第9話 秋が深まって(1)

 雑木林の手前、自動販売機の並んだところで、未融みゆは足を止めた。

 この場所は、道の横が広場のようになっていて、まわりには家も何の建物もないのに、自動販売機だけがいくつも並んでいる。

 そこの販売機で何か買うか、迷う。

 秋になって日が沈むのが早くなった。このまま行くと駅に着いたころにはまっ暗かも知れない。

 冬服の上にコートを着ていても寒い。

 最近は駅まで歩くのがつらくなった。この雑木林から橋のあたりまで来ると体力が切れ、足を前に出すだけでとても体力を使う感じがするのだ。

 また風が吹きすぎる。

 そんなに強い風ではなかったが、スカートの下の足からは痛いくらいの冷たさがびりびりと伝わって来た。

 「やっぱり、何か買おう」

 小さく言って、左から二番めの自動販売機の前に立ち、ホットのミルクコーヒーのボタンを押す。

 がたん、と、何のデリカシーもなく出てきた金属のボトルを屈んで手に握る。

 「ひゃっ」

 火傷やけどしそうに熱かった。

 「中間、っていうのがないのか」

 その熱いのと空気の寒いのとで。

 こんなとき、瑠璃るりなら……。

 その先に考えが行くのを止めながら、未融はボトルの口をひねった。

 熱いボトルをしっかりもっていなかったからだろう。キャップがはずれたとたんにボトルを落としそうになり、あわててボトルを握り直したら、キャップが落ちた。

 ま、いいか。

 ところがいつまで経ってもキャップが地面に落ちた音がしない。ここは舗装の上に土がかぶさっていて、アスファルトほど硬くないけど、でも、落ちても音がしないなんて?

 そこに未融の斜め後ろからすっと影が近寄り、大きくなってきた。

 「きゃ」

 「はい」

 タイミングよく、やわらかい声が答えた。

 未融の前にはキャップが差し出されている。

 「あ。ありがと……あ。ありがとうございます」

 「落ちなくてよかった。こんな蓋でも、蓋がないとけっこうめんどうだからね」

 沼間ぬま先生は未融の顔をのぞきこむと、人なつこく、ふっ、と笑った。

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