ありがちな話
パリンッ
ただでさえ気分が落ち込んでいるってのに、なんにも上手くいかなくてそれどころか全てマイナスな方向に向いてしまうのはありがちな話だ。
窓のそばに置いてある赤い花の入った花瓶を間違えて割ってしまったのはもう少しで帰れるという6時間目の時間。
肘にちょっとだけ当たっただけだ、本当にちょっとだけ。それなのに残酷にも花瓶は宙に放たれて床に落ちてしまった。
ボールで遊んでる時、ちょっと触れただけで突き指をするように、触れたその瞬間の痛みこそ0だが後でそれが大きなマイナスだったと判明するのである。
そうだ…これはよくある話。よくある話なんだから、気にしなくても…
「って馬鹿かよっ!気にするに決まってんだろ…!!」
俺は自分でもびっくりするくらいに落ち込んでいた。あのミスを、気にしていた。
「気にしてるのもあるけど、この雨じゃな…」
誰1人といない教室にぼそっと1人呟いた。
窓を見ればあいにくの雨。しかし、今日は家に傘を置いてきたわけで……当然のように傘をくれる友達もいないわけで。
そう、俺は教室で完全に孤立しているんだ。今だってたった1人で降り頻る雨を見ているんだよ、俺はひとりぼっちだ。
……なんでこんなんでパリのスターになろうなんて一瞬でも考えたんだろ。なれるわけ、ないのに。
「あれ?アントワーヌくん?」
「わっあああ!」
「ご…めん、驚かしちゃったよね。」
教室のドアを開けて俺に話しかけてきたのは俺の気になっている女子、マリンだった。
「どうしたの、、?こんな時間まで残って…もうみんなほとんど帰ってる、よ?」
「ちょっと先生と話してて、今から帰ろうかなって思ってたの。…アントワーヌ君はなんで残ってるの?」
「実は、傘忘れちゃって。あはは…」
なんだか顔が熱い…
「そうなの?じゃあさ、私、傘持ってきてるから入っていいよ!」
「え?本当?」
よっしゃあああああああああああああああ
全然うまくいかないとき、何か一つでもいいことが起こるととてつもなく嬉しくなるのもよくある話。
でもこれはあんま体験したことないぞっ、!
◆
心臓の音が、自分にだけ届いていますように。どうか聞こえていませんように。
マリンが傘を優しく持っている……これ以上はどうしても視界に入れることが出来ない。マリンの顔を見たいけど、恥ずかしさで今にも死にそう。目を背けちゃう。。
「アントワーヌ君?大丈夫?」
「え!?あ、うん…大丈夫だよ!」
「そう?ずっと下向いてたから…」
やべえ、なんか話しないと、、!
「マリンちゃん………ルイ・ウィートンって知ってる?」
「ルイ・ウィートン?知ってる!知ってる!今度ステージあるよね、パリで!」
「まじで!?知ってるの?ねえ、よかったらどんな人か教えて欲しいなって…」
「もしかして、アントワーヌ君もいくの?今度のステージ!」
「うん、いく。」
「なら、その時に話すね!ほら、私の家の近くまで来ちゃったから、ごめんね!」
楽しい時間はすぐにすぎるもので、
気付けば、いつもの駅の周りについていた。
「あ、これ…傘あげる!私、家近いから!」
「…いいの?」
「いいよ!私、走って帰るからまたね!」
「またね!」
またね………
出来ればずっと一緒にいたい、「またね」なんて言いたくもない。でも、そんなこと言ったら…ダメだよなぁ。
自分の自信とか、自分の中で相手の返事を想像して勝手に諦める。これも、ありがちな話だ…
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