第4話 帰り道(1)
噂はすぐに流れた。
たぶん、噂の元そのものが、流れるのを止めないからだろう。
悪い噂ではない。
「
悪い噂もちょこっとくっついている。
「あの鵜方さぁ、先生にもうるさがられて、カナダに島流しだって」
その悪い噂の口ぶりをまねて、瑠璃が言い、得意そうに笑う。
帰り道、
学校から駅までは遠くて、歩くと三十分もかかる。
バスもあるのだが、下校のときのバスはいっぱいになる。隣どうしに座れればいいけれど、席が離れてしまうとつまらないし、座れないと最悪だ。坂道で、狭い道で、しかも舗装がだいぶ傷んでいるので、ひっきりなしに大揺れする。体力を鍛えるにはいいかも知れないけど、その大揺れに十分以上も耐え続けて三百円とか払うのなら、歩いたほうがましだ。
それに、歩いて帰れば、三十分、いっしょにいられる。だから苦にはならない。
未融も瑠璃といっしょに笑う。
「島流しって、カナダって大陸でしょ?」
と言う。
瑠璃が目を細めて未融の顔を見た。
「そこ?」
と言われても、わからない。
わからないから、すなおにきく。
「どこ?」
「いや、だから、島流しって熟語っていうか、たとえでしょ。シベリアに島流しとか言っても、シベリアだって大陸じゃない?」
瑠璃はたしなめるように言う。
「まあ、そうだけど」
いや、「シベリアに島流し」も言わないだろう、と思うけど、いいことにする。
瑠璃は言う。
「言いたいのは、鵜方瑠璃は危険人物だから、遠いカナダに行ってもらおう、って意味、ってこと」
「ああ」
瑠璃は、自分で自分を危険人物と言って、笑っていられる。
「いや、それはわかってるんだけど」
未融は笑うのはやめた。
「でも、プリンセス・ジョーンって、うちの提携先でも難関でしょ? 瑠璃が英語ができて、ほかの科目も成績いいから、選ばれたってことじゃないの?」
「そうだろうけど」
瑠璃はこういうときに謙遜しない。
でも、瑠璃の成績は学年一というわけではない。たぶん十番にも入らない。もっとも、
よく知らない。
でも、このプリンセス・ジョーン高校への留学は、ここの高校だけでなく、いくつかある系列校全体で一人、順位がつけ難いばあいに限って二人という人数制限じゃなかったかな?
それに採用されたというのは、やはりたいしたことなのだ。
「でも、瑠璃が留学申し込んでるなんて、知らなかったよ」
ぽろっと言った。
いや。
ぽろっと言ったように聞こえるように言った。
「えっ?」
ところが瑠璃は驚いたような反応を返した。
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