第2話 初夏のウッドデッキ(2)

 瑠璃るりの細い指に力がこもって、またこってりソースバーガーの包みを持ち上げる。ピンク色のみずみずしい唇が大きく開いて、それでも口に収まらないそのバーガーを唇で押さえ、そして、がぶっとかじる。

 唇を小さく締めて、もぐもぐもぐと噛む。

 その彼女の肌を、にれの葉から漏れてきた日がせわしなく動いてで回す。

 つるんつるんのその頬……。

 瑠璃が顔を上げてその未融みゆの顔を見そうになったので、未融はあわててナポリタンを巻いて口に送り込んだ。

 がぶがぶがぶと噛む。

 だめだ。まるでなってない。

 どうやっても、瑠璃のように、きれいに流れるようには食べられない。

 ウッドデッキの向こうは食堂で、窓は全面ガラス張りだ。

 ウッドデッキのテーブルも半分くらいは埋まっていたし、ガラスの向こうの食堂でもここの生徒たちが同じように昼ご飯を食べている。

 ふざけ合っていたり、一人で本を読みながら食べていたり、さまざまだ。

 さて、何を話そう……。

 そのとき、スピーカーから、どこか音がずれているような呼び出し音が流れた。

 その音に続いて、先生の声で

「二年四組の鵜方うがた瑠璃さん。二年四組の鵜方瑠璃さん。職員室まで来てください。繰り返します。二年四組の鵜方瑠璃さん、職員室まで来てください」

と呼び出しが流れる。どの先生の声かはわからなかった。たぶん未融が習ったことのない先生だろう。

 「ん。わたしだ」

 大きくかじったこってりソースバーガーを飲み込んで、瑠璃が反応する。

 ま、二年四組の鵜方瑠璃というと、この瑠璃しかいないな。

 二年四組でなくても、呼び出されるような鵜方瑠璃はこの瑠璃しかいない。

 「なんか悪いことやった?」

 未融は無遠慮にきいた。

 「わかんない」

 無邪気に言って、瑠璃は椅子を引いて立ち上がった。

 「わたしってわりといろんなところで恨まれてるから」

 それは事実だ。そして、恨まれていても好感度が落ちないのが瑠璃の得なところだ。

 でも、いまのていねいな呼び出しの言いかたからすると、叱られたりとかではないと思うけれど。

 わからない。

 「悪いけど、行くね」

 瑠璃は言う。

 言って、環境に戻らなさそうなプラスチックのトレイの上を見た。

 トレイの縁を、早くも餌食えじきの存在をかぎつけたらしい蟻が行ったり来たりしている。

 なんて自然の豊かな学校だ!

 「あ、それ、未融が食べといて」

 「へっ?」

 未融の声はひっくり返っている。

 「それ」というのは、食べかけのまま、バランスを崩してそのトレイに置かれているこってりソースバーガーのことだろうけど。

 「だってもったいないじゃない? あ、あと、お茶も、もう蓋できないんだったら、未融がぜんぶ飲んで」

 言ってから、瑠璃の唇がゆがむ。いたずらっぽく。

 どきっとする。

 「授業中にトイレ行きたくなるからいや、とか言うのでなければ」

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