第19話 都心のカフェテリアのテラス(6)
「で、大学いるあいだぐらい日本文学ってちゃんとやろうと思ってさ、それで」
また
未融は言った。
「冗談じゃなくて言うけどさ」
最初にこう断っておいたほうがいい。
「
「いまごろ気づいた?」
瑠璃はまたコケティッシュに笑う。
「あのとき、変わってたんだよ。あの、最後に二人で帰ったとき。だって、冗談だった、でも留学すべきだ、って言われて」
いや、「留学すべきだ」とはちょっと違ったと思うんだけど……。
留学が向いている、と思ったのだ。
「あまりに言い返すことばがなかったんだよね。だから、べーっ、とか、ふんっ、とか」
ちょっとことばを切る。
「自分にいら立ってた。うん。自分自身にいら立ってた。いつもなら、どんな理屈でもことばで切り返すのに、どうしてできないんだろうって。あのときに変わったんだよね。でも、それを未融に気づかれたくなくってさ」
「それでブロックしまくったの?」
「えーっ?」
瑠璃が大きい声を立てて抗議する。
「あんただってブロックしまくってたじゃん?」
「ああっ!」
先にブロックしたのは瑠璃だ。そして、ブロックしたままだと、未融が対抗してブロックしたことに気づくことはない。
では、なぜ気づいたかというと。
瑠璃がブロックを解除したからだ。解除してみると、未融がブロックしていることに気づいた、というわけだろう。
どう言い抜ければいいだろう?
「ほらそうやってまたことばで切り返す! やっぱり変わってないじゃん!」
「自分で信じてないこと言うな!」
都会の日射しが変わり、もともと日陰ぎりぎりだった場所に熱い日が照るようになっていた。
都会の高層ビルの端っこの空間にちょっと突き出ただけのオープンエアだから、しかたがない。
あの、食べ物を残しているとすぐに蟻が登場する自然豊かな高校とは違うのだ。
自然に還らないプラスチックのカップに入ったアイスカフェラテの氷が融けて水になっていく。
未融は、何かに引かれるように立ち上がった。
瑠璃は好奇心を装った笑顔でその未融を見上げていた。
瑠璃らしくないと思う。
「じゃあ、ことばで切り返すのやめるから、立って」
「うん」
瑠璃はすなおに立った。
大学のカフェテリアのテラスというオープンスペースでこんなのやっていいのかな、という常識っぽいものが働いたけど、すぐに判断ができた。
三年ぶりの再会なら、これぐらいいいだろう、と。
外国人ならもっと普通にハグするだろうし、瑠璃もそういう文化に慣れているかも知れない。
未融はことばをゆっくりにして、言う。
「留学に行くとき、行ってらっしゃい、って言ってなかったから、そこから言うね。行ってらっしゃい」
いじわるな、想像上の瑠璃を、ほんものの瑠璃へと押しつける。
「おかえり」
たぶん、瑠璃も、いじわるなエア未融をこっちへ同じようにかえしてよこしたのだ。
そして、現実の未融と現実の瑠璃は、胸をくっつけてハグしあった。
熱い太陽の下、そのくっつき合う胸や肩や腕の感覚は、熱くもなく、ひんやりと冷たくもなく。
ただ、温かかった。
(終)
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