第31話 バラン君はとっても便利な道具です
「おいギギラ。起きろ~」
「う~ん……もうそんな時間?」
バランの声にせかされ、ギギラは重い瞼をゆっくりと起こす。
昨日の夜中まで作戦会議をしていたのが響いているようだ。
「お前が言ったんだぞ?ジェーエルに怪しまれないように早めに起きるって」
「そうだねぇ……朝ごはんを食べれてジェーエルが帰った後に二度寝すればいいし」
誰にも聞こえないぐらいの小声でそう話すと、ギギラは寝ぼけた顔でガバっと立ち上がった。
「バラン君。水掛けて」
「えぇ……」
「早くぅ。そうすれば少しは目が覚めえるから」
「まったく」
バランはそう言うと、水の魔弾をギギラの顔に向かって発射した。
もちろん、威力は控えめに調整して。
顔面に冷水を掛けられたギギラはブルブルを頭を振って濡れた髪から水分を吹き飛ばす。
「いや~さっぱりした。シャキッとする感じ」
「そりゃよかった。いつも通りならあと20分ぐらいで飯が来るからそれまでー」
「ねぇバラン君」
「……なんだよ?」
「髪乾かすから魔法で炎出してて」
「俺はなんでも出来る便利道具じゃねーんだぞ!!」
そんなバランの抗議もむなしく、ギギラは
バランは自分の先端から出る炎がギギラの髪を焼いてしまわないかひやひやしながら時間を過ごす事となった。
◇
「うーん。良いね良いね!!やっぱり独房の中でも髪の毛の手入れはしないと」
「おま、ほんと人使いが荒いよな」
「バラン君の場合は……人使いじゃなくて杖使い?」
「どっちも意味的には変わらねぇよ!!」
疲れ果てながらもツッコミをするバランをよそに、ギギラは久しぶりに手入れした自分の髪を嬉しそうに触っていた。
「そう言えば、残飯が送られてきてた時は毎日バラン君をこき使ってたねぇ」
「もはや懐かしいな。今はまともな料理食べれてるし」
「ね~。今から残飯に戻されても体は受け付けないかも」
二人がそんな話をしていると、タイミングよく独房のドアからノックの音が響く。
ジェーエルが朝食を持ってくる合図だ。
「気に入っていただいているなら良かったです」
「そんな無表情で言うセリフじゃないと思うけど?」
「すみません。私に感情が無いので」
「ハイハイ。分かったよ」
ギギラはジェーエルの言葉を適当にあしらいながら、彼女の持つ皿をひったくった。
今日の朝食は大きな鳥類の丸焼きだった。
「大きくて食べずらい……バラン君。これ切るから手伝って」
「おい待て。そんなもの切ったら俺ベトベトになるだろ」
「大丈夫だって。後で洗ってあげるから」
「その洗う水を出すのだって俺じゃねぇか!!て、ちょ、おい、は~な~せ~」
ギギラから必死に逃げようとするバラン。
しかしその抵抗もむなしく、すっと捕まってしまった彼は先端の刃で丸焼き肉を切り裂く羽目になった。
「相変わらず、仲がいいのですね」
「当り前じゃん。だってギギラ達恋人なんだよ?」
「……それはいい事です。せいぜい、今の内に幸せをかみしめていてください」
「何それ?」
ギギラの問いには答えず、ジェーエルはすっとその場を去った。
「今日もあなたは決闘です。これが最後の晩餐にならないと良いですね」
そんな不穏な言葉だけを残して。
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