第1話 いきなり団長

「わーーッ」


 オレが目覚めざめると、ベッドの上にいるのがわかる。

 しかし、縛りつけられたように体が重い。


「いッ………、痛いッッ」


 あまりの痛みに、気を失うオレ。


「………ねぇねぇ」


 女性の、声がする。

 しかし、必死に声のする方へ向いても、姿が見えない。


「なんだ、ここはッ!?」


 病院ではない、どこかの広い部屋にベッドが設置されて、その上に寝かされている。

 それにしても、全身が痛すぎる。


「ねぇってば~」


 声は、近くなっている。


「なんだ、いってぇな、どこから声がするんだ?」


 目だけ、キョロキョロと動かす。


「フフフ、ここよ」


「どこだ………うわっ!!」


 最初は、うっすらと見えていた姿が、ハッキリと出て、目の前に顔があるとおどろいてしまった。


「ビックリした?」


 満足そうな表情をして、オレから顔を離して腕組みをして立っているが、金髪の後頭部に、わっかの編み込みを2つしている、奇妙な髪型で、白く薄い布地の服と、腕輪をしている。その腕輪から、緑色の布が出ている。


「お、おう………ところで誰だおめぇ?」


 あまり、見たことない風貌ふうぼうに警戒するオレ。


「救いの、女神といったところね」


 右手を、頭の後ろに、左手を腰に置いて体をグニャりと、くねらせる女神。


「救いの………女神ぃ?」


 なんだソレ?


「そっ!!」


 うれしそうに、ニコッと笑う女神。


「………なんだ、まったく理解ができねえぞ」


 痛みで、話が入って来ない。


「まぁ、そうでしょうね。すごく簡単に説明してあげるわ」


 人差し指を、立てる女神。


「おぅ、実は天国ですとかは無しにしてくれよ」


 苦笑いするオレ。


「ウフフ」


 苦笑いする女神。


「え゛っ!?」


「あなた、トラックにひかれたのは、おぼえているかしら?」


 オレの、おどろいた面をよそに、女神がオレの記憶を聞く。


「え………あ、なん、となくだけど………」


 事故の前までは、しっかりおぼえているのだが。


「それでね、予定外に死んでしまったの。それは、大量の血が池のようだったわ───」


 口角を、あげる女神が恐ろしく感じて、


「ちょ、ちょっと待て。オレは生きているし、なんだよ予定外って?」


 現に、ベッドの上で寝ているじゃないか。


「あの、話の腰を折らないで、いただけます?」


 女神が、眉毛をつりあげて、人差し指をオレの口に、突っ込んできた。


「お゛ゴッ、しゅみわせむ(すみません)」


 身動きがとれないオレ。

 とりあえず、あやまる。


「わかればイイのですよ」


 指を、ひっこ抜く女神。


「ゲホッゲホッ………続きをお願いします」


 あまり、気分を害さないようにしないと、苦しい。


「うん、あれ、わたくし、どこまでお話したかな~」


 人差し指を、くわえながら上の方を見る女神。


「予定外に、死んだってとこだよ!」


 さすがに、キレそうになってくる。


「あぁ、そうなの。わたくしの手違いで、小学生の子がケガをするのを、回避しようと。ホラ、女の子にキズが残ったりしたら、かわいそうでしょ?」


 なにか、善行をやりましたと言わんばかりに言う救いの女神。


「って、ことは………女児をケガさせないようにトラックの進行方向を変えたら、オレが死んだってことで、合っているのか?」


 まぁ、横断歩道で立ち止まったオレも悪いんだけれども………。


「そーう、大正解!!」


 ニッコニコになる。


「ふざけん………ッツー痛いッ!!」


 思わず、上半身を起こして激痛がはしる。


「大丈夫?」


 心配そうに、唇を尖らせてオレの顔を、のぞきこむ女神。


「大丈夫じゃねぇ。なんでオレはこんなに痛いんだ? 死んだんじゃないのか?」


 いろいろと、矛盾むじゅんしているだろうがよ。


「うん、あまりに不憫ふびんだからさ、転生させてあげようと思ってだね───」


 苦笑いしながら、説明を続けるので、


「転生? これって転ぃ………うゴ」


 口に、また人差し指を入れてくる。


「今、話している途中でしょ?」


 いや、笑顔だけども目が笑ってない。


「う゛ッ、ごめんなさい、それはやめてくれよ」


 殺す気かよ。

 1回、殺しておいて。


「じゃあ、話を聞こう?」


 コワい表情をする女神。


「はい………」


「とにかく、あなたは異世界に転生したの。 残りの人生は、こっちで楽しく生きてね~」


「あの、質問をしてイイか?」


 おそるおそる聞いてみる。


「はい、どうぞ」


「転………生は、受け入れたというか、無理やり納得したとして、今、どういう状態なのか説明してくれないか?」


 もう、このまま生きるとして、どうせなら健康体に転生させてくれよ。


「あなたは、今、騎士団長の職をしているの」


 いきなり、マジメな顔をする女神。


「うん、それで?」


「討伐しようとしたドラゴンに、踏み潰され………って、誰か来たから消えるわね」


 話の途中で、人の気配を感じてスーッと透明になっていく女神。


「ちょっ、もう少し詳しく!」


コンコン


 ドアを、ノックする音がして、メガネをかけた女性が入ってくる。


「団長さま、声がしたようなので………」


 オレの顔を、のぞきこむ女性。

 おでこの真ん中が出るよう、ハの字に切られた前髪。側頭部にスペードのチャーム。ノースリーブのカッターシャツから、胸の横が見える。ミニスカートは、左脚にスリットが入っている。


「うっ………ああ」


 団長さまって、オレのことだよな。


「よかったー、気がついて」


 本当に、うれしそうな顔をする。


「あぁ………キミは?」


 とりあえず、看病してくれている女の子の名前くらい知っておかないとなぁ。


「えっ?」


 目が、点になる女の子。


「はっ?」


 なんだ?


「もしかして、記憶が………」


 少し、アワアワする女性。


「そっ、そうなんだよ、なんだか記憶がないんで、すまない」


 なんだ、どうなっているのか事情を説明しておけ女神よォ。


「ごめんなさい!」


 いきなり、頭を下げる女性。


「えっ?」


 なにか、事情がありそうだ。


「騎士団長を、蘇生そせいさせる為に、ラ・クロウのしょにあったの使ったのですが、わたしが、未熟だったばっかりに」


 ラ・クロウの書の写本と書いてある。


「いや、そうじゃないよ、女神の気まぐれで………」


 事情を、話そうとするが、


「いえ、わたしのせいなんです!!」


 両面を、つむって大声を出す女性。


『いや、お前のせいではないよ、カホウリン!』


 どこからか、男性の声がする。


「えっ?」


 オレの、顔色を見る女性。


「はっ? オレじゃねぇ」


 そんなに、見つめられても。


『話は、全部聞かせてもらったぜ』


 ベッドのかたわらに置かれた剣が、跳ねた。


「「剣が、しゃべった!」」


 ビックリして、声がそろう。


『まぁ、こうなっては仕方ない』


 なにか、悪い夢を見させられているのだろうか………?


「団長さんが、剣に………とんでもないことをしてしまったァー」


 頭を、抱える女の子。


『なげくでないカホウリン』


 やさしい口調で、語りかける騎士団長。


「………ウン?」


『ドラゴンに、踏み潰された時に死んだ。完全に魂が、ぬけてしまったのだ』


 完全に、幽体離脱した騎士団長。


「はい………」


 苦々しい、表情を浮かべるカホウリン。


『でも、こうして話が出来る。それだけでまだ救われた気分だ、ありがとう』


 どういうわけか、剣に騎士団長の魂を入れたカホウリン。

 スゴいんだか、ヘボいんだか。


「騎士団長さまぁ………」


 悲しげな、表情をするカホウリン。


「ん、なんだか居心地が悪いな」


 体が、動かせたら部屋を出るのにな。


「団長さま、待ってください、今、問題を解決します」


 そう言って、ラ・クロウの書のページをめくるカホウリン。


『えっ?』


 クルックルッと、左右に揺れる剣。


「ちょっと、お姉さん」


 なんだか、イヤな予感がする。


「話しかけないでください」


「なにをしようとしているのかな?」


 目を、皿のようにして、なにかを探しているカホウリンに、聞いてみると、


「決まっています。 団長さまと、あなたの魂を入れ替えるのです。 これで問題は解決───」


 不穏な言葉を、口にするカホウリン。


「ちょっと、待ってよ! いきなり、ケガ人に転生したと思ったら、今度は剣になっちゃうのオレ?」


 めちゃくちゃイヤなんだが。


「どなたか知りませんが、覚悟してください」


 目線を、ラ・クロウの書から、一瞥も離さないカホウリン。


「待て待て」


 クソッ。

 体、動けッ。


『やめないか、カホウリン』


 説得する騎士団長。


「でもー」


 半べそ状態のカホウリン。


『イイんだ。 この人だって、いきなり剣になったらかわいそうだろう』


 チラッと、見られた気がする。

 剣だが。


「はぁ、そうです」


 ホッとするオレ。

 話のわかる人かも知れないな。


『わしの名は、ケンタクロシスト。 王都を守る騎士団の長を、やっておる』


 言っていることは、まともだが、いかんせん剣だからな。


「ケンタクロシストって、オレが使っていたハンネににてるな………」


 なにか、縁があるのか。


『ハンネとは、なんだ?』


 騎士団長が、聞いてくる。


「ハンネは、ネットで使う名前で───」


 と、話していると、


『ネットとは、魚を取ったりする?』


 マジメなトーンで、聞いてくる。


「えっ、スマホとか、持ってないですか?」


 さすがに、スマートフォンは持っているんじゃないかな。


『スマホ?』


 ピンと来ていない。


「なぁ、カホウリンちゃん」


 カホウリンの顔を見ると、


「えっ?」


 ビクッと、少しのけぞるカホウリン。


「スマホ持ってるだろ?」


 若そうな人だから、持ってそうだけどな。


「スマホって、お菓子ですか?」


 真剣に、オレを見るカホウリン。


「えっ、ボケてるの?」


 マジメな顔して、やるなカホウリン。


「どういう意味ですか?」


 キョトンとした顔をするカホウリン。


「いや、スマホだよ? スマートフォンだよ?」


 なんで、そんな表情になる?


「食べたことないですね。騎士団長さまはありますか?」


 剣を見るカホウリン。


『わしも、食べたことないなー』


 クルックルッと、左右に揺れる剣。


「いや、喰いもんじゃねぇよ」


 どうやら、ボケているわけじゃなさそう。


「それならそうと、早く言ってください」


 真っ直ぐに、オレを見るカホウリン。


「えっ、待ってくれ」


 ヤバいな。

 この世界には、スマートフォンがないのか?


「なにをですか?」


「うわ、最悪。とんでもないところに来たな」


 窓際に、燭台しょくだいを見つけて、もしかしたら、電気もない田舎かも知れないと気がつく。


『カホウリンよ、ドラゴンは討伐が出来たのか?』


 騎士団長が、カホウリンに聞くと、


「…それが、その」

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