第20話 『たまにはこっちの視点も面白いよね』

 「またにはギギラ・クレシア以外にも目をつけてあげないとね」


 意味深な独り言を告げながら『目無し』の女は廊下を歩く。

 行く先は一つの独房。

 そこで待っているのは、ギギラ・クレシアとは別の女性だ。


 「にしても、死刑囚に料理を作って持っていくのが犯罪になっているとはね。しかも死刑にされかねない大罪だよ。ジェーエルは補佐官の仕事だとか言ってたけど……可哀そうに、自分がこの後どんな役割を与えられるのか知らないんだ」


 クスクスと笑いながら『目無し』の女は進む。

 その両手の上には、沢山のサンドイッチが並べられていた。


 「まぁ、知ったところであの子は感情無いらしいから、面白いものは見れないかもね」


 独り言をぼやいている間に目的の独房へたどり着いた。

 『目無し』の女はその重い扉を開け、中に居る人物に声をかける。


 「グッドモーニング。調子はどうかな?」

 「待ってましたよ『目無し』様。私、今日の朝ごはんすごく楽しみにしてたんです」

 「それって、私が朝食を持ってくる事を知っていたからかい?」

 「もちろんです!!」


 独房の中に居たのは、『目無し』の女と瓜二つな姿をした女性。

 服装も、死刑囚の服ではなく『目無し』の女と同じフードを着込んでいる。


 唯一違う点があるとするならば、彼女の顔には『左目』が存在することだろうか。


 「相変わらず元気だね、贋作がんさくちゃんはさ」

 「ええ。私はあなた様から【偽物の禁術】を頂いたあの日からずっと元気ですとも」


 贋作がんさくと呼ばれた少女は明るく、元気よく返事をしながらサンドイッチをむさぼった。

 その様子はさながら子供の様である。


 「今日、特別な許可を経て私に会いに来てくださった事が嬉しいんです。私を頼ってくださってる証拠じゃないですか!!」


 「まぁ、あながち間違いじゃないかもね。その様子だと、私が君に頼もうとしている事だってわかっているんじゃないのかい?」


 「もちろんです……でも良いんですか?ギギラ・クレシアを殺しても。あの子って確か『目無し』様のお気に入りでしたよね」


 「お気に入りだからこそ、試練を与えてもがく様子を楽しむのさ」


 ニタリと口角を上げながら『目無し』の女は微笑む。

 その様子を見て、つられて贋作がんさくも微笑んだ。


 贋作がんさくには『目無し』の女が考えている事が分かる。

 きっと自分がギギラ・クレシアを殺しても、逆に殺されても、『目無し』の女は同じ様に喜ぶだろう。


 「贋作がんさくちゃん。今日は君がコロシアムに行くまで一緒に居てあげるよ」

 「本当ですか!!うれしいです」



 彼女にとっては、お気に入りの二人が本気で殺しあうという状況そのものが極上の娯楽であるのだから。



 

 『男を捕まえては武器にして良い様に扱うクソビッチ!!ギギラァァァァ・クレシアァァァァァ』


 贋作がんさくがコロシアムに足を踏み入れる。

 目の前には例のギギラ・クレシアが立っていた。


 「ねぇバラン君……また女なんだけど」

 「そう露骨にテンション下げるなよ。これ一応殺し合いなんだからな?モチベが出ないとか言ってる場合じゃね~からな?」


 贋作がんさくはギギラ・クレシアの様子を見てどこかホッとしていた。

 

 「良かった。私の知ってるギギラちゃんと同じだ~!!」

 

 「会ったばっかりなのに随分と馴れ馴れしいね。ちなみにギギラは君の事嫌いだよ」


 「私だって君の事は嫌い。だって君が死んでくれたら、『目無し』様のお気に入りは私一人になるもん」


 贋作がんさくの言葉とかぶせるように、彼女を紹介する一文が大声でコロシアム中に響く。


 『自らを捨て、喜々として犯罪者の偽物の人生を歩く狂人。彼女の名前はとうに消え、今ではただの贋作がんさくへとなり果てたぁぁぁぁ!!!!』


 両死刑囚の紹介の終わりは殺し合いの始まり。

 贋作がんさくは一刻も早くギギラ・クレシアを殺すため、『目無し』の女の期待に添えるため、【偽物の禁術】を発動する。


 「疑似禁術起動」


 贋作がんさくの手元に現れたのは一つのワームホール。

 それは、いつもギギラが使用しているものと全く同じだった。


 「おいギギラ、あれって?!」

 「……なるほど、君の禁術はそういう感じなんだ」


 そのワームホールから現れたのは人の身長と変わらない大きさの弓だった。


 「レプリカ彼氏No44、【嫉妬狂いの風穿弓ふうがきゅうベイリル】」

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