第26話 死刑囚 ゴルド・シルバ
『男を捕まえては武器にして良い様に扱うクソビッチ!!ギギラァァァァ・クレシアァァァァァ』
いつものアナウンスを聞き、いつものコロシアムに足を踏み入れる。
血なまぐさい戦場も、ここまで通えば実家の様な安心感さえ感じてしまう。
そんな心境の変化を感じながらギギラはバランと空を見ていた。
「ねぇバラン君。あの声よく響くよね」
「そりゃぁ、司会やってるんだから聞こえないと意味ないだろ」
「でも不思議じゃない?アーティファクト使ってる可能性だってあるし」
緊張感の欠如した会話が続く。
そんなのんびりとした二人の空気を壊したのは、コロシアムに響くもう一つの足跡だった。
『神出鬼没の切り裂き魔!!ゴルド・シルバァァァァァァァ!!!!』
そこに現れたのは、ワイルドな金色の長髪を携えた男だった。
その身体は大きく、目にともった光は薄暗い。
「ねぇバラン君見て!!男の人だよ男の人!!」
「あ~うん。よかったな」
ギギラの目は対照的に輝いていた。
彼女はバランの棒読みなど意味に解さず、ゴルドに話しかける。
「初めまして、ギギラだよ~」
「……」
ゴルドはそんなギギラをじっと見る。
それは獲物を見定める目でもなく、相手を観察する目でもない。
「人間はよく笑う。お前と同じような顔をした奴をたくさん見てきた」
哀れなものを見つめる、軽蔑の目だ。
「俺はそんな人間の事が嫌いだ」
その言葉を放った直後、突き刺すような殺気がギギラに迫る。
ギギラは殺気を感じた方向に体をひねり、バランに魔力を込める。
「そっか。でもギギラは嫌いじゃないよ、敵意むき出しな感じもね」
その魔弾はある地点でパァンと破裂すると、小さな砂嵐を発生させた。
その砂嵐の中で、ギギラを襲う斬撃が姿を現した。
「ここだね」
甲高い金属音と火花散り、ギギラの体は少しのけ反った。
「ギギラ、これ思ったより威力高くないか??」
「そだねぇ……飛ぶ斬撃だと思ってたけど違うみたい」
「お、もう相手の能力が分かったのか?」
「まぁね。でも一つ問題があって」
「なんだよ」
「このままだとギギラ達力負けする」
「はぁぁぁ?!」
カキィンと嫌な音が鳴った。
それと同時にバランが後方へ吹き飛ばされる。
「やべ?!」
今のギギラ・クレシアは丸腰だ。
それに加えて体制も崩されている。
「まずは一人。これで終わりだ」
これ以上にない隙が晒されていた。
普通の人間であれば、3秒後には首が切られている。
防御不可能の体制、まさに絶体絶命。
「この前はあの女が粗悪品の偽物なんか使ってたからさ~。ここで本物の力って奴を見せてやろうよ、先輩」
しかし、今まで何度も見てきた様にこの女は普通ではないのだ。
70人の彼氏を武器に変え、保管する。
愛に狂った死刑囚。
彼女の引き出しは彼女の愛の数だけ存在する。
ギギラにとって、こんな状況は隙でも絶体絶命でもなんでも無いのだ。
「彼氏No4、【
ギギラの背後から現れるワームホール。
そこから現れたのは両手に巻き付く鉄のグローブ。
「暗殺拳:流撃」
ギギラは崩れかけた体制のまま地面を蹴り、空中で体をグルリと回転させる。
鉄の拳は見えない斬撃を弾き、勢いよく振り落とされた足は虚空を蹴った。
虚空を蹴ったはずのギギラの足に何かを蹴った感触が伝播する。
「へぇ、姿を消してる訳だ。意外と恥ずかしがりやさんなのかな」
「チッ」
先ほどまで何もなかった空間にゴルド・シルバの体が浮かび上がる。
それと同時に、もともと視界に捉えていた彼のシルエットがフッと消えた。
「これ幻覚って奴かぁ?厄介じゃね」
「視界に頼りっきりだからそうなるんだよ。バラン君はもっと耳を澄ませて戦わないとね」
ギギラの元にフワッと飛んで戻ってきたバランがその切っ先をゴルドに向ける。
そんな彼とは対照的に、ギギラはリラックスした体制でゴルドの事を見つめていた。
「面倒な奴だ。あのまま殺されていたら良かったものを」
「まぁまぁ良いじゃん。今の攻撃が無かったら、お互いに相手を知らないまま殺し合いが終わる所だったよ」
ギギラは人差し指をビシッとゴルドへ向ける。
気分は推理小説などに出る探偵と言った所だろうか?
「ギギラさ、今このグローブになってる先輩と狩りをした事があるの」
「急に何の話してんのお前?」
適切な疑問を投げかけてくれるバランはさながら名脇役の様。
「その狩りの時に聞いた音と、君と戦ってる時に聞こえた音が同じなんだよね」
「……お前」
「狩った獲物の名前はウルフリーパー。鎌の様な爪を持ち、俊敏な動作で敵を狩る森の王者。ゴルド君、君の正体ってこれでしょ?」
ゴルドは深いため息をつく。
もう隠す必要もないとでも言うように、その両手を
「まったく……どいつもこいつも。鬱陶しい人間ばかりだ」
ゴルドの腕に生えている毛を見てギギラは目を見張った。
本来のウルフリーパーの毛並みは黒に近い茶色であるはずだ。
しかし、ゴルドの毛はその名が示すように美しい金色であった。
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