第6話 帰り道(3)

 「うん。言った」

 瑠璃るりはふしぎな青色の両目をまじめに見開いて未融みゆを見ながら歩いている。

 ちょっと怖い。

 その目力でトリガーを引かれて、やっと思い出した。

 「ああ」

 ふう、と息をつく。ため息に混ぜて言う。

 「あれ、冗談だったんだけど」

 冗談だった。

 だいぶ前に見たアニメ映画の一場面をとっさに思い出して言ったネタだったのだけど。

 「えーっ!」

 瑠璃は、ぱた、と足を止めた。

 その反応は、さっき見つめられたときの予想の範囲内だ。

 「冗談だったの? わたし、本気だと思ったんだよ!」

 大声で強調する。

 「未融が留学がいいって言うなら、やっぱりわたしって留学が向いてるのかな、って」

 「いや、瑠璃に留学は向いてると思う」

 べつに取りつくろっているつもりはない。

 「英語、すごいできるし」

 「すごい」と言っても、やっぱり上位十番には入らないけど。

 でも、瑠璃の英語は、ほかの成績のいい子の英語とはぜんぜん違う。

 流れるよう、というより、「習ってしゃべってます」という感じがぜんぜんしない。ネイティブのようかというとそうでもなく、わからなくなって日本語で「え? なんだっけ?」とか言うこともあるのだが、それ自体が英語の流れに吸い込まれている感じがある。

 「それに、瑠璃は、ひとを傷つけないで自分の主張を、ちゃんとできるでしょ?」

 ま、傷つけることは傷つけるが、そのぶん、自分に返って来るのは受け止める。

 「そういうひとは、やっぱり留学を目指すべきだと思う」

 「でも、冗談だったんだ」

 瑠璃は繰り返す。それは事実だ。

 「うん」

 二人とも、気まずく、黙る。

 二人とも目を伏せる。瑠璃の胸のあたりの起伏がきれいで、その下のシャツのしわのつき方がやっぱりきれいで、青いスカートまでほこりひとつついていないと見えるくらいにきれいで……。

 先に歩き出したのは瑠璃だった。斜め後ろを未融がついて行く。

 車がやっとすれ違えるくらいの道が、小さい雑木林を突っ切る。夕方までまだ時間があるが、林に遮られて日は射さない。

 先に行く瑠璃が軽く振り返ってぽつんと言った。

 「謝れ」

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