同人誌版のあとがき


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 『未融みゆ瑠璃るり』は、2020年5月に開かれる予定だった同人誌即売会の新刊として刊行した小説がもとになっています。

 今回、「カクヨム」で公開するに際して部分的に手を加えましたが、あらすじに変更はありません。

 ところが、この時期の同人誌即売会は、新型コロナウイルス感染症の流行とそれに伴う緊急事態宣言を受けて軒並み中止となりました。

 参加するつもりだった即売会も、『未融と瑠璃』の同人誌版の入稿の時期にはもう中止は判明していましたが、私はあえてイベントが開催されるものとしてこの本を入稿しました。

 対面での入稿ができた印刷会社にファイルを持ち込んでの入稿でした。マスク着用必須、入室時には手指消毒をして、透明シート越しにやり取りするというものものしい雰囲気でした。

 「コロナ禍」の日々を忘れないでいたい、という思いもあり、そのときに書いた「あとがき」をここに公開します。

 なお、この文章も、限られた紙幅に収めるために、つづめたためにわかりにくい表現になっていたり、改行せずに詰め込んだりしていたところがありました(とくに「山の麓の高校」の説明)。今回はそれらの部分について手直しをしていますが、小説本文と同様に、内容は基本的に当時のままです。なお、即売会の宣伝と受け取られるのは本意ではないので、具体的な即売会名への言及ははずしました。

 この「同人誌版のあとがき」の後に、カクヨム版の「あとがき」を掲載します。

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 この本をお手にとってくださいまして、ありがとうございます。

 清瀬です。


 私が高校生だったころ、高校の三年間を短いと感じたことはありませんでした。そのころの感覚を思い出してみると、むしろその三年間はうんざりするほど長かったと思います。

 「学業」だけでなく、友人関係とか、家族との関係とかも含めて、もちろん全体としては楽しい時間だったと思いますが、でも時間の経つのは遅かった。そして、そのころ、卒業後の進路は考えていましたが、じゃあ卒業したらどんな時間が来るのだろう、なんてことは、いま思うと十分に考えてはいなかったと思います。


 ところが、いまになってみると、三年間という時間はあまりにも短い。「今年も即売会に出すものをあんまり書けなかったな」という年を三回繰り返すとあっという間に三年が過ぎてしまいます。

 その同じ時間を、いま現在の高校生はやっぱりうんざりするほど長い時間として過ごしているのでしょうか。


 いまの私の感覚で「高校三年間という時間はじつは短くて、人生に二度とない貴重な時間なんだよ」と決めつけたくはありません。

 そうではなく、その時間の感覚をできるだけそのままに切り出して描いてみたい。

 そう思ってこの物語を書きました。


 ところで、以前、山の上にある観光地に行ったとき、その山の麓に高校があるのに出会いました。自然豊かな場所にある学校なんだな、と思いましたが、通うのはたいへんそうです。駅からその高校まで行くのに、バスを使ってもけっこう時間がかかるし、学校に到達するまでのあいだも上り坂が続きます。学校を通り過ぎるともう山登りの観光地モードです。

 遠くから通っている生徒たちも多いらしく、その観光地からの帰りに通りかかると、バスを待つ生徒の長い列ができていました。 

 一方で、ある先生の公開講義があって訪れた都心の大学は、大学自体が高層ビルの中に入っていて、学生たちが高速エレベーターを使って教室を移動していました。

 いろんなところにいろんな学校ってあるものだな、という驚きも思い出しながらこの物語を書きました。


 いつもの定型的なあいさつですが、今回は、この本を手に取ってくださっている貴方にも、この本を印刷してくださった印刷会社さんにも、即売会のスタッフの方がたにも、同人誌即売会を実現してくださっている数多くの方がたへの万感の思いをこめて。

 それでは、また次の即売会で、ぜひともお目にかかりましょう!


 2020年5月

 同人誌即売会運動の前途を祝して

 清瀬 六朗 

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