第5話 帰り道(2)

 もともと目立つ目をさらに見開いている。

 そうするとその目のふしぎな青色がどうしても目につき、未融みゆはどきっとする。

 「言ったよ」

 決めつける。

 「いや、言ったっていうか、未融が勧めてくれたんじゃん?」

 「え?」

 そんな覚えはない。

 だから、きく。

 「いつ?」

 「だからさ、四月の文系理系プレ選択のときにさ」

 「うん?」

 ますます覚えがない。

 ここの高校では、最初から特別進学コースや国際理解コースに入らなかった生徒は、三年生で文系コースと理系コースに分かれる。

 でも、基礎ができていないと、コース分け後の授業について行けない。そこで、二年生の二学期から、その準備のために、重点を文系にするか理系にするかの選択をすることになっていた。それをプレ選択という。

 その説明が四月の連休前にあったのだが。

 未融は、数学は苦手だし、物理も化学もよくわからないので、という選択で文系を選ぶことにした。

 といっても、国語は得意じゃないし、公民とか歴史系とかは暗記が多くていやだ。とくに公民とかは内容にぜんぜん興味が持てない。

 文系も理系も避けて通りたい。

 文系にも理系にもある英語は、さらに苦手だ。一ページ、上から下まで英語なんて文章、人間が読むものじゃないと思う。

 いや、生まれつき英語のひとにとっては「読むもの」なんだろうけど、それは理屈ではわかっても、やっぱり人類が読むものではないという感覚は変わらない。

 けっきょく、理系の数式とかと文系の暗記とかとで、どちらが「避けて通りたい」度が高いか考えて、文系にしたのだが。

 そのプレ選択のときのことだ。

 そんな気もちを未融が言う前に、瑠璃るり

「うぅん、迷うなぁ。文系も理系もおもしろそうだからなぁ。どっちか一つにするって、そんな選択しろって言われてもなぁ」

なんて言ったのだ。

 それだけではなく

「そんな選択を迫るなんて、おかしいよ」

と言い、笑ったのだ。

 いきなり、くしゃっと。

 それは覚えている。

 それが四月のことで、それから二か月が経ったいま、瑠璃は言う。

 「あのとき、わたしが文系か理系か迷ってたら、未融が、それじゃ留学にすれば、って言ったんじゃん?」

 「はい?」

 言った?

 「言った」

 もういちど確認する。

 「言った?」

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