大失敗
お題を出され、それに合わせた演技を披露する。
俺の隣の人もそのまた隣の人も、迫真の演技を披露してみせた。それを見ているものは無条件で席に座る観客に、演技をするものがスターだった。
俺がイメージしているスターは俺だけではなかった、むしろ俺以外が全て完璧なのではないかと思えてしまう始末。
やめろ、集中するんだ。
もうマイナスなことを考えるのはやめろ!
黙れ、だまれだまれ。やめてくれ。
「あなたの役は、ピエロです。それでは再現お願いいたします。」
青い四角の箱の中から、面接官がゆっくりと拾い上げた紙には、ピエロと書かれていた。
俺の前の人よりも比較的簡単なお題に、俺はそっと胸を撫で下ろした。
なんてたってピエロは何度も練習をしていた。事前にだ。
完全に予習済み、あとはやるだけ。
たった、それだけなのに………
練習していた動作は頭に完全に入っていて、インプットが済んでいたはずだった。
しかし頭の中を何度探しても「ピエロ」の動作だけが出てこなかった。
代わりに出てきたのは「猫」や「犬」などの動物系から、前の人が披露していた「強盗犯」などで、ピエロに微塵も似ていないものばかりで役立たずであった。
「どうする、どうする。」ここで落ちればまた来年まで練習をすることになる、最悪の場合次も落ちるかもしれない。
不安が不安を引き寄せた。数珠のように連鎖して繋がっていった。
しかし不安を抱えるだけではなんの意味もない、状況は変わらないのである。ならば、一か八か………
いやダメだ!そんなのダメ!
俺は何を考えてる?ここで即興で「ピエロ」をやるなんてリスクが高すぎる、おとなしくお題をパスして次に出たお題を演技するんだ。
そうした方がリスクは低い。
リスクは、リスクは………
この時、アントワーヌは1人で謎の踊りを始めた。
どこの国の踊りでもない、誰の踊りでもない、即興で動いているだけのダンス。
次はどう動くかを考えながら踊るダンスは、とてもぎこちなく壊れた機械のようである。
「いいですよ、アントワーヌさん。もう大丈夫です、お座りください。」
即興のダンスは、周囲の少しの笑いを生み出しただけで、本人には何も良い効果はなかった。
面接は、大失敗に終わった。
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