく、地面に転がるオレとカホウリン。


「いてっ、なんだよ一体よぉ」


 城門に立ち、槍を構える2人の兵士を、にらみつけるオレ。

 通さないぞと、言わんばかりに槍をクロスさせる兵士たち。

 なにも、そこまでしなくても入らないよ………


「仕方ありません。所持金も少ないことですし、安い宿を探しましょう」


 ミニスカートの、ホコリをはらいつつ立ち上がるカホウリン。


「えっ、お前らって普段はどこに住んでいたの?」


 トボトボと、街の雑踏を歩く。


『我々、近衛騎士団は城壁の内側に家があるのだが、こうやって追放されてしまったからには、まず活動拠点を作らねば』


 城壁内に入れない以上、家に帰ることも出来ないみたいだ。

 着の身着のまま、放り出されてしまって、どうすればイイんだ?


「なるほど、じゃあ安い宿を探すとしますか!」


 から元気を出すオレ。


「はい」


 力なく、返事を返すカホウリン。


『こことか、どうだろう?』


 見るからに、絢爛けんらん豪華ごうかな白い建物だ。


「ダメですね。高すぎますよココは」


 だよな、知ってた。


『この辺とか………』


 川沿いに、カップルの入るような建物が数軒並んでいる。


「ベッドが、1つのタイプですから余計にお金がかかります。ベッドは2つ欲しいですよ」


 カホウリンが、そんなことを言うので、


「えっ、もしかして同じ部屋に?」


 なにか、想像してしまう。


「そのつもりですが、イヤですかわたしと同じ部屋は?」


 なんだか、少し顔色が赤くないかな?

 気のせいかな~。


「いや、オレは大丈夫だよ」


 夜中に、襲われるのかなオレ。


「実は、まだ魂が定着しているのか、あやしいのです。それで、抜けそうなら戻さないと───」


 真顔で、そんな説明をするカホウリン。


「いや、コワッ」


 定着してないとか、冗談はやめてよ。


「えっ?」


 不思議そうな、表情をするカホウリン。


「それって、寝ている間に死ぬかもってこと

でしょ?」


「まぁ、平たく言えばそうですね」


 ニコッと、笑うカホウリン。


「う゛ゴッ」


 せっかく、異世界に来たのに1日で死ぬとか、やめてよ?


「大丈夫です、わたしがちゃんと面倒を見るので」


 親指を立てるカホウリン。


「………おなしゃす」


 ちくしょう! 自由になれたかと思ったらカホウリンが必要だって?


「? はい。こことか、どうでしょうか?」


 だいぶ、街から離れた位置に1軒の家があって、かろうじて宿だとわかる。


「なかなか、味が………」


 ここって、お化け屋敷じゃないよね?

 やたらと、ボロい外観と足を踏み入れると、ギィギィときしむ床板。


「ここ、安いのにベッドが2つあるので決めましょう」


 なぜか、上機嫌なカホウリン。


「あっ、ああ………」


『決まりだな』


 折れそうな階段をのぼって、薄暗い廊下を進んで、部屋へと入る。


「だいたいさ、どうしてこうなったか聞きたいワケ!」


 ちょっと、さすがに我慢の限界が来た。


『わしが、自分を過信したのが、そもそも悪いのだ』


 悪びれることなく、話す騎士団長に、


「いや、そんなにエラぶるなよ、もう騎士団長じゃねぇんだしよ」


『そうだな。その通りだ。女王に配下の兵士5名でドラゴンを狩って来ると、見栄を張ってしまって、安全の為にカホウリンをつけてくださったのだ』


「騎士団長………じゃなかった、ケンタクロシストさまだけでも、救出出来てよかったです」


 剣を、抱き締めるカホウリン。


『感謝してるぞ、カホウリン』


 やさしく、感謝を伝える騎士団長。


「えぇ」


 うれしそうな顔をするカホウリン。


「おーい」


 なんなんだ?

 そっちの関係なの2人って?


『なにか?』


 向き直る騎士団長。


「なにかじゃねぇし、これからどうすんの?」


 こっちは、真剣にやってるのによ。


『どうするとは?』


 斜めに、傾く剣。


「城にも、戻れねぇでどうするんだ?」


『なんとか、カホウリンだけでも復職するように、説得してみようと思うから、つき合ってもらうぞ』


 まぁ、剣がしゃべっていたら、復職どころじゃないだろうがな。


「ケッ、勝手なことを」


 頼み方を、知らねぇのか。


「騎士団長さま、わたしだけ戻るわけにはまいりません」


 悲しそうな面持ちのカホウリン。


『いや、お前は戻れ。そして、中から闇を暴いてくれ』


 なにかを、託す騎士団長。


「騎士団長さま………」


 また、剣を抱き締めるカホウリン。


「とりあえず、腹減らねぇか? どこかで、ご飯を食べようぜ」


 強引に、話題を変えるオレ。


『それが、不思議と剣になって空腹を感じなくてね』


 さわやかに言う騎士団長。


「オレは、感じてるの!」


 どうも、マイペースなヤツだな!


「それなら、なにか食べに出ましょうか?」


 カホウリンが、首を振りながら言う。


「おう、このカビ臭い部屋から早く出たいぜ」


 湿っぽいのも。


『カビ臭いのか、そうか………』


 なにかを、思う騎士団長。


「ここが、おすすめです。安くてボリュームありますよー」


 テーブル席が、20ほどある大衆食堂に入る。


「おおっ、うまそう」


 注文して、運ばれて来た肉料理に思わず笑顔になる。


「はい、おいしいですよ」


 困った顔で、ニコッと笑うカホウリン。


「いただきまーす。んッ、おいひいな」


 口いっぱいに、頬張る。


「ところで、あなたのことは何とお呼びすれば?」


「あぁ、オレの名はケン。好きに呼んでよカホウリンちゃん」


「そうでしたか。もし、よろしければケンタクロシストさまとお呼びしても、よろしいですか? 周囲の目も、ありますし」


「あぁ、かまわないが本人が混乱しないか?」


 チラッと、剣を見るオレ。


『わしは、かまわないよカホウリン』


「それなら、そうしますね」


 肉塊を、飲み下しながら返事するカホウリン。


「あっ、見つけましたわ騎士団長を!」


 店の外で、女性が騒いでいる。


「おぉ、そうだ! いたぞ! カホウリン・ディアストもいた!」


 兵士が、ゾロゾロと集結している。


「なんだ、オレを指さしている?」


 20代後半と思われる女性が、オレを指さしてにらみつけている。


『ヤバいぞ。』


 跳ねて、オレの太ももに立つ剣。


「どうした?」


 小声で、騎士団長に聞く。


『フガリットきょうの奥方だ』


 そう、騎士団長が言うと、


「マズいですね」


 神妙な、面持ちとなるカホウリン。


「なにがマズい?」


 なんの話を、している?


「あの奥方の息子が、ドラゴンとの戦闘で………」


 聞くところによると、フガリット卿の力でケンタクロシストは騎士団長になれた。

 その息子を、死なせては恩をあだで返したようなものだ。


「えっ、そんなに大きな子が?」


「息子は、15歳で奥方は32です」


 つまり、10代で産んだんだな。


「若ッ! そりゃあ怒るのも無理ないか」


 ヤバいぞ、これはッ。


「オイ! カホウリン! そのチャームを返却してもらうぞ!」


 カホウリンの、髪に付けたスペード型のチャームを返すように言う屈強な男。


「なんで、あんなに苦労して手に入れた近衛騎士団のあかしを、返さなきゃいけないの?」


 拒否するカホウリン。


「うるさい! ベーナードきょうがお前らが抵抗するなら討てと、ご命令だ」


「なんだよ、フガリット卿の次はベーナード卿って?」


 何人いるんだ?


『本来、対立的な立場の2人が………なるほど』


 なにか、裏が読めた騎士団長。


「なんだよ。どう、なるほどなんだ?」


 わかるように、説明してくれよ。


『もし、わしを殺し損じても、2の矢3の矢があったか。細かい説明はあとだ、切り抜けるぞ! 立て』


 イスから立つように言う騎士団長。


「さあ、早くわたす───ぅごッ」


「早く、こいつらを殺してぇーッ」


 屈強な兵士を、押し退けるようにフガリット卿の奥方が来る。

 32にしては、若く見える。


「ヤバいな、カホウリン逃げるぞ」


 カホウリンの、手を掴む。


「はい!」


 店の奥の方に、走って逃げる。


「逃がすか! 追え追えーッ」


 客を、押し退ける屈強な男。


「殺すのですぅー!!」


 スカートを、たくし上げて追いかけるフガリット卿の奥方。


『おい、ケン』


 厨房を抜けて、外に出ると騎士団長がオレに話しかけるので、


「どうした、団長!?」


『わしを、鞘から抜いて戦え』


 オレに、兵士と戦えと言う騎士団長。


「えっ、そんなのやったことねぇし、わかんねぇよ!」


 いきなり、人を殺れとか狂ってるよ!


『持っているだけで、動きはわしがやる』


 持ち上げていれば、勝手に動いてくれるらしい。

 無理無理無理!


「そんなの、できんのか?」


『やらなければ、やられる! さあ抜け!』


「知らねぇぞ!」


シュィーーン


 剣を抜いて、持ち上げようとする。


『はァァァァァ』


カチーン


 握っているのだが、重みで剣の先が地面にぶつかる。


「あッ!」


 マズい。

 刃が、欠けてないよな?


『おい、持ち上げてくれなければ動けん!』


 なんだよ。

 注文が、多いな。


「わかったよ! ウ゛ーッ」


 両手でつかんで、なんとか持ち上げる。


「どうした、重いのか? 騎士団長失格だな」


 屈強な男が、剣を抜き構える。


『クッ!』


「おい! 騎士団長はまだ傷が癒えてないようだぞ! この国で最強の剣士を、討ち取るチャンスだ!」


『ほぅ、出来るもんなら、やってみるがイイさ』


「女王から、決闘は禁じられていますが………」


 屈強な男の背後から、若い兵士が言うと、


「うるさい、討伐命令は出ているんだから!」


 屈強な男は、迷いを振り切るように大声を出す。


「でも、女王さまからではないのでは───」


 くい下がる若い兵士だが、


「いちいち、カードゲームしてる状況じゃあねぇ! いくぞ!」


ガギーン


 振り下ろされた剣を、受け止めるオレ。


「くっ、さすがだな騎士団長!」


 不気味に、笑う屈強な男。


『次、右』


 指示を、小声で出す騎士団長。


「ハッ」


 体を、ひるがえし右に移動する。


「ウッ」


 剣が、勝手に相手の腹を裂いて血が吹き出す。


「ウワーッ」


 敵が、片ヒザをつく。


「ウワーッ」


 オレも、あふれ出る鮮血を見て、変な声が口から出る。


『カホウリン! たのむ!』


 騎士団長が、指示を出すと、


「はいッ、ファイヤーッ」


グォオオ


 カホウリンが、魔法で炎を出して屈強な男が火に包まれる。


「ワァーーーッ」


 火だるまになった男の火を、消そうとする兵士たち。


『今のうちに!』


「はい!」


「クッ、逃がすな! 追え!」

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