第19話 獄中生活も変わりゆく
「いや~昨日はよかったなぁ。ギギラもあの女嫌いそうだったし、強敵も倒して一石二鳥だろ」
今日も今日とて独房の中からギギラ・クレシアの朝が始まった。
朝起きて早々に飛び込んできたのは、やけにテンションの高いバランの声だった。
「それにあの時使った魔法だよ。【声なし】って神様の力があったにせよ、俺の力を最大限に使えばあれだけの芸当が出来るって事の証明だよな!まぁ、人間の体が恋しくもあるが……俺の才能を開花させるのは杖の姿なのかもしれないなぁ!」
ギギラは寝ぼけ
「そうだねぇ。ギギラも、【声なし】様の力を貸してくれたミノト君も幸せだよ」
ギギラは知っている。
このハイテンションな状態のバランはちょっと面倒くさい。
元々バランは普通の冒険者だった。
そして、大きな夢を見がちな青年でもあった。
世の中を大きく変えるほどの才能があるわけでもなかったし、彼が繰り返した努力で得たものは少ないことが殆どだった。
それでも、『いつか大きな冒険者になりたい』という夢に対しては彼なりに真摯に向き合っていた青年だった。
だからこそ、自分が想像以上の活躍をした日なんかはこのように非常にテンションが高くなるのだ。
「実際、バラン君には無限の可能性があると思うよ。全属性の魔法が使えるってのは何度も言うけど破格だからね」
「そうだろう?そうだろう?」
「まぁ、バラン君とギギラだけじゃそれ組み合わせて複雑な魔法を使うってのは難しいけどね」
「急に現実を突きつけてくるなよ。もうちょっと長く夢を見させてくれよ」
「現実的な視点を持ってこそ夢は叶うものだよ~」
「おまっ……それはそうだけどさぁ」
浮かれているバランに水を差すのも久しぶりだなとギギラは微笑む。
彼を武器にする前の少し懐かしい日常が無機質な独房の中でもう一度花開いていた。
にぎやかに、それでいて和やかに過ぎていく二人の時間。
「今日は騒がしいですね」
それは無表情な一人の来訪者によって破壊されるのだった。
「君さぁ、また来たの?」
「はい。これが私の仕事ですので」
監獄長補佐官、ジェーエル・モランシー。
彼女が朝食を届けに来るのもこれで2回目だ。
「昨日の朝食はあまり好みではなさそうでしたので、今日は魚料理を作ってきました」
「ギギラが嫌いなのは料理の内容じゃなくて、君が朝食を届けに来ることなんだけど」
「そうですか。でしたら我慢してください」
ジェーエルは無表情のままそう告げると、床に朝食を置いた。
対照的にギギラは不愛想な顔で魚料理を口に放り込む。
状況こそ気に食わないが、料理の味だけは美味しい。
前まで来ていた看守の男が持ってきたならギギラは100点を叩き出していただろう。
「そういえば、お前俺たちに大金かけてるとか言ってたな。結構儲かったのか?」
武器の体になり食事をとれないバランは暇つぶしにとジェーエルに声をかけた。
なんなら、自分の功績を自慢しようとも思っていた。
ジェーエルが賭けに勝って大金を手にしたのは自分の活躍があってこそだと吹っ掛けながら。
「そうですね。お金が沢山増えました」
「うん、うん。そうだよなぁ……え、そんだけ?」
「はい」
しかし、ジェーエルは無表情のまま、微塵も興味が無い様子でそう言った。
バランはあまりにも想像とかけ離れた反応を見て困惑。
「他になんか無いのかよ。今日は美味しいご飯が食べられますとか、もう一生働かなくていいですとか、新しい武器を買えるとか……なんか喜ぶ事いっぱいあるだろ」
「それをすれば喜びが得られるのですか?」
「え……は、はい??」
「私は感情を持ってないので。意見を参考にしようと思いまして」
「何言ってんだこの人」
そうしている間にギギラが食事を終わらせてしまった。
「今日もあなた達は決闘です。今度はあなた達が負けるほうに賭けるのでよろしくお願いします」
ジェーエルはそれだけ言葉を残すと皿を回収して去っていった。
「なぁギギラ」
「どうしたのバラン君」
「俺あいつ苦手だわ」
「ギギラも」
残された二人はため息をつく。
これから毎朝アレが来ることになるのかと愚痴をこぼしながら。
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