第41話 死刑執行人アルチナ・コーション

 「それにしても、ギギラが知ってる女が相手か」


 コロシアムに向かう間、ギギラは今朝の事を考えていた。


 「大体碌な相手が居ないし。基本ギギラの脳には女の事を覚えるために使うメモリーは無いのに」


 悪態をつきながら足を運ぶ。

 もちろん、彼女の機嫌が悪いのは『男と会えていない』『嫌いな女とあってばかり』というこの状況も原因の一つではある。


 しかし、それ以上にー


 「昨日の女よりはマシだといいけど」


 妙な胸騒ぎが治らなかった。


 ギギラと武器カレシ一網打尽にするために何か大きな事が仕組まれているんじゃないかと、そんな考えが止まらなかった。


 まぁ、今考えても仕方ない。

 そう気持ちを切り替えてギギラは見慣れたコロシアムに足を踏み入れる。

 そこで彼女を待ち受けたのはー


 『いいぞ~』 

 『あなたに期待してるわ~』 

 『もしギギラ・クレシアを殺し、実力を示したのならば。その杖への投資をさせてくれ!!』


 今までコロシアムで聞いてきたものとは異なる喧噪。

 死刑囚の殺し合いをする場には似つかわしくない賛辞の言葉の群れ。


 やはり、何か仕組まれてはいるのだろう。

 死刑囚同士を戦わせていた今までとは違うのだろう。


 そんな確信をもって、ギギラはコロシアムの中央にいる女性に目を向けた。


 「なるほどね。ギギラが知ってる女ってそういう事か」


 ため息をついて肩を落とすギギラの姿がギャラリーの目に映る。

 罵倒交じりのいつもの喧噪が彼女に襲い掛かった。


 『ここで登場しました!!今まで何人もの死刑囚を殺してきた極悪人にして、男を捕まえては武器にして良い様に扱うクソビッチ!!ギギラァァァァ・クレシアァァァァァ』


 「はぁ、全く。どうして君がこんな所に居るわけ?」


 司会者の声など聞き流し、ギギラは目の前に立つ女性に向かって声を掛ける。

 その際のギギラの表情は穏やかなものではなかった。


 「久しぶりに会うなり失礼で不細工な顔じゃない。この私にはちゃんと礼節をもって接するって世界の常識よね」

 

 「そんな常識、あいにくとギギラの世界にはないから。にしても、こんな所に居るなんて令嬢の君でもやらかす事はあるんだねぇ。アルチナ」


 「意外ね。女の名前なんか忘れてると思っていたのに」


 「君の悪印象がギギラの中でこびりついてるからじゃない?」


 二人は顔を合わせるなり煽りあう。


 「狙いはバラン君?」

 「えぇ。このしみったれた戦場で調子に乗ってる幼馴染アイツを、この私が直々に潰してやろうと思ったまでよ」


 そう、今回の対戦相手であるアルチナ・コーションはバランの幼馴染であるのだ。

 当然、バランと恋人関係にあったギギラとも面識がある。


 そして、互いに猛烈な悪印象を抱いている。


 『そして今回、ギギラ・クレシアと戦うのは死刑囚ではございません。あのコーション家の令嬢であるアルチナ様が初の死刑執行人として彼女に立ち向かいます』


 「死刑執行人?」

 

 「ちょうど私が行ってる研究には人体実験が必要でね。ここの囚人をその実験に使わせてもらう代わりに、私がアンタ達と戦わなくちゃいけなくなったって訳」


 「ふ~ん。でも良いの?死刑執行人なのに死刑囚私達を自由にさせてさ?戦って負けて殺されても知らないよ~?」


 「無駄な心配ね。だって私は負けないもの」


 アルチナは自慢げにそう言うと、空に手をかざす。

 

 「私の研究は人工アーティファクトの作成。ここでする実験はその実践」


 すると、彼女の手に平に一つの杖が生成される。

 それは人の大きさ程長く、先端に目を模した大きな魔法陣が浮かび上がっていた。


 「あっそ。じゃぁさっさと終わらせよう」

 「随分と余裕そうね」

 「当り前じゃん。ギギラは既に君の弱点を知ってるんだから」

 「不敬、おまけに気に入らない。さっさと殺すに限るわね」



 それに合わせてギギラもゲートを開く。

 そこから取り出したのは、もはや相棒とも言える杖。

 このコロシアムでもっとも彼女の隣に居た喋って動く彼を握ってギギラはアルチナに襲い掛かった。


 「彼氏No69、【不全能ふぜんのう短剣杖たんけんじょうバラン】」

 「アーティファクト起動。【全能の賢杖けんじょうモーゼアロン】」

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