ステージホール
「ただいまっ!」
開けようかと迷って見つめていた焦茶色のドアを開けて、俺はすぐに2階にある自分の部屋へと向かった。
「おかえりなさい。」
だるそうな顔で俺を見てきた母親がその通り、やはりだるそうな暗い声で呟いた。
最近…「ただいま」と言う意味がわからなくなってきている。俺が小さい時は明るく「おかえり」ってそう言ってくれたのに。今はあの時の癖で言ってしまう言葉を消したくてしょーがないのだ。
「はぁ…疲れた。」
今日はいろんなことがあった、濃厚な1日だった。怒られたけど、失敗したけど、なんだかそれすら喜んでも良い気がしてきたぞ。
それくらいに今日はいいことづくしでたまらないなぁ。もう母親のことなんて忘れてもいいかなぁ…「ただいま」なんてそんな薄い言葉を今更吐いたところで何にもならないよね。
「あ、そうだ…ルイ・ウィートンのステージの日付っていつだろ?」
「これ…か。」
バックの中から取り出したゴールドチケットはルイ・ウィートンと大きく書かれていて、その上にはキャッチコピーとされている、スターダムが書かれていた。
「あった、日にち!……は?え、これ、」
「今日っじゃん!?」
「うるっさい!!!」
ドア越しに怒号が聞こえたが俺はそれをあっさりと無視して別のことを考えていた。
開演は今から3時間後の夜20時。つまり、その夜20時までにどうにかして座席につかなければならない。
でも、夜の電車に1人で乗るなんてどう言い訳をすれば…
「こうなったら……」
◆
2時間後
そうだ、朝に俺は決めたんだ。こんな家からとっとと抜け出してやるって。ならば、これくらいのことはやんないと…絶対にダメだ!
部屋の隅に置かれたまんまのトランポリンに飛ぶのは何年ぶりだろう。なんだか緊張してきた。
いや、当たり前っちゃ当たり前!だって…2階から庭まで飛ぶんだもん!
俺は隠しているけど実は高いところが苦手なんだよなぁ………
「いいや、もう飛んじまえっ!」
窓を全開にして足が震えながらも庭に置いたトランポリンへとダイブをした。
「おっ、しゃあ!よし、よしっ!」
「後はこっそり靴を回収すれば…」
玄関のドアを音を立てないようにそーっと開いて置いてあった靴に手を伸ばした。
「やば…思ったより靴が遠い、、早く、早く。とどっけ、」
「なにしてんの?」
「っ!?」
玄関の真正面には何やら俺を泥棒のように疑うような真っ黒な目をした母が立っていた。
「…ばいばいっ!」
「ちょ、ちょっと!」
俺は音など気にせずに手を思いっきり伸ばして自分の靴を見事、手中に収めた。
「よし!いくぞ。」
ドアを叩き割るほどの勢いで閉め、急いで靴を履いてはすぐに駅へと走り出した。
ただ走るだけ、もっとだ、もっともっと!
朝とは違って今度は電車よりも俺が1番にこの街を走り去っていく…!
「よし、駅だ!」
あっという間に見えてきた駅に入って、パリ行きの電車になんとか飛び乗った。
「よっし、、これであいつからはとりあえず逃げられただろう…まともに追ってきてたかもわかんないけど。」
電車で行けばパリなんてすぐである。…薄暗い住宅街からあっという間に光だらけのパリの街へと窓の映像は移り変わる。この光景は何度見てもすごいかっこいいしドキドキもワクワクも止まらない…!
場所は…凱旋門の近く!ってことは駅からもまあまあ近い距離。今の時間はまだ多少の余裕がある、、、ゆっくり歩こう…
「やっぱ綺麗な街だなぁ。ここからあと20分か。…ん?てかあの人、」
「朝のおじさんだ…!でも、何やってるんだろ。あそこ、病院かな。」
街の中にあるどでかい病院の入り口には朝の赤い色の多いおじさんの姿があった。
病院の外からだからあまりよく見えないけど、どことなく辛そうな顔をしているようにも見えるような…。
「なにかあったのかな。」
「でも…今は行かないと!」
◆
そこから数十分と歩いてついに数々のスターがやってきたことのあるというホール…ステージへとやってきた。
やった。辿り着いたぞっ!楽しみだな…ルイ・ウィートンさんかぁ。どんなスターなんだろ、何歳だろ。
ていうか、スターダムって、なんだろ。
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